イエーイな家
「イェーイ!」
「イエェェェェェェェッイ!!!」
「いやー、親子の絆ってのは良いもんだ。」
「うむ!」
『何か思いっきりぶち当たっていましたが……頑丈ですね』
子イエティが乗った特大の雪玉を、荒ぶる親イエティに真正面からぶつけた所、 第六層の吹雪はすっかり晴れ、平穏を取り戻していた。
第六層「吹雪の迷い道」の、異名の元ともなっている猛吹雪は、ここに住むイエティが、自身と家族を守るために呼び出しているようだからな。
見失っていた子供を抱きあげて、親イエティが安心した結果、第六層を覆っていた吹雪は、完全にその姿をかき消していた。
ただまぁ……少々問題もある。
吹雪が止んでわかったが、一連の猛吹雪で積もった雪が無数の雪洞を作り出しており、第六層をまったく新しい形の迷宮へと変えていた。
これが第六層の姿の変わる階層、その正体らしい。
「イエティの吹雪がこの第六層を作り変えているんですね」
「そうだね~。あの子イエティが迷子になって親が慌てだすたびに、ダンジョンが真っ白になって、リセットされちゃうって感じだね~」
『なるほど……あのイエティの生態もダンジョンの一部というわけですね』
「いやぁまいったね。これじゃぁ開拓のしようもないかな?」
「むむむ、ツルハシ男さんでも、難しいですかな!」
「だめそう?」
「うーん、そうだね……」
ナナの言葉に俺はうなずくするしかない。
ダンジョンを単純に破壊するならまだしも、モンスターが俺と同じように作り変えるとなるとなぁ……。
「イエーィ!」
「イエー! イエー!」
そんな俺の悩みなんかとは関係なく、イエティの親子は盛り上がっていた。
うーん、あの親子を――?
「いや、待てよ……?」
『あ、ツルハシさん、危ないですよ!』
俺はイエティたちに近づいた。
そして、できる限り、あいつらとテンションをあわせてみる。
「よっ、イエーィ?」
「イエーィ!」
俺が近寄っても、イエティは拳を振り上げたりしない。
よしよし……異文化コミュニケーションの第一歩は成功だ。
「えーっと、家、ってわかるか? イエティの家、ある?」
俺は手を頭の上に重ねるジェスチャーで、屋根を表現してみる。
そして、イエティーたちに指を指して、家のジェスチャーを続けると、イエティたちは首を振った。
「イェーィ……」
「うーん、なんて言ってるのかわからん。
『ふむふむ、どうやらこやつらは家を失ったらしいぞぃ』
「イエー!」
「ありゃ、そうだったのか……それで迷子になってたのか?」
「イエー……」
「イエェェッ」
『らしぃのぉ。黒衣の男の手によって帰る家がなくなり、雪原をさまよい歩くうちに子とはぐれ、その嘆きから吹雪を呼び出し――にっちもさっちもいかなくなった、とまぁそんな感じのようじゃな。』
「やっぱりファウストが絡んでたか……しゃーない。なんとかしてやるか」
「イェーィ!」
『ツルハシさん、一体何を?』
「コイツらイエティが安心して暮らせる家を作ってやるんだ。それと、子イエティが迷わないように目印も立ててやろうとおもってね」
「猛吹雪の原因は、コイツラが身を守ろうとしているため。安全なシェルターを用意してやれば、吹雪を作り出す理由もなくなるだろ?」
『なるほど……それでイエティのお家、ですか』
「そういうこと」
しかしうーむ。ダンジョンの壁で小山くらいあるイエティの家を作るとなると、ブロックの量が、ちょっとばかし心もとないな。
ここで取れるものは、と……。
雪にツルハシを振るってみると、サクッと切り取られ「雪」ブロックとなった。
もう一度置いてみるが、べシャリと崩れる。
そのままでは建材としては使い物にならないか……?
いや、建築ならどうだ。
壁の素材に「雪」を選び、スレッジハンマーを振るってみる。
そして、出来上がったモノをさわってみると、カチコチになっていた。
(一応、壁と言えるものが出来るか。これならイケるな。)
「ラレースさん、今回はこの階層の素材を使った建築で行こうと思います」
『えぇ、わかりました。「アレ」ですね?』
ラレースが視線を送る先には、さっきまで俺たちがいた「かまくら」がある。
そう、アレをもう一個作るのだ。
「よし、壁を組み立てていこう」
『はいっ!』
俺は雪を材料に指定して、丘の上に設計図をポンポン置いて行く。
みるみるうちに、半透明の家を組み上がっていくが、今回俺が作っているのは、いつもの豆腐ハウスとは少々
まず、形が違う。
いつもはシンプルな真四角の建物だが、今回作るのはお茶碗を伏せたようなシルエットの、イエティサイズの巨大カマクラだ。
普通に四角で作ると柱が必要だが、あのイエティの図体だと、柱もこわしてしまいそうだからな……アーチ構造にして、強度をかせぐつもりなのだ。
「これでいいかな? 足元からハンマーをお願いします」
『はい、いきます!』
<ズンッ!>
ラレースがハンマーをふるうと、雪の壁が折り重なって、支え合い、丸い壁になっていく。うんうん、いい感じだぞ。
試しに拳で基部を突っついてみるが、彼女がハンマーを振るって造った壁は、雪にもかかわらず、鉄筋コンクリートみたいにカチカチだ。
突き立てられた俺の拳が砕けそう。これなら強度は十分だな。
俺とラレースはカマクラに登りながら、設計図をらせん状に積み上げていく。
最後に屋根の頭頂部、要石となる部分にハンマーを振り下ろし、完成となった。
「ひぇー、こうしてみると高いな」
『この高さ、二階建ての家くらいありますね……』
「すごいね、手作りじゃ絶対ムリな時間で仕上がったね~」
「ま、慣れですよ、慣れ」
「イエー?」
『これをくれるのか? と言っているようじゃの』
「あぁ、そうだ。これがお前たちの家だ。もう迷ったりするなよ」
「イェーイ!」
「イエェェェェェェェェッイ!」
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