やっとこさ地上へ

※作者コメ※

今回は2話分を1個に繋げました。

なので、普段よりもすこし長いです。


<<地上に戻れれば良いんですよね?>>


「よし、やる前に相談しよう!! な!!」

『そうですね! 人間はとても相談を大事にするんですよ!!』


<<は、はいっ!?>>


「まずアルマ、俺たちをどういった手段で地上に送り届けるつもりなんだ?


『そうです、手順を説明してください」


<<はい、まず十層から地上まで、物理的なルートをひらきまして――>>


「ほうほう、それでそれで……?」

『これを聞く分には、特に変な所は無さそうですね……』


<<あなた達の周囲の重力を反転して、地上まで落下させます>>


「はい! ダメなやつ!!」

『自由落下は流石に危険すぎますね……』


「それ、ダンジョンと地上の間、外に出た瞬間、どうなるんだ?」

『自由落下の勢いのまま、地上に放り出されるんじゃないでしょうか……』

「それ、お空の上にメチャクチャに吹き飛ばされるだろ。うん、却下!!」


<<えぇと……じゃぁ、空を飛ぶモンスターを作る!>>


「俺たちが調教スキルのあるテイマーなら良かったが……」

『なので、空中に浮かぶことができる道具をいただけませんか?』


<<なら、空中に浮遊する道具を作ってみますね>>


『はい、お願――』

「待てラレース、ここで油断するな」

『……ハッ!』


「俺はついに気づいたぞ。このクソたわけダンジョン、絶対テストプレイしたこと無いだろっていう難易度が、何に由来しているのか……」


『なるほど……そういうことだったんですね』


<<は、はい? 一体どなたが?>>


『「おまえやーーー!!!!」』



 俺たちはアルマとあれこれ協議して、音速で壁にぶつかったり、第一宇宙速度で地球を脱出しない、空飛ぶ絨毯をようやく手に入れた。


「うむ……目的と仕様をしっかり決め、試作とテスト。他人様に使わせるものは、自分で使うものよりずっと気を使う必要があるんだ」


『これなら大丈夫そうですね』


 ふよふよ浮いている絨毯は、水中にいるクラゲのように、ゆっくりと浮き沈みを繰り返して、俺とラレースの尻を支えていた。

 布の上に腰掛けるって、何か妙な感じだけど、クセになるな。


<<物を作ったり決めるって大変なんですね……>>


「そらそうよ。他人と自分が思ってるものって、まるで違うからな」


『同じ物について、同じ言葉で話していても、ぜんぜん違うものを心に思い浮かべてるなんて、よくあることですからね』


<<ふぇぇ……大変ですね>>


『でも不思議ですね、ダンジョン内には、そこまで変なものは無いのに、アルマさんが自分で考え出すとなんというか、その……』


「凄まじく刺激的でパンクで意味不明なのができるな」


<<私ってそこまでヒドイんですか!!?>>


「うむ。」

『なんというか、品質に差がありすぎませんか?』

「それはアレだろ、アルマが取り込んだ人間たちの意識が関係しているんだろう」

『なるほど、それは確かにありそうですね』


<<不勉強ですみません……>>


「ま、この世のすべてを人に頼れ、とまでは言わんけど……自覚したなら、もっと注意深くするべきだよな。人のことは言えんけど」


<<もっと私に、この世界の事を教えてくれませんか?>>


『ツルハシさん?』

「まぁ、たまには良いんじゃないかな……」


<<ありがとうございます!!>>


「俺もアルマに学ぶことがあるだろうしな……」


『――あ、それで思い出しました、ツルハシさん、ナナちゃんのご両親ですよ!』

「あっ」


 それもそうだった。

 アルマはダンジョンの事については全知全能。

 なら、ナナの両親のことも当然知っているはずだ。


「アルマ、俺のパーティにいた、ナナって子の両親についてわかるか? 深層でテレポーターに引っかかって、壁の中にいるはずなんだ」


<<もちろん解ります。こちらに取り寄せましょうか?>>


「あぁ、助かる。できるならそうしてくれ」

『危ないところでした……』


 光が泡だち、アルマのたもとに、輝く白金の装備を付けた白骨が現れる。

 これがナナのご両親か。早く葬ってあげよう。


「頼む、大国主命オオクニヌシ

『うむっ』


 アルマの目の前で骨は光って解けて消える。

 そして粒はアルマの体に吸い込まれるようにして消え、次の瞬間、真紅の閃光が地上に向かって奔り、俺の目に残像だけ残して消えた。


「終わりか?」


<<はい。送り届けました>>


 これ・・については問い詰めたいこと、聞きたいことは山ほどあるが、今はやめておこう。疑問は山ほどある。だが、それを今ぶつけたら、朝日を何回拝むことになるかわからん。


 俺たちはアルマに別れの挨拶をすると、彼女(?)がダンジョンに開いた立杭から、一路地上へと向かった。


 絨毯は風を切りながら上に向かって登っていく。てっきりダンジョンは亜空間みたいなものだと思ってたが、地中に物理的に存在していたのか?


