暗黒舞踏
探索者村を後にした俺達は仮拠点――
つまり「爺部屋」に向かっている。
爺部屋は第二層に降りるためのルートから外れた場所にあり、絶対に通らないといけない場所ではない。つまりここは、稼ぎたいやつだけが入ってくるところだ。
いっちゃなんだが、「オマケ」みたいな場所だ。
だから、爺部屋のまわりは普段から人の気配がない。
基本、ひっそりとしているハズなのだが……。
「喰らうがいい、死を
「悟りになーれ!」「悟りになーれ!」「悟りになーれ!」
「悟りになーれ!」「悟りになーれ!」「悟りになーれ!」
開け放たれた扉の先、爺部屋の中から何か聞こえる。
野太い声が重なる異様な雰囲気の合唱は、聞いているだけで肌が
「……何か聞こえますね」
『なんでしょうか、アレ』
「むぅ……あれは六道輪廻! まさか、まだ使い手が残っていようとは」
「知ってるんですか師匠!!」
「うん、まぁサクッと説明すると、仏道系のターンアンデッドだね。ラレースが前使っていたスキルの異名ってところかな?」
『なんで同じ効果のスキルを言い換えるんだろうねー』
「フツーにターンアンデッドじゃダメなんですかね?」
「そこはアレ、雰囲気ってやつじゃないかね。言いかえるだけならタダだし」
「しょーもないっすね……」
ちょっと怖いが、中をのぞいで見るか。
そーっと……。
「うわぁ……」
中を見ると、ハゲ頭の武装坊主がジジイを取り囲んで回っている。
が、ただのマイムマイムやフォークダンスではない。もっと邪悪な何かだ。
…………なんて説明したらいいんだコレ。
ジジイを取り囲んで踊っているブッダリオンは地面に並んでピクピク
うん、あれって踊り……踊りかぁ?
言葉ではなく、体を使って何かを表現する。芸術上の分類は踊りになるんだろうが……。「ああこれ、普通の人間なら絶対しない動きだろうな」って動作を、無秩序と秩序の間で行っているのを踊りと言っていいのだろうか。
この感じは、高熱を出した時に見ている悪夢を思わせる。
踊りというよりは、神経の動作に基づく意味のない反応であり、一定のパターンに基づいた混乱といったほうがいいだろう。
人によっては宗教的神性を見いだせるかもしれないが、俺にはムリだ。
(――う、しまったッ!!!)
すると、俺の視線はジジイの目玉のない眼窩とバッチリ目があってしまう。
いや、目玉がないのに目が合うのはおかしいけど。
ともかく、ジジイは素早く俺に反応した。
「お、オヌシ!! 良いところに来た、コレなんとかしてくれ!!」
「おいバカやめろ!! こっちを巻き込むんじゃねぇ!!」
ジジイのアホー!!!!
大声をあげるんじゃねぇッ!!!!!
俺はできるだけこの暗黒舞踏会に関わり合いになりたくなかったのだが、運命は残酷だ。ジジイのあげた声は、ブッダリオンのギャングたちの耳にしっかりと入ってしまった。
ぎゅるんって感じで、6つか8つのハゲ頭がこっちを向く。
くっそホラーなんだが!!?
「ヌゥ、地獄道に落ちた存在と会話と交わすとは――ッ!」
「死を欺きし者と交わるということは、すなわちモンスターぞ!」
「者ども、あやつも仏敵ぞ!!」
『だってさーツルハシ?』
「こうなると思ったよッ!!!」
「いやー、助かったぞい」
「こっちに押し付けんな!! ジジイ自慢の魔法でなんとかすりゃいいだろ!!」
「できれば苦労せんわい!!」
「へぇ、あんたはあのリッチと知り合いなのかい。フライング・ダッチマンの船長みたいに、ちっとは話のわかるやつかね?」
「ま、まぁそんな感じです。」
「そんじゃまぁ、ギャングよか、あっちについたほうが良さそうだね」
「ボーだ! ボーを持てい!!」
「ブッダの名において仏敵を討滅し
なんかハゲたちが元気よく動き出した。
さっきまでビクビク痙攣してたのは何だったんだコイツら。
まぁ、こうなっちまえば戦うしかなさそうだな。
俺はツルハシを出すと、正眼に構えて連中の出方を見る。
クソッ!! なーにが優秀な指揮官がいて、組織だった動きができるだッ!!
指揮能力の使い方、間違えてんだろッ!!
この世界において、金より貴重な指揮能力を「ふしぎなおどり」に浪費するとか、どうもブッダリオンは俺の想像を超えている。いや、あの踊りがなにかの訓練になっていて指揮能力の向上に役立ってるとか、そういう感じなのか?
もしそうだとしても、そんなアホみたいな連中には絶対に負けられない。
負けたくない。だって、なんか戦いに負けた以上に何かで負けた気がするもん。
『なんだか複雑です。アレに十字軍を宣言していいんでしょうか……』
『センパイ、フツーにやっちゃっていいと思いますよ? 神が与えた肉体の無駄使いとか、肉体に対する不敬罪とかで十分イケますよ』
「そこまで深刻なの!?」
ラレースが戦鎚と盾を取り出し、その裏でバーバラさんが銃を構え、師匠が遊撃の位置に立つ。声を掛けずとも連携が取れるあたり流石だな。
ブッダリオンの練度は大したものだが、こっちも引けを取ることはないだろう。
「フゥン! 異教の騎士か。相手にとって不足なぁぁぁぁしッ!!!」
大声を張り上げた数珠をハチマキにした武僧が、金砕棒を頭の上で振り回す。
どうやらあいつが、このギャングたちのリーダーらしい。
金棒で床を叩き、甲高い音を立てた武僧は
「晩鐘は汝の名を指し示した。いざ死合おうぞ!!」
そして、武僧とその部下たちが武器を掲げ、俺たちに向かってきた――!
※作者コメント※
作者の近況ノートを見ればわかりますが、
ガチめにマジメな文章を書いて盛大にデトックスしたので、
少しの間、こんな感じになります。
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