密度が高すぎる


 さて、戦いが終わったら、面倒な死体の始末をしなければならない。

 だが、ここはジジイ部屋だ。面倒なことはジジイのシモベがやってくれる。


 シモベは坊主の死体を部屋の一角に集めたが、坊主は元より、この部屋にいるスケルトンとゾンビ、そしてジジイもみんなツルッパゲだな。


「この部屋、ハゲ密度が高すぎない?」

「お主もそうしてやろうか?」

「うん、シンプルにやめて」


『ツルハシさん、あのエーシャという武僧を尋問しましょう』

「あっ、そうですね。ジジイと遊んでる場合じゃなかった」

「お主の態度がどこまでデカくなるか、逆に気になってきたわ」


 ジジイはプンスコしてるが、かまってられない。

 今はユウキの手がかりを優先しよう。


「さて、こいつはどうしたもんかな」


「クッ……殺せッ!!」


 ――何故だ。


 この単語をオッサンに言われると、何か嬉しくないという気持ちが湧く。

 俺の中にある、深い部分が違和感を叫んでいる。


「フン……それはこっちが決めることだ」


「お主らは、本当に最低のクズだな!」


『「どの口で?!!」』


「自分のことをここまで棚に上げるとか逆にすごいな。頭痛くなってくるぞ」

「ワシもお主みてると頭痛くなってきたわ」

「それはともかく……ユウキという少年について知らないか」

「スルー?!」


「ふむ、あの化け物についてか」

「化け物?」


「なんだ、知っていて追いかけているのではないのか……? 唐突に我らのもとに現れ、ユウキと名乗った小倅こせがれのことよ」


「それは間違いないが……化け物ってどういう事だ」


「やつはダンジョンの入口で我らが『白狐会』とにらみ合っている時にふらりと現れた。そして我らに手を貸す代わりに、ダンジョンの中を進むのを協力しろと言ったのだ」


「じゃぁ……あの地上の有様はユウキがやったのか?」


「うむ! まさにあやつの仕業よ。我らが『本来無一物ほんらいむいちもつ』でスキルを封じているのにも関わらず、修羅のごとき戦いぶりであったわ」


「……待て、自力でスキルみたいな効果を発現したってことか?」


「おうよ。スキルを封じているのにもかかわらず、その身を使ってスキルと変わらぬ一撃を見舞っておったわ。その痛快なこと! ヌハハ!」


「具体的にはどういうスキル……じゃないんだよな、何を使ったんだ?」


「うむ。漆黒の剣を手に取り、目の前のものを真っ二つよ」


 うん?

 話が見えない。

 えーっと……ちょっと待てよ?


「ラレースさん、俺の解釈が違ってたら言って欲しいんですけど、スキルを封じていた状態でつかったってことは、スキルじゃないって事ですよね?」


『えぇ、もちろんそういう事になりますね』


「えーっと……モンスターのスキルも封じられてますよね、ジジイを見る限り」


「そうじゃな。封じられとらんかったら、あんな坊主共、すぐさま灰にしとるわ」


「でも、ゾンビやスケルトンは消えてなかった。なぁ、ジジイがアンデッドを作るのって、あれもスキルでやっているんだろ?」


「……おっ、そうじゃな。数日前に使ったきりじゃ」


「ゾンビはジジイの指示に従って、手榴弾に覆いかぶさって防いだから……つまり、ブッダリオンの連中が使う……えーっとなんだっけ」


「おう、『本来無一物』だ!」


「どうも。そのスキルの封印で封じることができるのは、『今』そして『これから』発動するスキルってことで良いんだよな……」


『ツルハシが言おうとしてることが、何となく見えてきたかもー』


「なるほどね。ブッダリオンの封印で防げないということは、ユウキって子は封印が発動する前に何かしていたってことだね?」


『ツルハシさん。彼の体にスキルが染み付いた、ということでしょうか?』


「あぁ。それも十分あり得ると思う。ユウキと戦いになった時、あいつは自分の装備で体を包んでたろ? あれが何か悪さして……ほら、考えても見てくれ、庭師だ」


『……あっ。ツルハシさんは、彼とは逆の事がユウキくんに起きていると?』


「ああ、推測だけど、そんな感じかな。俺にはもっと悪い想像もついてるけどな」


『っていうとー?』


「スキルの持ち主はファウストだ。やつがユウキに成り代わった可能性も、完全には捨てきれない」


『――ッ!!』


「ファウストって、あの『黄泉歩き』のことかい?」


「はい。その『黄泉歩き』です。やつは自分の装備を、信仰を持たない無地の人間に使わせていたんですよ。ユウキの他の二人はモンスターの姿のまま、帰ってくることが出来なかったみたいですが」


「自分の『予備』にしようとしてたってことかね?」


「はい。その可能性もあるかと」


『ありそー……庭師はこっちの世界の存在になりそうになった。逆にこっちの世界の存在があっちの世界のになるってことも有り得るんだよねー?』


「そういう事ですね……もしそうなってたらユウキは完全に――」


『待ってくださいツルハシさん。私たちが再びアルマさんに会いに行くのは、解決法を聞くためですから。聞きもしないで絶望することはありません』


「そうだったな。アルマなら……」


 まて、本当に何とかできるのか?

 アルマは自身の持つ人間の記録から再生しているといった。


 アルマがユウキのことを記録してなかったらアウトだ。向こうの世界から来た庭師はともかく、信仰を持っていない彼は、その可能性が高い。


 なんとか……できるのか?


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