証人をここへ!


「あー……大変そうだな、レオ。」

「おぉ! ツルハシ男さん!」


 ラフィーナで自警団に捕まった俺は、そのまま評議会の議場に連行された。


 連れてこられたのは、銀座の南にある劇場だ。劇場というのは、とにかく椅子が多くて声が通る。だから、評議会の議場として流用されているのだ。


 どうもレオに聞くところによると、会議が紛糾したために、いったん休憩となり、その時間をぬって俺が呼ばれ、いや、連行されたようだ。


「すまん。マジですまん。」


「いえ、ツルハシさんを思えばこの程度、なんのこれしきですぞ!!」


『すべて押し付けてしまってすみません……まさか、ここまで大事になるとは』


「知らない、ということは恐れを大きくしますからな!」


「うーん……弱ったなぁ」


 会議はそのうち再開されるだろうから、始まる前に、レオと打ち合わせしないといけないな。


『レオさん、一体どうなっているんですか?』

「そうそう、それだ。会議では何が問題になってるんだ?」


「議題は『ツルハシ男にダンジョンの真実を明らかにさせる』という物ですな!」


「あー、何を説明すれば良い? 何が引っかかってるんだ?」


「そうですな、一番は、わからないことですな!」


「わからない?」


「そうです、ダンジョンの心がわからない、それに恐怖しているのです!」


「あー、なるほどなぁ……」


「そして、その恐怖をさらに深めているのが、ダンジョンの奥底にあるモノが人の願いを叶えるという事ですな!」


『ダンジョンは、地上に住む人々にとって、悪夢のような最悪の願いも叶えてしまうのだろのか? 議員の方々は、それに恐怖しているわけですね?』


「うむ、大半の議員の意見は、そういったものですな!」


「えー……そんなこと言われてもなぁ……」


『これは、かなり難しい問題ですね』


『その人がどう思っているのか? 人はこれを言葉や態度で読み取りますが、内心はどう思っているかなんて、誰にも分かりません』


「そうだな。心を取り出して色や形を見せることは出来ない。だからダンジョンが……アルマが本当は何を考えているかなんて、わからない」


『それは彼女自身も、でしょうね』


「あぁ。だろうな」


「それでは、この問題は本質的には解決不能、ということですな!」


「あぁ。実際のところ、議員は安心を求めているだけだ。解決の道筋を見失ってるように聞こえるな」


『えぇ……ツルハシさんの言う通りですね』


「で、レオ。休憩に入る前は、何について話していた?」


「うむ、それでしたら……! ツルハシ男をどう処刑するかですな!!」


「ええええええええええええええええッ!!!!!」

『何でそうなるんですかッ!!!』


「まぁ、その場の勢いというやつですな!」


『証人喚問は、議題について証言をするだけですよ? なんでそれがツルハシさんの処刑になるんですか……』


「アホか!? アホなんだな!? そうだと言ってくれ!!」


「ハハハ! 弱りましたな!」


<ジリリリリリリリリリリッ!!>


「ん、あの音は開演ベルか?」


「えぇ! 休憩の終わりを知らせるベルですな!」


「ってことは……!」


「さぁ、ツルハシ男さん、証言台にお立ちください!」


「ですよねー……」

『わ、私もいきますから!』



 俺が使う証言台は、舞台の上にある。つまり、この場にいる全員の視線が突き刺さる場所に立たないといけないってことだ。いきたくねぇ……。


 俺はステージ端にある階段から舞台に上がり、天井のライトの光を浴びる。

 すると、敵意や疑いの色が混じった、いくつもの目が俺に向けられた。


 うーん……全然嬉しくない舞台デビューだ。


(もうこれが処刑みたいなもんじゃねーか!)

(大変なことになってしまいました……)


 俺が証言台に立つと、横に立っていたおじいちゃんが、手元のカンペを見ながら内容を読み上げる。


「証人は、自身が間違いなく『ツルハシ男』であると認めるか」


「あっ、はい。」


「証人は良心に従って真実を述べ、何事も隠さず、また、何事も付け加えないことをここに誓うか?」


「はい、誓います」


(何か緊張すんなぁ……裁判受けてるみたい。いや、裁判なのか?)


「そこの騎士は……?」


『私は補佐人です。彼の証言について助言を行います』


「よろしい。」


「では、これより尋問を始める!」


 さて、ここで下手を打つと、牢屋行きか、はたまたギロチンかぁ……?


 せっかくダンジョンから生きて帰ったのに、そんなのは嫌だぞ。

 なんとしても、議員どもを丸め込んでやる!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る