手がかりを求めて
さて、浜離宮ダンジョンの探索者村にくるのは数日ぶりだ。
しかしまぁ、ここ数日の出来事は、あまりにも情報量がありすぎた。
数週間ぶりに来た気がするな。
「すっげぇ久しぶりに来た気がする」
『そうですね。あまりにも色々なことがありすぎました』
『ツルハシの方は年のせいなんじゃないー?』
「グッ、俺はまだ若い。まだ若い、まだ……」
「自己暗示をかけるようじゃ深刻だね。ところで、様子に代わりは無さそうかい?」
「おっと」
師匠に言われて、俺は探索者村の様子を眺めてみる。だが――
(意外と……何ともなって無いな。)
ダンジョンの外には、激しい戦闘の痕跡があった。そんならその続きを探索者村でもやっていそうなものだが、村の様子は普段と変わらない。
「外の有様からして、こっちもどうかしてるかなとおもったんですが……見た感じ、特に何ともなってなさそうですね」
『これが浜離宮の探索者村の、普段の感じ―?』
「ふぅん、おや、入り口に飲み屋があるね。……軽食もあるんだね、お台場に比べると結構気が利いてるじゃないか」
『師匠、だめですよ』
「はいはい」
探索者村の宿や露天は、特に何ともなって無さそうだ。
さすがのギャングも自分たちの金ヅルを焼き尽くしたりはしないか?
多少の理性は残っているようでありがたいね。
「あれだけ外でドンパチやらかしてたのに、中は何とも無し……か。入り口を守っていたのは白狐会だから、勝ったのは『終世ブッダリオン』か?」
『その可能性が高そうだねー。まぁ、この様子なら勝つのも当然、かな?』
「うん? どういうことっすかバーバラさん」
『フツー、戦いに勝った方って死線をくぐり抜けたせいでメッチャ興奮してるから、後先考えずにムチャクチャするんだよね。でも、ここを見る限りそうなってない』
「ふむふむ」
『つまり、ブッダリオンの指揮官は、戦いに勝利した後も、メンバーの勝手な行動を止められるくらいの強い権限とリーダーシップを持ってるってことだねー』
「あー、なるほど……そりゃ強いわ」
バーバラさんの言った意味は、ブッダリオンの指揮官は部隊を分けて挟み打ちを仕掛けたりとか、偽装撤退と言った高度な作戦行動を取れるということだ。
バーバラさんたちは当然のように難民の移動やお台場の防衛といった作戦を実行しているが、これはポスト・アポカリプスった今の世の中では、結構珍しい。
ちゃんと手下に言うことを聞かせることが出来るリーダーは、この世紀末世界じゃかなりの貴重品だ。大体のギャングのリーダーなんてのは――
ころす
うばう
もどる
この3つの言葉を手下に覚えさせることで手一杯だからな。
ただのギャングに過ぎないブッダリオンを、ちゃんとした軍隊として動かすことができるセンジュアスラは、結構な傑物かもしれないぞ。
『勝利した方のギャングはメンバーの統制が取れているということですから、きっと手強い相手になりますね』
「戦いたくねぇ……」
『ツルハシならギャングくらい、どうとでもなるんじゃないー?』
「そうさね、探索者とも戦ってたんだ。ギャングなんて物の数じゃないだろう?」
「いやいや……実はですね、ブッダリオンと戦いになると、今の俺はヒジョーに不味いことになるんですよ」
『あ、そういえば……』
「何かやらかしたのかい?」
「なぜかと言うと、俺は第七層、そして第十層にこれまで回収したトラップのほぼ全てを置いてきてるんです。もし戦いになったら、マジで出来ることがないっす」
『え、トラップ全部おいてきちゃったのー?』
「えぇ、しかも9割がたのトラップが、第十層にあるんですよ……」
「持って帰るのをド忘れしたってことかい?」
「まぁそこは色々ありまして……」
「戦いになったらツルハシは何の役にも立たないってことだね」
『いつも通りじゃない?』
「グッ! そうなんですけど!」
トラップを取り戻すまでは、できるだけ穏便にコトを済ませたいものだ。
まぁ、最悪な場合でも、ダンジョンの壁でそのまま埋めてしまえば良いのだが。
――おっとそうだ。
ギャングもそうだが、ユウキを見た人がいないか、目撃者を探すか。
「ユウキを見た人がいないか、いったん聞き込みしましょう」
『そうですね。ですが……』
『写真も何もないから、期待しないでよね―』
「うっ……」
・
・
・
俺がラレースと聞き込みを始めていると、ある屋台が目に入った。
ニセツルハシ男のときにレモネードを飲んだ屋台だ。
「お、あのオッチャン、元気かな?」
『せっかくですし、挨拶していきましょうか』
「あぁ、そうしよう」
俺は屋台のテーブルの代わりをしている狭いでっぱりに手をつくと、レモネードを入れるためのグラスを磨いているオッチャンに声をかけた。
「おっす、オッチャン、俺のこと覚えてる?」
「……おぉ、あん時の! あんた人が悪いなぁ! あんたがツルハシだったんじゃないか!」
『さすがにおわかりですよね……』
「いやー、みんな困ってるみたいだし、俺だって殴られたくないもの」
「だな! あん時にそうと分かってたら、間違いなく一発ぶちかましてたぜ!」
「おおコワイ。ところでオッチャン、俺たちは人を探してるんだが……」
『これくらいの背丈で、暗い色をした、短い髪の毛の男の子を見ませんでしたか? 目の光の強い、意志の強そうな少年なんですが』
ラレースがユウキの特徴をオッチャンに伝えると、腕を組んでうなりだした。
「うーむ……」
「よし、2杯だ。砂糖マシマシで記憶が戻るか?」
「へへ、わるいね!」
「ちゃっかりしてるぜ……」
俺が注文すると、酸味はもちろん、辛味の混じった香味がする新鮮なレモネードがやって来た。前より良いものになってない?
「それで――」
「まぁ慌てなさんな。あんたの言うユウキとかいうぼっちゃんだけど、ハゲ頭どもに混じって下に行ったよ」
ふむ?
「ハゲ頭? それってブッダリオンの事か?」
「そうさ。他にそんな連中いやしないだろ」
「まぁ、それはそうだが」
どうやらブッダリオンの連中とユウキは行動を共にしているらしい。
彼一人で深層まで行くのは無理がある。だからギャングを利用した?
だめだ、これだけだと目的がちょっとわからんな……。
そもそもの話、なんで深層まで行く必要があるかもわからない。
「役に立ったかい?」
「まぁな、手がかりにはなりそうだ」
俺は空になったコップをオッチャンにつっ返すと、皆と合流することにした。
「しかし……ユウキの手がかりは手に入りましたが、時間が良くないですね」
『えぇ。ブッダリオンも、この時間から動くことはないでしょう』
時間はすでに午後7時頃を回っているし、今から何かするのは遅すぎる。
いったん仮拠点で足を休めるか。
「このまま仮拠点で休んで、ユウキの捜索を続けましょう」
『そうですね。バーバラと師匠が驚かないといいのですが』
「それについては、インパクト的にはアルマが一番だと思うんですが、今さらリッチ程度で驚くことありますかね」
『……それは確かに』
まぁ、バーバラと師匠がビックリした流れで、そのままジジイをバラバラにしたとしても、特に問題はないだろう。
なんせあのジジイ、護符で無限に復活するからな。
むしろ、多少砕けたほうが肩こりとか治って良いかもしれない。
「よし、爺部屋にいきますか!」
・
・
・
※作者コメント※
最後がひどすぎない?
ツルハシのジジイに対する当たりが強すぎるッピ!
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