ふたたび深層へ



「ふぅ……」


 ラレースたちと仮拠点で一夜を過ごしたが、特に何もなかった。

 ビックリするくらい何もなかった。


 いやね、水浴びした後は、そのままGomazonでゴハンを取り寄せて食べて、寝るだけだったからね。何も起きようがないわ。


 ……ちょっとは何かあっても良かったんじゃないかなー!?

 くすん。


 まぁいいや、さっさと出発の準備をしよう。


 俺はマスクを被ると、いつものようにマスクを操作して脱気した。すると、小さな「フシュ」という音と共に、首筋に軽く締め上げられる感覚がする。

 

 喉を押さえつけられるのは、あんまり気持ちのいいものではない。

 でもこれをしないと、熱気や毒がスキマから入ってきてサクッと死ねるからな。


 そして次に外骨格スーツを着る。しかしこのスーツは重みと厚みが凄まじい。

 さながら、象の皮を着ているみたいだ。


 いったん身に着けてしまえば重さは平気なのだが、それまでが一苦労だ。


<カシッ、カシンッ>


 俺はスーツを足元から着込んでいく。通常の外骨格スーツはペダルに足を載せ、脚の側面に金属製のシャフトを装備する。


 しかし、ラフィーナで作ってもらったものはフレームを内蔵しているので、普通に着るだけでいい。アーマーは一人でも着れるってのが大事だ。


 例えば、市街戦で部隊の盾となる守り手は、トーナメントアーマーというとんでもない重装備を着込む。そのアーマーは確かに防御力は戦車並みで凄まじいものがあるのだが、他人の手を借りないと、ヘルメットをかぶることすら出来ない。


 ダンジョンに潜る探索者は、そういう装備を使うわけにはいかない。

 防御力は欲しいが、軽さや着けやすさのほうがずっと重要なのだ。


「よし、と。」


「ツルハシもすっかりお大尽になったね」

『埠頭で初めてあった時はあんだけビンボーそうだったのにねー』


「フフフ……あのときの俺とは違うのが。なにせ今の貯金は――」


 俺は表示枠に出ている神気の残高を見せつけて、二人に勝ち誇る。が――


『子供の小遣いじゃん』

「こりゃラレースも苦労するね」


「うん? …………ほげぇぇぇぇぇぇぇ!?」


 億単位まで入っていた俺の神気はすっからかんになってる。

 慌てて履歴を見てみると、とんでもない金額の引き落としがあった。


 もちろん、そのほとんどはラフィーナへの支払いだ。

 ぢゅおおおおおおおお!! どういうことなの?!


大国主オオクニヌシィ! 説明を求む! なんじゃぁこりゃあ!!」


『そりゃお主、無理に無理を重ねて、突貫対応してもらったんじゃからそれくらいはかかるじゃろ? むしろ有情なくらいじゃ』


『ということらしいよ―?』


「ダンジョン内で使える外骨格スーツなら、それくらいかかるのが普通だね」


 ぐ……師匠が言うなら確かなんだろうな。

 本来なら地上でしか使えないものを使ってるわけだからな……。


 多少は覚悟してたけど、ここまで取るぅ?!


「また一文無しかよ……」


『ま、まぁ、落ち着いてくださいツルハシさん。

ナナちゃんのご両親から依頼の入金があるはずですから……』


「あ、そうか。またラレースにメシをたかる事になるかと思ったわ」


『もうツルハシには、恥ずかしいとかの意識がないねー』


「だね。こりゃ重症だよ」


「うるちゃい!!」


「朝からクソやかましいのー。こっちは夜通し作業しとったんじゃぞ? 少しは声を絞らんかい」


「ん、作業? ……あっ」


「ほい、ソウルスキナーをお前さんのスーツ用に調整しといたぞ」


 ジジイが手に持っているのは、ガントレットだ。俺に昨日みせた金色のフォーク、それを腕に着けられるように、小手に仕込む作業をしていたらしい。


「ウヒョー! さっすがジジイ!」


「ファファファ、ここが違うわい」


 骨の指で自分の頭をツンツンとつつくジジイ。


 その仕草に俺はちょっとイラッと来た。

 だが、今回はマジでジジイが頑張ってくれたようなので、俺は何も茶化さずにしておくことにした。


「ちょっとつけてみて良いか?」


「うむ、自分の小指を落とさんようにな」


「おい!?」


「冗談じゃよ。ちゃんと動くようになっとるわい」


「ホントかなぁ……」


『ツルハシさん、それは一体……?』


「ああそっか、ラレースたちは知らないよな……。今ジジイが持ってるのはソウルスキナーって言って、物体から『概念』を引っ剥がせるらしい」


「へぇ……そいつはとんでもないもんを持ってるね」


『じゃあさ、マジックアイテムの効果を引っ剥がせるってわけー?』


「うむ、もちろん可能じゃ。しかし残念なことながら、概念を知らんと区別ができんのよ。炎や氷はともかく、武器についている防御力アップの『概念』を、色や形としてお主らは理解できるか?」


『はい無理ー!』


「……なるほど、そいつを簡単にくれる訳だ」


『ツルハシさん、つけるのを手伝いますよ』


「ありがとうラレース」


 俺はスーツの腕を差し出して、そこに小手を着けてもらった。銀色の板を並べた小手の小指側に、金色の線が一本走っている。


 これはソウルスキナーだ。あのフォークの尻の部分にある不可思議な形状は、どうやらこの小手に仕込まれているバネ仕掛けに付ける為のモノだったらしい。


『どうですツルハシさん。きつくないですか?』


「ん、ちょっとキツイけど何とかなりそうだ」


 ベルトがキシキシいってるけど、革だしそのうち伸びるだろ。

 で、肝心のやり方だが――


「ジジイ、これ、どうやってソウルスキナーを突き出すんだ?」


「そこはほれ、小手の小指側にあるリングを引けば出る。後は緊急用として、殴っても出るようにもなっておる」


「なるほど、二段構えか」


<シャキンッ!>


 俺が小手を操作すると、手の甲の小指側から金色のフォークが突き出た。

 これを突き刺すってことか?


「これをどこに突き刺せば良い?」


「どこでも構わんが、できるだけ脳に近いと良いな。オススメは顎の下じゃ。ここは骨がないから通りやすい」


「うへぇ、なんかゾワゾワっと来た」


 小手をもう一度操作すると、フォークは元の場所に戻った。

 取りあえず動くことはわかった。後はやるだけだな。


「――よし、行こう!」







※作者コメント※

これってアサシンブレードじゃ……(

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