評議会



「ですから、ダンジョンに心があるというのは、物の例えでしてな!」


「例えであろうと何であろうと、危険なことに変わりはないではないか!」

「そうだ! この責任を誰がとるのだ!」


 レオは、ひとり、評議会で議員たちと舌戦を繰り広げていた。


 これは銀座の評議会で、とある議員が議題を出したことから始まった。


 その議題とは、「ツルハシ男にダンジョンの真実を明らかにさせる」といったもので、実に漠然ばくぜんとした内容だった。


 本来ならこのような議題が評議会に上がることはまずないが、ツルハシ男のした事が、あまりにも衝撃的だったため、スルッと通ってしまったのだ。


 議題がふんわりしていたために、話は「第十層の奥には何があったのか?

 そして、「それは危険なものなのか」ということに移っていく。


 ラレースから第十層の真実を託されたレオは、誤解から恐れが生じないように、ツルハシたちが創ったカバーストーリーに修正を加え、それを説明した。



「地獄門を開く方法は不明。門は探索者を招き入れた」


「ダンジョンの最深部には、人々の心に反応するモノ・・があった」


「そのモノに願い事をすると、小さな願いが叶う」



 しかし、ヒステリー気味の議員たちに対して、カバーストーリーはあまり意味をなさなかった。伝えたい内容は伝わらず、どうでもいい言葉が大きく捉えられる。

 レオは嘆息をもらす他なかった。


 銀座の評議会は、銀座の周りで重大な事件が起きた際にも招集される。

 事件の解決、あるいは事件の原因に対して、何らかのルールを決めるためだ。


 つい先日起きた出来事に議題が出されるというのは、評議会でもかなり異例のことだ。しかし、ツルハシ男のしたことは、そうするだけの十分な理由があった。


 ダンジョンの最深部に到達した者は、一人もいない。

 通称「黄泉歩き」と言われる者たちでさえ、第十層にある地獄門の先に到達した者はいない。これは歴史的快挙だった。


 それに加えて、戦勝会で彼がしでかしたことが問題をさらに大きくした。


「ダンジョンには心があって、それと対話した」そして、ダンジョンに願いを言い、それを叶えられたと言って、証拠の品を見せつけたのだ。


 戦勝会に参加した探索者は、その証拠の品を鑑定した。

 その鑑定の結果は、「不可能素材アンオブタニウム」という未知のものだった。


 それにより、「人の願いを叶える存在が、ダンジョンの奥底にある」この情報は真実であると、評議会に確信を持って迎えられた。


 それと同時に、評議会には戦慄が走った。


 魔法のランプのような、願いを叶えることができる存在は、多くの人々が欲しがるだろう。それは人々に平和や幸福をもたらすどころか、戦争や悲劇を引き起こす可能性が非常に高い。


 なぜなら、前例があるからだ。

 「神気」という前例が――


 ダンジョンがより危険な存在になった。

 そのことは、もはや誰の目にも明らかだった。


 白熱した議論は次第に道をそれていく。


 議題は「ツルハシ男にダンジョンの真実を明らかにさせる」のはずだった。


 話は「ダンジョンの奥底に何があったのか?」から、『ダンジョンはより危険になったのか?」に変わる。「コントロールできるのか」「このままでは危険だ」「責任は誰にあるのか」


 そして――

 「誰が悪いのか」「どう罰するのか?」

 議論は、そういった内容に変わりつつあった。


「このままではラチがあきませんな……」

「ここはやはり、張本人を召喚するべきでしょう」

「では、そのように……」

「うむ――」


「本議は、証人として、証人喚問を提案するものであります。」

「はよしろ!」「そうだ!」「本人を連れてこい!」


「ツルハシ男を、ここに――!!」



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