 ――いや、その確証はないな。


 もしそうだとしたら、ダンジョン同士が結構近い場所もあるのに、その説明がつかない。あんまり物理的な感覚は当てにならんな。 


『ツルハシさん』

「うん、どうかした?」


『ああいえ、大したことではないんです。地上に戻るまでの間、なにか世間話でも、そう思っただけです』


「なるほど。世間話……ダンジョンの心が、あんなポンコツだとはなぁ……」


『はい。ツルハシさんも引っかかりますか?』


「アルマに悪気はないんだけどな……」


『力がありすぎるんですよね』


「これってさ、動物やロボットが人に危害を加えたら、人と同じように罰するのか、それとも壊すのか? そういう話なんだよな」


『私は……動物やロボットが悪いことをしたら、罰するべきだと思います』


「どうやって?」


『叩き壊す……あるいは改善のために教育、調教をすると言ったところですね』


「そいつらが自分の行動が悪い事だとわかっていて、それでも悪い事をしたら?」


『それは悪意があるとみなして、厳しく罰するべきだと思います』


「ふむ……では逆に、動物やロボットが自分の行動が悪いことだと気づいて反省して、自分を罰して欲しいと言った場合は?」


『アルマさんですね。怒りがないといえば嘘になります。でも、自分の行為を後悔して、罪を償おうとしているなら……優しくしてあげたいです』


「心があれば、人間と同じように扱わないといけない気がするよな」


『しかし、みんながツルハシさんのように考えるわけではありません。アルマさんの事を、ただのモノとして扱う人もいるでしょう』


「うーん、モノ扱いはちょっと……可哀想だよな」


『アルマさんは人と同じように、泣いたり、笑ったりという反応を見せます。幸せになりたいとさえ、思っているかもしれないですよね』


「だけどアルマの感情を人間と同じように考えていいのかっつーと……」


『難しいですね。彼女はダンジョンハート。唯一無二ですから』


「人間と同じ幸せがあるかっつーと、たぶん無いよな……」


『そもそもですが、アルマさんはおそらく寿命を持たず、複数存在してそれを同じ個体と認識している。あまりにも私達と存在のあり方が違いすぎます』


「全く同じように扱うことが正しいとは思えんよな」

『はい』


「仮に、仮にだ……ほんとに仮にだぞ?」

『はい?』


「例えば、人間とアルマ。放っておけばどちらかが死ぬ。2つの存在を天秤にかける場合、どちらを優先するべきか」


『どちらも大切だと思います。でも、どちらか一方しか助けられない場合は……』

「――すまん、この話は止めておこう」

『はい』


 俺たちの目的には「ダンジョンを消す」というものがあった。


 だが、ダンジョンを消すことは、同時にアルマも消すことになるだろう。


 アルマは、この世界に新しく現れたことわり「神気」に関係している。

 彼女を消した場合、この世界は一体どうなるんだろう。


 それは本当に良いことなのか?

 俺にはもう……わからなくなってきた。


 考えていたら、いつの間にか地上が見えてきている。

 おっといかん、フィルターを着けんと。

 銀座辺りはともかく、海の近くの浜離宮は汚染がひどい。


 二人して競い合うように、若草色の缶詰をマスクにつけた。

 こいつは吸収缶だ。地上の大気に存在する放射性物質を吸い付けてくれる。


 地上に出た俺たちが赤い絨毯をくるんで表示枠にしまうと、いつの間にか俺たちが通ってきた穴は消えていた。なんとまぁ仕事の早い。


「行こうかラレース」


『……お待ち下さい。少し問題が発生したようです』

「えっ何? ――ッ!?」


 いつの間にか、いかにもガラの悪そうな探索者に、俺たちは取り囲まれていた。


 疲れがあるとはいえ、ラレースに気どられずに、ここまで近寄れるとは――

 こいつら、かなりできるぞ。


 俺たちを囲んでいる探索者の装備は、アメリカン・フットボールのプロテクターを世紀末仕様にがっつり改造し、トゲトゲを付けた装備だ。


 うーんいかにも悪そう。

 よく見ると、肩パッドのトゲの部分がアダマンタイトになってる。

 おい、フツーそこに使うかぁ?


 いや、趣味にムダ金を使うほどの余裕がある実力者、ということか。

 ますます危険な相手に見えてきた。


「お疲れの所悪いねぇ……ヒッヒッヒ」

「おっと、そう焦るな。アンタを探してたんだ。ツルハシィ~~?」


 くっ、囲まれた……。


「何のつもりだ?」


「アンタをパーティに招待したいんだ。へへへ……」

「あぁ……最高のパーティになぁ!!!」

「ヒャッホー!!!」

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