使用者責任


「とりあえず今日はもう遅いし、明日行動しよう」


『そうですね。ブッダリオンやユウキ君、彼らも動き続けているわけではないでしょうから』


「まさか仮拠点って、ここで寝るのかい?」


『スケルトンはともかく、ゾンビと添い寝はちょっとねー』


「いえいえ、この部屋じゃなくて、もう一つの部屋です」


 いくら俺でも、今の爺部屋では寝られんわ。

 手榴弾の爆発で腐った肉が超エキサイティングしてるからな。


「こんな臭い所で寝られませんよ。ジジイは鼻がないから良いけど」

「お主には良心がないけどな」


 ジジイのいつもの皮肉を受け流して、本棚を探す。


「えーっと……これだな」


<ズズズ……!>


 俺は壁にある本棚の一つを動かして、そこにある壁をツルハシで叩いた。

 すると、その先にひとつの部屋が現れた。


 細長く、殺風景で家具の少ない空間。

 久しぶりに訪れる仮拠点だ。


「狭いですけど、ここが我が家です」


『モンスターの部屋に居候するとか、流石ツルハシ。完全イッちゃってるねー』

「ま、そこらの奴がする発想じゃないね」

『ま、まぁ、ツルハシさんも考えに考えてのことでしょうから……』


 ……すまんラレース。

 わりとその場の勢いでやったわ。


「まぁ狭いですけど、一日くらいなら何とかなりますよね」


『でもベッドが足らなくないー?』


「おやおや……あたしは別にいいけどね」


『そういえば、仮拠点にはベッドが二つしか置いてなかったですね』


「ジジイ、大至急ベッド出して。今あるのはもらってくから」


「お主なぁ……もう怒る気も失せたわ」



 俺はジジイからベッドを奪って、なんとか4人とも寝られるようにしたが、もう一つの問題に気がついた。


 そう、入浴だ。


 仮拠点には水場が有り、汚れを落とせる様になっている。

 だが、この場の男女比は1:3。完全アウェーである。


 それはつまり――


「はい、出てった出てった」

「デスヨネー。」


 俺は女性陣が水浴びする間、仮拠点を追い出された。

 まぁ、うん。妥当ですよね。


 クッ、悲しく何かないぞ……!

