今日は仏滅だぁオラァン!

「ウォォォン!!!」


『まさに獣そのものですね……!』

さとりどこいった!!」


 ブッダリオンのギャングメンバーたちは狂乱状態におちいっている。

 彼らは武器に噛みつくと、なにか意味ありげな謎の咆哮を上げた。


「ウパニシャッドォォッ!!!」

「アートマァーン!!!」


 言ってる意味はまるでわからん。

 だが、絶対こんな場で使って良い単語ではない!!

 そんな気がするぞ!!


 俺は一応ツルハシを構えた。師匠とバーバラさんなら、きっとなんとかしてくれると思うが、万が一ということもあるからな。


「ウォォォォーーッ!!!」


 ゆでタコみたいに真っ赤になった武僧が、ナギナタを振りかぶって突進してくる。

 ヤバイ、完全に目がイッちゃってるよ!!


『あ、そっちお願いー』

「えっ」


 ごくごく軽ーい感じでバーバラさんは俺に言ったが、何ということはない。

 銃剣で戦う彼女の横をすり抜けて、こっちに坊主が来ているのだ。


 ちょ、リモコン取ってくらいの感覚で、敵を任せないで!!


「仏敵キェェェェェェェェェ!!!」


<ガキィンッ!>


 猿叫と共にナギナタの一撃が来る。

 俺はそれをツルハシの柄で受け止めたが、ギリギリと押されていく。


 うぉぉぉぉぉぉ、なんつ―力だ!!?


 俺の着ている強化外骨格スーツは、使用者に人間の何倍もの力を与えるスーツだ。スキルが使えない今、俺のほうがちょっと有利なくらいだろう。


 だが、この坊主は、それを<ピー>だけで押し切ろうとしている。


 マズイ、このままじゃナギナタで真っ二つにされちまう……ッ!


 バーバラはもとより、ラレースも正面からやってきた坊主の相手をして、手が塞がっている。そして師匠も同時に3人の坊主を相手にしている。


 俺が自分の力でやるしか無いって……コトォ?!


 ――いや、できるかもしれない。


 俺が作ってもらった外骨格スーツは、使用者の意志がパワーになる。

 だったら――心を強く持てば良いはず!!


(……心を強くって言っても、怒りしか湧いてこねぇけどな!!!)


 血に狂ったブッダリオンがふりまく、理不尽な死と破壊。

 俺の中にはそれに対する怒りしかない。


 だが激しい怒りを覚えると、俺の腕や背中から何か目に見えないものが出ていって、それが俺を支えるような奇妙な感覚を得た。


「仏罰を喰らえッ!!」

「うるせぇ!! 今日は仏滅だぁオラァン!!!」


<キィン!!>


 えっ、何か知らんけど押し返す事ができた。


 両手でもったツルハシを力任せに前に出すと、坊主はたたらを踏んで下がった。奴の得物のナギナタは、持ち主の困惑を示すように刃が照り返す光が揺れている。


「な、なんだその力は……!」

「教えてやろうか――俺にもわからん!!」


 本当にこれで良いのかわからんが、スーツから力が湧いてくる。

 ならこの流れに乗るしか無い、燃え上がれ俺の怒り!!!


 ――俺は全然仏教に詳しくないが、こんな連中がちゃんとした仏教徒じゃない事くらいわかる。手榴弾を投げる坊主とか、聞いたこと無いからな。


 こいつらは自分が暴力を振るったり、快楽に溺れることに安心したいから仏教徒のフリをしているだけだ。仏教を「たまたま」選んだだけにすぎない。


 ブッダとしちゃ、いい迷惑だ。

 そして、俺たちにとっても。


 むくむくと湧き上がる怒りは俺の手足に力をくれる。

 そうか……これがそうなのか。


「ブッダに謝ってこぉぉい!!!」

「う、うわああああああッ!?」


 俺がツルハシと振り回すと、やつはナギナタでそれを受けようとする。

 だが不可能素材アンオブタニウムの先端はナギナタの刀身を真ん中からへし折った。


 俺はそのまま振り抜き、坊主の胸元に漆黒のツルハシの刃を埋める。


「うんぬぅ……!」


 俺が相手した坊主は、悶絶しながら床に沈んだ。

 これならほぼ即死だろう。


「こりゃ驚いたね。ツルハシが真っ向勝負で勝っちまったよ」


「非戦闘系の俺にとっちゃ、スキルが使えなくなるのはむしろメリットですからね。それならスーツの出来が良い、こっちが勝ちますよ」


『ツルハシさん、お怪我はないですか?』


『こっちも終わったよー』


 俺に声をかけた皆は、純白の装備にひとつの血の染みも乗せていない。

 うーむ流石だ。

 インチキ坊主たちとは、格が違いすぎる。


「リーダー格はどうしました?」

『あ、それならあそこに』


 みると、エーシャと名乗ったリーダー格の坊主が昏倒していた。

 ハチマキにした数珠が砕けている辺り、頭をガツンとやられて昏倒したのか?


「よかった。こいつにはまだ聞きたいことがありますからね」


『はい。ブッダリオンの幹部クラスのメンバーなら、ユウキ君のことを何か知っているかもしれません』


「結局こいつらって、自分と他人のスキルを封印して、好き勝手してた感じなのかな?」


『じゃないかなー? ま、ちゃんとした基礎体力づくりや、戦闘訓練やってるウチらには意味ないけどね』


『えぇ。私たち修道騎士は、スキルだけではなく、心と身体も備えることをモットーとしていますから。Deus lo Vultデウス・ウルト「神はそれを望まれる」ですね』


『完璧主義も大概にしてほしいけどねー。ま、今回はそれが役に立ったけどさ』

「稽古の甲斐があってよかったじゃないか」

『師匠のアレは……稽古っていう名前の虐殺だけどねー?』

「痛くなきゃ覚えないからね」


「……なるほど。こいつらは正真正銘、ホントの生臭坊主だったわけか」








※作者コメント※

仏教徒の方、本当に申し訳ありません(2回目)

下書き見せた身内に「メガテンよりも扱いヒドイ」って言われました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る