地上の開拓
※作者コメント※
新作のプロット作業のため、今回は1話更新です。
いや、毎日2話,3話出してるのがおかしいんだけども…
ーーーーーーーーー
『大変お世話になりました。なんと言ったらいいか……』
「すいませんカトリさん、助かりました」
「ハハ、良いってことよ!」
俺たちを救ったのは、ナナの両親のカトリさんとスワコさんだった。いやはや、見ている前で地獄門を開けとか、アホな決定が通らなくてよかった……。
「俺も舞い上がりすぎましたね。ここまで混乱するとは」
「だなぁ。アホ共の前で宝くじの当たり券を見せびらかすからよ」
「はい……」
『ナナちゃんのご両親は、銀座の議員さんだったんですね……レオさんがナナちゃんの面倒を見てらしたのは、その関係で?』
「左様ですな!」
「レオはうちの派閥のペーペーだったんだがなぁ……」
「いつの間にかあんなに立派になっちゃってねぇ」
「いえいえ、お二人に比べればまだまだ、お恥ずかしい限りですぞ!」
(……立派というかなんというか。見た目は変態だけどなぁ)
「レオは我の教えを良く守っておるわ。議論は言葉だけでは成り立たん。大事なのは心意気、頼りがいだとな」
「昔のレオは、口に体がついてこなかったけど、すっかり変わったわね」
「うむ、
もうちょっとこう、いい感じのバランスにはならなかったんですかね……?
インテリスパルタンとか、ちょっと属性もり過ぎだぞ。
「ひとまず、俺は家に戻っても大丈夫なんですかね? 今日は色々と用事をすませるつもりだったんですけど、議論だなんだで、すっかりぶっ飛んじゃいました」
「うーむ、それなんだがなぁ……」
「ちょっと相談に乗ってもらっても良いかしら?」
おっとぉ?
ちょーっと嫌な予感がしてきたぞ……
(どうしよ?)
(ここは話だけでも聞いてあげては?)
(まー、そうするかぁ。)
ちょっと不安はあるけど、カトリさんはレオの(政治の?)師匠で、ナナの両親だしなぁ。あんま断りたくはない。
うーん……。ま、いっか。
頭に軍艦乗せた連中ならまだしも、この二人だったら妙な話はしないだろう。
「わかりました。お話を伺いましょう」
「おし! んじゃ、こっちに来てくれ」
★★★
俺はナナの両親に劇場の地下まで連れてこられ、会議室と書かれた札がドアに下げられている部屋に入った。
ここは元々、劇場の楽屋だったんだろうな。
通路側の壁には、長い鏡が埋め込まれていて、引き出しやライトの付いた化粧台がそのままになっている。昔はここで舞台に上る前の準備をしたんだろう。
「ま、楽にしてくれ」
「はい。」
カトリさんは、部屋のすみに置かれていたテーブルに座るよう、俺に勧める。
俺が腰掛けると、同じく席についたカトリさんが、世間話でもするように、俺に話を切り出した。
「そこそこ長い休みをもらったが、帰ってみると問題が山積みでなぁ」
「大体の人は、やらなくても良い事を探すのは得意なんですが……やるべきことは何故かそのままにしてしまう」
「違いない。」
「ぶん殴りたくなるのを抑えながら、書類を掘り返してましたわ」
「そんなひどかったんすか……」
「うむ! 議員になるものは基本的に探索者ですからな!」
「そもそもの人選が間違っていたのでは?」
「ま、幸いだったのは、忘れられる前に帰ってこれてよかった、ってことだな」
「ですわね」
このプラスチックのテーブルも、元は白かったのだろう。
だが、今は薄汚れてベージュ色になっている。
この世界のものは、何もかもが古くなっている。
新しいものに変わっていくものもあるが、それはごく一部だ。
ほとんどのものは忘れ去られ、打ち捨てられていく。
「ナナちゃんは決してあなた達二人のことを、忘れたりしませんよ」
「うむ!」
「おっと、我を泣かせる気だな? その手には乗らんぞ」
「あら、もう泣いてるじゃない」
「これは汗だ」
「はいはい」
『それで、相談とは?』
「おう、それそれ。まずこいつを見てくれ」
カトリさんは、ベージュ色のテーブルの上に、いくつもの書き込みがある年季の入った黄ばんだ地図を置いた。地図には書き込みの他、色とりどりの付箋も貼られており、カラフルなウロコが生えたみたいになっている。
「これは――銀座の地図ですか」
「うむ。これを見て、なにか感じるか?」
どれどれ……?
地図の書き込みは、建物の状態や安全性を評価したものらしい。
そしてそこに住み込んでいる連中が何者か、と言った内容もあるな。
「A」が、最高評価で、自警団や評議会が使用する施設。
「B」が、安全で快適な住居。
「C」が、生活するには問題ない、っていう建物。
「D」が、住むのしんどい家。屋根とか無いし、壁に穴空いてる状態の建物。
「E」が、取り壊し予定。つまり最低評価らしい。
俺が住んでいる光越が「B」評価。カブキ座が「A」評価か。
だが、銀座にある大半の建物は「C」か「D」だ。
うーんと、これはつまり……銀座にどれだけ住める家があって、どんだけの人間がそこに住んでいるか? それが書かれた地図ということだな。
そして色とりどりの付箋はその建物にどれだけの人が住んでいるか? と言ったことが書かれているようだ。
これによると、ほとんどの建物が80%に達しているようだ。
銀座ってそんなに人住んでたんだ。
この地図をみて感じる印象は――
「はい、わかります。銀座にはもう居住区に余裕がない」
「そして今、あることによって居住区の需要が急増していてな?」
「あっ」
『まさか、お台場から難民が?』
「おう、第一陣はまだ来てないが、そのうち到着するだろうな!!」
「暴動は鎮圧されたけど、市長のサカキに対する不信感から、多くの住民が街から離れることを決めたらしいですわ」
「あっちゃー……受け入れるんですか?」
「受け入れなくとも、勝手に銀座に住み着くでしょうな!」
「ですよねー。門前町とかあったもんなぁ」
(そういえばツルハシさん、あちらの状況は、まだバーバラや総長に聞いてませんでしたね……)
(なんかすげー大変なことになってそう……)
(情報を集めたほうが良さそうですね)
「続けるぞ? でだ、評議会としては、難民用に居住地を用意することにした」
「用意することにした」ってことはまだ影も形もないと。
ふむふむ、それ、いったい誰が作るんだろうなぁ~?
「銀座の北には『日比谷公園』というでっかい土地がある。」
「ですけど、建物をつくるだけの、資材も人も銀座にはないのですわ」
「つまりだ、ツルハシの……下だけじゃなくて、上も掘ってみんか?」
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