ユウキを支えるもの


 俺は床の上に残っている灰の山の数を数えてみる。

 ひぃ、ふぅ……。


「火をつかった跡の数は……全部で5つか」


『仮にそれぞれのカマドを4人が使ったとしたら20人前後かな?』


「まぁ、そんなもんだろうね。すいぶんな大所帯でダンジョンに入るもんだ」


『一体何がしたいんだろうねー?』


「――答えは簡単ですよ。望むものを求めて、です。」


「『……ッ!!』」


 キャンプファイアーを確かめていた俺達の前に少年が現れた。


 肩がまだしっかりしていない、まだ少し子供っぽさを感じる体格。

 そして、決して美形ではないが、人懐っこさを感じさせる面影。

 間違いない。ユウキだ。


 しかし、見た目は間違いなく彼なのに、俺には猛烈な違和感がある。

 見た目はまるで同じなのに「これは違う」と、俺の中の何かが叫んでいた。


「お前は……ユウキ、なのか?」


「はいであり、いいえですね。この体はもともとユウキ君のものですが、今は僕が主導権を持って動かしています」


「その喋り方はファウストじゃないな……お前は一体何者だ?」


「それが……名前は思い出せないんですよね。なんていう風に呼ばれていたかは覚えているんですが」


「…………?」


「僕は――勇者と言います」


「『なっ!?』」


 ユウキが口にした「勇者」という言葉。

 俺にはその言葉に聞き覚えがあった。


 地獄門を越え、その先にいた存在、アルマに出会った時のことだ。


 アルマは俺たちに自分の人生(?)を語った。


 自分は別の世界で掘り出された、人の自我を収められる宝石に過ぎなかったこと。そして過ちを犯し、その世界にいた存在、勇者と出会って戦い、破れたこと。


 戦いに破れたアルマは、別の世界に追放された。

 そして、自我を持つが故に、永遠に悩み苦しむことに陥った。


 しかし、そこでアルマはあるものを見つけた。


 彼女を封印した張本人「勇者」の欠片だ。アルマはその勇者の欠片に触れ、人間の心を知った。勇者が何を考え、何をしたか。


 アルマを封印した上で、救済、人の心を教えた存在。

 それが「勇者」だ。


 だが、なにか妙だ……こいつからはなにか異様な雰囲気を感じる。


 アルマからの伝聞で聞いた勇者は、人の心を大事にして、誰かの願いや夢のために戦う、文字通りの勇者様って感じだった。


 だが、こいつからは……。

 なんだろう。言葉にできない気味の悪さがある。


 まるで別の世界の生き物と話している感じだ――

 いや、実際そうだったな。


「僕がユウキくんと出会えたのは、何か運命的なものを感じますね。彼の心は強く、それでいて空虚だった。なによりも――彼は僕に似ていた」


「だからそれが自分のものだって言い張りたいのか? ファウストにアレコレさせたのは、お前の意志だったのか? いや……ミラービーストもか?」


 俺の中で色々なものがつながり始めている。

 邪神ニャルラトホテプ。そしてファウスト、こいつ。


 あれらの目的は、根っこの部分に共通点がある。


「おまえたちは……アルマを消そうとしているのか?」


「消す……? 妙なことをいいますね。そもそもの話、あれは存在していない」


「何? だが、アルマは――」


「あれは取り込んだものを再生しているだけ。ヒトを模倣しているだけです。あなた達の世界にもあるでしょう。鏡やビデオ、そういうものが」


『アルマさんが自我の記憶を再生しているだけ、そう言いたいのですね』


「神気やスキルをばらまいているのも神様のマネっていいたいのか?」


「あれは神ではない。とても良く似ていますが、真似しているだけです。それが何かを知ってはいない。あれは無知、蒙昧に似ます」


 ……? どこかで聞いたような……まぁいいか。

 ともかく、こいつの言い分はわかった。


「勇者、お前は第十層まで行って、何をするつもりなんだ?」


「以前やったことを、もう一度・・・・しようとしています」


「つまり、アルマの破壊か。お前たちも無事ではすまないんじゃないか?」


「無事? それは肉体の無事でしょうか、それとも現在の自我の保持でしょうか」


「どっちもだ」


「であれば、そもそも手遅れですね」


「なんだと?」


「あなた方は既にあの存在の影響下にあるからです」


「…………」


 勇者とは話ができるが通じていない。


 この気味の悪さは……なんだ? 石しか食べられない生き物と、果物について話しているような、絶妙な話の噛み合わなさがある。


「なるほど。アルマから『こぼれた』連中が何でアルマと俺たちに敵対的だったのかわかったぞ……」


『ツルハシさん、私も大体読めてきました。私達はアルマさんの持つ自我から大なり小なり何らかの影響を受けている。つまりそれは……』


「勇者にとっちゃ、俺たち全員が魔王の手下ってわけか」


「なるほど、そうきたかい」


『角も尻尾も生えてないのにねー』


 人はアルマの影響を受けている。だからアルマ≒人であり、敵である。

 つまり、この勇者にとってはこの世界そのものが敵なんだ。


 ……そりゃ話が1ミリも通じるわけない。

 こいつにとっちゃ、この世界そのものが破壊の対象だ。


 いや待てよ……もう一つの可能性があるな。

 アルマが取り入れた自我は、アルマが封印されたことで巻き添えを食ってる。

 その自我を回収する――ってのもあり得るか? 

 

「そういえば……『望むものを求めて』と、言ったな? それはアルマが持っているもの、つまり、あいつが抱え込んでいる、大量の自我についてのことか?」


「さすがといったところでしょうか……アルマにたどりつくだけあって、ツルハシ男さんは、洞察になかなか鋭いところがありますね」


「そりゃどーも」


「何ということはありませんよ。最初は君たちに望むものを与えることにしたんです。僕らの心で変えるつもりだったんですよ。もう少し良い方向に」


「で、そうなったか?」


「いいえ。これでも誰かが『勇者』を必要としてくれると思っていたんです。教えることでヒトはもっと良くなり、お互いを理解して支え合い、壊れた世界を再建できるとさえ信じていた。しかしあなた方にとっての『正しい行い』とは、ただ孤独という感覚の飢えを満たすだけのことだった」


「それで?」


「率直に言いましょう。私はあなた達を軽蔑し、憎悪している」







※作者コメント※

いや、なんていうかその……

本気でやべーやつが来た(

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