 ラノベだったら、ここで洗いっこみたいなイベントが起きて――


 ……やめとこ。虚しいだけだわ。


「はぁぁぁぁ……」


「なんじゃ、お主でもため息をつくことがあるのか」


「そらそうよ。何で俺ってモテないのかな―」


「本気で言っとるのか? 表で言ったら殴り殺されるぞ」


「何で!?」


「女三人連れ歩いて、モテないはないじゃろう……」


「いやだって……仕事とか依頼とか、そういう都合だし」


「いやお主、それだって相手は選ぶじゃろ」


「あっ、そうか」


「前々から思ってたが、お主、人間不信がすぎるのでは……」


「うーむ……」


「そもそもお主のモテるっていうのはどういう意味じゃ? 人間は動物が毛づくろいのように意味もなく会話することがあるが、それをあやつらとしたいのか?」


「意味のない会話っていうと? 今日は良いお天気ですねみたいな?」


「誰々が何した、アイツは浮気をしてる。あいつはこんな事を言った。けしからんね、あなたはどう思う? っていうやつよ」


「……いやーそれは無い! 無いな! そもそもの話、そういう会話をラレースたちが好むとは思えん。あの子たち、めっちゃストイックだもん」


「何だかんだといっても、シスターじゃからの」


「俺に対して軽口いうバーバラさんだって、他人の悪口とか聞いたこと無いからな。あ、ソーチョーの件があったか。むしろ、それくらいしか無いわ」


「うむ加特系カトリックはそういうもんじゃ。したいか?」


「いや、全然。」


「じゃあもう一方か。まぐわいたいのか? コレよコレ」


「あらヤダ!! お下品!!」


「――で、どうなんじゃ?」


「シたいかどうかで言ったらそりゃーね? でも無理じゃないかなー?」


「でも寝床は一緒にしとるんじゃろ?」


「そりゃー安全のためですよ、お外は危ないからね」


「なんじゃ、根性ないのう」


「そういうのはね、もっと親しくなってからだと思うのよ」


「で、どうやって親しくなるつもりなんじゃ?」


「ギギギ……何もいえねぇ」


「何じゃ、諦めおって」


「じゃージジイは何かイイ! って言えるアイデア出せるのか?」


「……押し倒せば――ダメじゃな。体格差が有りすぎるの」

「物理的な問題!?」


「それこそ本人に聞いてみればいいじゃろ」


「え~恥ずかしいよぉ~」


「お主と女子トークしとるこっちのほうが恥ずかしいわ」


「それはそう」


「で、何を考えとるんじゃ?」


「あ、わかる?」


「お主との付き合いも、そう短いものでもないからの。阿呆みたいにふざけとる時は、大体それに釣り合う重みを持っておる。お前はそういう人間じゃ」


「年の功ってやつ? かなわんなー」


「始めてった時に良く似てきてるからのー。あのときのお主はひどかった。いや、その後も大概ひどかったが」


「何もいえねぇわ。っていうかまぁ……ユウキのことでな」


「おうおう、さっきも言うとったの。その小僧が人でないものになったことに、お主は責任を感じとるのか」


「まぁ……責任を感じるとか何とか、それ自体が偉そうな考えだとは思うよ」


「じゃろうな。」


「ユウキのやつは力を欲しがってた。しかし、信仰が人を変えることを恐れて、信仰を持とうとしなかった。そこを付け込まれたんだ。」


「ほう?」


「信仰を恐れたユウキは、ファウストから渡されたスキルを発動する武器を持たされた。そしてユウキはその武器がもつスキル、『概念』に飲み込まれた」


「ファウストの狙いは最初からそれだったんだ。信仰を持たない人間を探していたのは、自分の持つスキルをそいつに埋め込むことが目的だったんだ。何でそれをしようとしたかまではわからんが……」


「力を欲しがるものが力に飲まれる。ありがちじゃの。人のことは言えんが」


「ジジイもそれでダンジョン暮らしになっちまったからな」


「うむ。だが、ワシはこれを別に悪い事とは思っとらん。自分で選んだしの」


「そう……そこだ。ユウキは騙されたんだ。俺はそこに怒りを覚えてる。それをやったファウストに」


「誰か他人を自分が思う『良い』に従わせること。それは『良いこと』か?」


「うんにゃ、ぶん殴りたくなる」


「なんじゃ、芯はまだ残ってたか」


「芯?」


「何しろこれは、お前がワシに言ってたことじゃからな」


「あー、そういえばそんな事を言った気がするな……うん」


「それで?」


「……ユウキとそのスキルを引きはがす方法が、俺には思いつかないんだ。アルマが何とかできるのは、信仰を持っている奴らだけ。ユウキは信仰を持ってない」


「なるほど……スキルと小僧、その『概念』を引き剥がせば良いんじゃな?」


「おいおい、そんな簡単に……あるの?」


「簡単ではないが、ある。」


 ジジイは袖の中からある道具を取り出した。


 その手の中にあるのは、先端が二股になったフォークだ。金色の金属で出来ていて、握りの部分には何かに取り付けるための金具がついていた。


 あの質感は見たことがあるぞ……オリハルコーンだ。


「これはある実験器具でな、ソウルスキナーと言う。」


「まーた危なそうな。それがその――」


「物体から『概念』を引きはがす道具じゃ。ただしこれは少し曲者でな」


「そう簡単にうまい話はないよな。どういう問題がある?」


「使用者がその存在、『概念』を知り得ておらんと使えん。意味はわかるな?」


 なるほど。ユウキの存在、彼の『概念』を俺がしっかり持ってないと、彼のことを救えないってことか。


「……正真正銘、俺の責任になるってことだよな」


「左様。それができるか?」


「――おう」


「なら持っていくがよかろう」


「……ありがとうな、ジジイ」


「素直に礼を言うとか気色悪いのう」


「こう見えても、小学校の成績表には『素直な子です』って書かれてたんだぜ」


「それは他に褒めるところがなかったんじゃないかのう……」


「うっさいわ!」






※作者コメント※

やっぱジジイがヒロインなのでは(お目々ぐるぐる

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