懐かしのあの人
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「おのれ、とんだ恥をかいたわ!!」
黒い革ジャンを着た男が、拳を勢いよく机に叩きつけ、ドンと音を立てる。
すると、ツルハシ男が「頭に軍艦を乗せている」と称したリーゼントが机を叩いた衝撃でぷるるんと揺れた。
彼の名は
銀座の議員の一人であり、武闘派で知られていた……と、本人は思っている。
しかし、彼を知る周囲の者は「ただ粗暴なだけの男」と断じていた。
彼は思い込みが激しく、振り上げた拳を必ず振り下ろす。
もし、自分に非があったとしても、彼は決してそれを認めない。
彼の弁舌、その他努力の全ては、拳を振り下ろされた被害者ではなく、傷ついた彼のプライドを補修するための、つじつま合わせに使われた。
議員たちにとって、虎次朗は煙たい存在だった。
だが銀座の運営には荒っぽい連中も必要ということで、見逃されていた。
「チッ、まさかツルハシ男が議員とイイ仲になってるなんてよぉ」
怒り狂う虎次朗に声をかけたのは、学ランの背中を「天下統一」の刺繍で飾った今時珍しい時代がかった格好をする探索者――
「ツルハシ男のやつ、地獄門の秘密を独り占めにするだけでは飽き足らず、日比谷公園の開拓の権利まで手に入れるとは……」
「なんて欲深い野郎だ。あいつが『庭師』の立ち退きに成功すれば、そこで市長に収まるかも知れねぇですぜ?」
「クッ……
「あるぜ、とっておきのがな……!」
「よぉし……話してみよ!」
「ツルハシ男に心の底から恨みを持ってるやつをぶつけるのさ……来い!」
「ご紹介に預かったアースホルトン・マインバッハ3世であーる!!」
宮藤の声に導かれるように、とある男が部屋に入ってきた。
しかし、彼の姿をみた虎次朗は、反射的にブッと息を吹き出した。
というのも、その男の見た目は、トランプのキングの絵柄がそのまま現実世界に現れたようだったからだ。彼が強い探索者にはとても見えなかった。
「せっかく来てもらって何だが……もうちょっとこう……あるだろう!」
「いやいや、人は見かけによらねーぜ、虎次朗の旦那」
「何ィ~?」
「マインバッハの旦那は、採掘師最上位のジョブ、巌窟王なんだ」
「ほう……それはスゴイけど、普通に戦闘系で良くない?」
「まぁまぁ、最後まで聞きなって……マインバッハ3世さんよ、虎次朗の旦那にアレを見せてやんなまし!」
「フフフ……
「しかぁし!! 雌伏の時を経て、朕はツルハシ男にも負けぬ力を得たのだ」
マインバッハ3世は天を仰ぎ、表示枠を空中に浮き上がらせる。
するとそこから、色とりどりの宝石を身に着け、たいまつのように頭を燃え上がらせているアバターが呼び出された。
アバターの名は「ハデス」。
冥界の王にして、採掘師の守護者でもある神だ。
地下にある宝石や鉱石は、地底の支配者である「ハデス」の所有物である。
故にこの冥府の王は、宝石を身に着けており、採掘師に祝福を与えられるのだ。
「ハデス、カムヒア!!!」
『帰っていい? あのさ、ちょっと前にスゲー数の葬送出て、キャンセル待ちって状況なのよ、冗談抜きでガチ目に忙しいんだよね』
「うむ! 『アレ』を出せば帰って良し!」
『あ~、ハイハイ、アレね。おけおけ』
ハデスの指先から黒い煙が立ちのぼり、マインバッハの四肢を包む。
すると、金属がぶつかり合う激しい音が部屋に響いた!
<ガシィン! ガキィン!!>
『んじゃ、しばらく呼ばないでくれると助かるわ』
「またよろしく頼むぞ!」
『耳に硫黄が詰まってんのかな? ごめん聞こえなかったわ。じゃ。』
マインバッハにひたすら塩対応したハデスは、表示枠を通って帰っていった。
なかなかにフリーダムな対応だが、マインバッハはそれを気にする様子もない。
四肢を包んだ
これはアースオーガーというものだ。ドリルと似ているが、用途が少し違う。
ドリルはただ単に穴を開ける道具だが、オーガーは穴を開けるだけではなく、鉱石や土を採掘するための道具なのだ。
「これこそが『キングオーガー』!! ご照覧あれぇぇぇい!!!」
<ギュイイイイイイイイイイイン!!!!!!!>
回転するオーガーは黄金色に光り、雷をまとう。そして――
「我の想い、我の願い、我の祈り、未来を掘り出せッ!!『インペイラー』!!」
「え、ここで使うの?」
<ズガァァァァァァァァァァァァン!!!!!!>
虎次朗に対する返事は、
マインバッハは水平にエネルギーの竜巻を放ち、虎次朗の自室を半壊させた!
「ヌーハハハ!! 我が『キングオーガー』に砕けぬものなし!!!」
高らかに笑うマインバッハ。
しかし、虎次朗はあることに気がついた。
「あれ? 宮藤、ツルハシ男って採掘師だよね?」
「おう、そうだな!」
「なら、普通に戦闘系ジョブで『エイ!』ってぶん殴れば死ぬんじゃないの?」
「バッカ虎次朗! バカバカ!!」
「えぇ……?」
「わっかんねぇかなぁ……ロマンがあるだろう?」
「俺が変なの? なんかいきなりおっさんが変身して、部屋の壁をぶち壊したんだけど、この状況でも俺が変なの?」
「一度はライバルに負けた漢が、修行の成果で新たなる力を得て、再度戦いに挑戦する。そこにある種の美しさ、漢の美学を感じねぇか?」
「ふむ……それは確かに」
「その挑戦の機会を与えられるのは虎次朗、アンタしかいねぇんだ!!!」
虎次朗の脳内で「アンタしかいねぇんだ!」という叫びが反響する。
その言葉は耳に心地よく、彼の自尊心を暖かく満たした。
誰かに必要とされる。その温み、嬉しさには何人も
「漢ならやってやれ、そうは思わねぇか?」
「ふむ……この虎次朗、マインバッハ殿の心意気、しかと受け取った」
「――では!」
「うむ、先の議会における強行採決。そして日比谷公園の立ち退きと開拓。これはツルハシ男によるダンジョン、および銀座の私物化である――」
「我々は、これを全力で阻止するッ!!!」
「「応ッ!!!」」
※作者コメント※
ハデスさんクッソ可哀想。
仕事押し付けてるの、誰やろなぁ…
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