酒に飲まれて

「う……頭が痛い、吐き気もだ……! 腹もめちゃくちゃ痛い……食い過ぎか?」


「ツルハシさん、それ、お台場でもやってませんでした?」


 普段着に着替え、金髪をほどいたラレースは俺の背中をさする。

 俺はそんな彼女に対して、返す言葉もなかった。


 一夜明け、昼前に目を覚ました俺は猛烈な頭痛に襲われていた。

 ワイバーンが爆撃で破壊した司令部跡地で、勝利の舞を踊っているようだ。


「なぜ人は一時の快楽に身を任せてしまうのだろう。人は愚か」


「愚かなのはウルハシだけどね~」


「た……たちゅけて」


「仕方がないな~。ここはナナちゃんに免じて診てあげましょう!」

「アッハイ」


 白衣のジンさんは空中に何やら漢字を描くと表示枠を呼び出して、そこから仙人みたいな格好をした「神農しんのう」のアバターを手のひらに乗せた。


 そのままジンさんがアバターを乗せた手を俺の頭に差し出すと、神農は透明な腹をポリポリと掻きながら、俺の頭を叩く。すると、二日酔いの激痛がウソみたいに引いていった。


「あ、ありがてぇ……」

「お大事に~」


 俺に治療を施したジンさんは、手の平をひらひらと振って、光越ミツコシの出口に向き直る。


「もう行っちゃうんですか?」


「そこは『まだいるんですか』の間違いじゃないかな~?」


「いえ、そんな……ジンさんは私達の仲間です。冗談でもそういった事は……」


「ごめんごめん。ただ、アタシはやっぱりスレ民に戻るよ~。ツルハシたちがどうこうって言うより、私はもともと外野だから、線引きはしておかないとね~」


「クソお世話になりました!!」

「またなにかあったら、呼んでも大丈夫です?」


「ツルハシのパーティにヒーラーいるかなぁ? 結局、アタシがやった治療って、それが初めてだからね~」


「アッ確かに。」

「そう言われると……」


「冗談だから気にしないで~。ま、私のいる探索者協会は銀座から逃げないから、また何かあったら呼んでよ~」


「はい!」


「んじゃね~」


 ジンさんは現れたときと同じように、すっと消えてしまった。

 うーむ、本当に掴みどころのない人だった。


「あれ、レオは?」


「レオさんなら、評議会に向かいました。なんでも今回の件についての報告だそうですが……私達のやったこと、結構な反響が起きそうですね」


「やったこと? あれ、まだカバーストーリーは誰にも話してなかったような?」

「……まさか、何も覚えてないんですか?!」


「……え」


「先日、深夜のバーベキュー会場でツルハシさん、随分お酒が進んでいた様子だったので、すこし心配だなとは思っていたのですが……」


「まって、まって、何があったの?」


「えっとですね……」


★★★


 深夜からもう早朝、4時になって外が少し明るくなってきた頃でしょうか。


 ツルハシさんはビールの入ったピッチャーを奪って、そこから直接お酒を飲んでいたかと思うと、突然立ち上がり、テーブルの上に立って宣言したんです。


「ダンジョンに何があった、か! 奥底に何があったか、知りたくないか!」


「「おう! 待ってました!!」」

「「教えてくれ―!!」」


「配信を見てたやつぁは知ってるだろうが……俺とラレースは、第十層の最後の奥、地獄門の先に進んだ……」


「そこにあったのは――」


★★★


「酔っ払っていても、ツルハシさんは、カバーストーリーを探索者たちに伝えるという事を、まだ忘れてなかった。私はそれに感心していたんです」


「お、おう……」


「今思えば、その場で取り押さえておくべきでした」


「ちょ、ちょ!?」


★★★


「ダンジョンの心臓部……いや、心があった。俺はダンジョンと対話したんだ」


「「…………」」


(――えっ!)


「ダンジョンは別の世界から来た存在だった。そして、俺たちのことを知りたがっていたんだ。で、ダンジョンの心は俺に語りかけた。お前たちは何が欲しいのかって。それで俺は言ったんだ……」


「地獄門を開けようとして、ツルハシを使ったら折れちまったって。だから直してくれ※ヒック※って頼んだんだ。それがこのぉ~ツルハシだ!!」


「「マジかよ!!」」「「何だあの素材!?」」

「「見たこと無いぞ!!?」」「「おい、鑑定できるやついないか!?」」


「そんでぇ~ダンジョンは……俺たちに頼んだ。悪い神様を退治してくれってな。配信を見てたやつは知ってるだろうが……あのウネウネだ」


「ニャルラトポプテ・・・は~ぁダンジョンの悪い心がでてきた部分だぁ。あいつは、ツルハシを直してくれたから、悪いやつじゃない!!!」


「「ザワザワ……」」「「マジかよ……」」

「「ダンジョンって生きてるのか?」」


「本当のことをいうと、ダンジョンは~…」

当身あてみッ!」

<ドスンッ!>

「ちゅるはしんっ!!!」


★★★


「これは不味いと思い、腹部の急所を突き、昏倒させました」


(そういえば、二日酔いなのに妙に腹が痛かったのは……それのせい?!)


「内容は支離滅裂しりめつれつでしたが、私たちが秘密にしようとしてた部分も、ツルハシさんは思いっきり喋っていましたね……」


「お、おぉ……」


「ダンジョンが生きている。その情報が独り歩きするまえに、レオさんがその意味を議会で公式に説明し、火消しに回っているかんじです」


「お、おう……どうしよう?」


「とりあえず、ツルハシさんは、しばらく禁酒しましょうか?」


「アッハイ。」





※作者コメント※

やりやがった!

こいつやりやがった!!

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