証人尋問


「ではツルハシ男君に質問します。君はダンジョン第十層に向かい、そして地獄門の先に入った。これは事実か?」


「まぁ……はい。事実です。」


「そして、戦勝会で君が発言したことは事実か?」


「というと?」


「ダンジョンに君が願ったこと『ツルハシの修理』が実現したということだ。」


「えーっと、それは事実です。」


「ダンジョンに心があり、それと対話した。これは事実か?」


(どうしましょ?)


(ここは『私にとっては事実です』と言っておきましょう。主観を交えることで、事実関係をぼかしましょう)


(なるほど。俺からすると、ダンジョンに心があるように見えた。そういう話に持っていくんだな?)


(はい、その通りです)


 おぉ……流石はラレースだ。「俺から見ると、心があるように見えた」これなら心があっても無くても、ウソにはならない。


「俺から見ると、心があるように見えました」


<ざわざわ……><がやがや……>

<ダンジョンに、心が……>


「対話は事実です。ですが、心があるかどうかについては、わかりません」


「どういうことだ! 対話したというなら、心があるのだろう!」

「そうだ!! この男は、ダンジョンの真実を隠そうとしている!」

「望みを叶える力を、独り占めしようとしているに違いない!」

「そうだ! そうだ!」


「静粛に! 不規則発言は慎むように!」


「………………」

『………………』


(……ねぇ、チョット思ったんだけどさ)


(はい、私も同じことを思ってるかも知れません)


(この議員ども、アルマよりポンコツじゃね?)


(侮辱はいけないことですが、私もそう思います……)


 なにが証人だ! なにが尋問だ!!

 ただの嫉妬じゃねーか!!!!!


「では、証人は私利私欲のためにダンジョンに潜り、その力を利用したか?」


「えー……っと、それ、普段から探索者のやってる事じゃないです?」


「…………」


「つまり、私利私欲のためにダンジョンを利用し、あまつさえもその力を利用し、銀座を破壊しようとしたということだな!!!」


「してません」


 俺に対する印象操作がヒドイ。

 いまの悪意しか無い発言の主はどいつだ……? あいつか。


 軍艦みたいなリーゼントを頭に載せた、革ジャンの議員。

 そいつが俺に対して意味不明なことを言っている。


(あの様子からすると、地獄門を開く方法を俺に問いただして、人生の一発逆転を狙ってる感じかぁ?)


(かも知れませんね)


 その後も尋問は続いたが、内容がおかしい。

 ダンジョンの心とかより、地獄門の開き方についてばっかりだ。


 ……なんだこいつら。


「ですから、地獄門は俺の前で勝手に開いたのです」


『証人の発言は事実です。補佐人である私もそれを目撃しましたし、当時の配信を見ていた視聴者の全てが証人となります』


「そんなはずはない。勝手にひらくというなら、すでに何度か地獄門が開いていないとおかしい。どうにかして開く方法があるはずだ!」


 こんな感じで、水掛け論にしかならない。

 正直言って、時間の無駄だ。


(俺が撒いた種とはいえ。人類ェ……)

(本当に救いようが……いえ、なんでも)


 ラレースと俺は二人してダークサイドに堕ちそうになっている。

 人間不信になるぞこんなの。


「議員の皆様、このツルハシ男は、ダンジョンの力を我が物にしようとしています。この者はダンジョンを破壊できるのです。きっと我々の知らない秘密を持ち、陰謀を企んでいるはず!!」


「そうだ!! そうでないと言えるなら、地獄門を我々の前で開放してみせろ!」


<ピキピキピキ……>


(ツルハシさん、抑えてください)

(わかってるラレース。オーケー、俺は冷静だとも)


 俺は言葉を返すため、すぅっと息を吸い込んだ。


「アンタたちは自分の心すらよく分かっていない。なのに、他人の心を推し量ろうとする。そんなムダなことはやめるべきだ。」


「何っ!!」


「だってそうだろう? アンタたちが俺にぶつけている、怒り、疑い、恐怖。それは俺が与えようとしているものじゃない。アンタたちの心から出ているんだ」


『補佐人も補足します。彼はダンジョンの独り占めなど、一切企んではいません』


「何でそんな事が言える!」


『彼は自分の力で、ダンジョンの入り口を塞ぐことができるからです。そのつもりなら、もう出来るのです。その力が彼、ツルハシ男にはあるのです』


<チッ!>


 おい、いま舌打ちの声が聞こえたぞ。

 やったやつ出てこいオラァン!?

 

「では、議題についての採決を行おう。それで決するべきだ!」

「そうだそうだ!」

「ダンジョンの真実を明らかにしろ!」

「地獄門の開け方を吐け!」


「ぐるるる」

『抑えてください』


「――では、これより議題について、採決をとる!」



「投票の結果は、賛成24 反対23 となった」


「よって『ツルハシ男にダンジョンの真実を明らかにさせる』は可決され――」


(――あーもうムチャクチャだよ)


「その議題、待ったぁ!!!」


「……ッ!?」


「私たちの投票が終わってませんことよ?」


<ざわざわ……><がやがや……>


 議場に二人の議員が現れた。

 白銀の甲冑を着込んだ背の高い戦士風の男に、金糸で文様の描かれた、上等なローブを着込んだ長い黒髪の女性だ。


 あの白銀の甲冑、どこかで見覚えが……。


「ツルハシ男さん、ナナがお世話になったようで、お礼申し上げますわ」

「ガハハ!! 数年分の仕事が溜まっておって難儀したわい!!!」


「あ、まさかッ! レオ、あの人達はナナの……?」


「はい、ナナのご両親の、カトリ様とスワコ様ですな!」


 ナナのご両親!?

 なんであの見るからにクセのある二人から、あんな素直な子が出てくるの?

 生命の神秘すぎるだろ!?


「今さら来て何ごとだ! すでに採決は……!」


 頭に軍艦リーゼントを載せた議員がカトリに食い下がる。

 しかし――


「おう、久しいな! 頭の上のそれ・・小さくなったな、ハゲたか?」

「なんだと!?」

「そうそう、お前さん、ゲートの用心棒たちと随分親しくなったようじゃないか。宮藤くどうが関係を吐いたぞ。」


「なっ……」


「彼らから誠意・・を受け取る代わりに、色々と手助けをしたようですわね?」


「まぁ、それは別の話だ。ツルハシの、どっちに入れて欲しい?」


「反対でお願いします。」


「おし! 我とスワコは反対だ反対! ほれ議長、今度こそ投票が終わったぞ! 結果を読み上げんかい!!」


「えー……投票の結果は、反対25 賛成24 となった……」



「よって『ツルハシ男にダンジョンの真実を明らかにさせる』は否決された!」







※作者コメ※

またクセがつよそうな人達が出てきた……

ツルハシ、強く生きて。

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