仏道バトル



『守ります! 金剛不壊――「ランパート」!!!』


「散ッ!!」

「応!!」


 真っ直ぐ突っ込んでくるかと思いきや、一部の坊主は左右に迂回してきた。


 ラレースの盾は強力だが、カバーできる範囲には限りがある。

 だから、側面に回り込もうというのだろう。


「師匠、奴ら回り込んでくるつもりっすよ!」

「左はアタシ、右はバーバラがやりな」

『ラジャー!』


「ムゥ、いかんぞ!! そいつらのスキルに気をつけるんじゃ!!」


(うん? ジジイの様子がおかしい。……あっ! たしかにジジイはボケてるが、スペック自体はバカ高い。なのに何で、この坊主たちは丸焼けになってない……!?)


「ラレースさん、まさかこいつら……」

『――ッ!!』


「くくく、どうやら気づいたようだがもう遅いわ!!」


 数珠をハチマキにした坊主が不敵に笑う。

 まさか、こいつがジジイの攻撃を防いだスキルの持ち主か?!


「我が名はエーシャ、お主が最後に聞く名よ!!!」


 エーシャと名乗った坊主が金砕棒を地面に突き刺す。

 すると、そこから黒い影が広がる。いや、あれはすみだ!


 墨をつけた金砕棒を地面にこすり付けた坊主は、そのまま床に何かを書きつける。


「バカモン! ひとんちの床で何しとるんじゃ!!!」


「そこはごめんなさい!!」


 割と素直。

 ちょっと好感が……いや無いな。


 何かを書きつけ終わった坊主はそのままスキルの名前を叫んだ。


「ゆくぞ! 何処いずこにか塵埃じんあいあらん――『本来無一物ほんらいむいちもつ』!!!」


 すると、文字を中心に黒いオーラが広がり、ラレースが展開した金色の盾がすっと消えてしまった。


「師匠、なんすかこれ!!」


「これは……スキルを無効化するスキルだね。なるほど、連中はこうして戦ってきたわけだ。これならスキルの強さやレベルは関係ない。単純に頭数の勝負になる」


「ゲーー!!!」


「ヌハハ! 仏道に敗北はなぁァァァイ!!!」


「お前は地上の白狐会にもこれを使ったんだな?」 


「御名答! 戦いをスキルに頼る軟弱者などぉ~! 厳しい仏門の修行をした我らの敵ではないわぁ!!」


 マズイじゃん、超マズイじゃんそれー!!!

 じゃあ、俺のスキルも封じられたってこと……?


 いや、待てよ?

 それならあの坊主たちもスキルが使えないはずじゃ……。


 地上はものすごい戦闘の跡があったぞ?

 いったいどうやって……。


<ピンッ><ピンッ>


「ん……?」


 妙な金属音がしたのでそっちの方を見る。

 それは手に手榴弾を持った坊主が、安全ピンを引き抜いた音だった。


「仏道グレネードを喰らえ!!」


「そんな仏道があってたまるかぁぁぁぁぁ!!」


 相手のスキルを封じて、剣や槍、そして爆弾で攻撃するのがブッダリオンのやり方らしい。いや、最悪すぎんだろ!!!


 濃い緑色をした金属製のボールが俺に向かって地面をコロコロ転がってくる。

 うぉぉぉぉぉぉッ!!!!

 死ぬ死ぬ、これはマジで死ぬ奴ぅ!!!!


「こりゃいかん!! ゆけい、ゾンビーズ!!!」

「「「ヌワァァァァン、モォォォォン!!」」」


 ジジイがそう指図すると、いったいどこに隠れていたのか、ゾンビたちがやってきて地面の上を転がって進む手榴弾の上にひょいひょいと覆いかぶさった。


 キャー! ゾンビさーん! イケメーン!


<ドコボゴズゴォンッ!!!!>


 手榴弾が炸裂するが、それに覆いかぶさったゾンビのお陰でこちらに被害はなかった。いや、被害あるわ、めっちゃ腐肉が飛んできてバイザーにかかった。


 ガスマスクしてるのにそれを貫通して10年くらい洗ってないトイレみたいな臭いがするけど、まぁ……爆発に巻き込まれて死ぬよりは100倍マシだし良いか。


「ヒュー! 助かったぜジジイ!」


「フン、爆炎で貴重な書物を焼かれたくなかっただけよ」


「またまた~」


「フゥン……仏道グレネードを防ぐとはやるな!!」

「ブッダに謝れ!!」


「エーシャ殿、い、一体どうすれば!!」

「我々の最強のジツが……!」

「なんの、我々にはまだ奥の手がある!!」


 いや、グレネードは術ではないだろ。純粋な物理攻撃だ。

 しかし奥の手ってなんだぁ?

 嫌な予感しかしないんだよなぁ……。


「これより我ら、涅槃ねはんに入る。」

「「「ハッ!!」」」


 おや、俺たちを取り囲んだ坊主たちが、懐から何か取り出したぞ。

 キノコ……?


「ハフッ! ハフッ!」「ムグ……」


 ブッダリオンの連中は猛烈な勢いでキノコを食べ始める。

 あ、あの、一応戦闘中なんですが……。


「なんかすごい勢いでキノコ食べ始めましたけど、何ですアレ?」


「赤色に茶色の軸。見た目はベニテングダケっていう毒キノコみたいだけど……そういえば、ブッダは最後に毒キノコを食ったとか何とか聞いたことがあるね」


「はぁ……何で毒キノコを食うんですかね」


「アタシに聞かないでくれよ。宗教上の理由ってやつだろ?」


「それ言われたら何もいえないですけど、これは絶対違いますよね?」


(……?)


「そういえば、やたら甘ったるい臭いがしますね。師匠。なんですこれ?」


「この臭いはヒヨスだね。ナス科の毒薬で、ヴァイキングのエリート兵士、いわゆるベルセルクが痛覚を鈍化させるために使っていたバトルドラッグだよ」


「ってことは……」


 キノコを喰った坊主たちの顔色が赤くなり、視線が定まらなくなる。そして、野生動物のよう吠えたかと思うと、口から泡を吹きながら武器に噛みついた。


「「ネハァァァンァァァッ!!!」」



「お前らもう、仏教徒名乗るの辞めろォ!!!!」









※作者コメント※

仏教徒の方がいたら申し訳ない(いまさら?

しかしこいつら、本当にブッディストなのかなぁ……

色々ごっちゃになってはっちゃけすぎである。

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