ちゃぶ台返し




「南館の状況は?」

「よくありません。散発的な衝突が続いてますが劣勢です」

「脱出経路の確保は?」

「桟橋は完全に暴徒の制圧下です。北側、豊洲方面ならまだ……」

「陸路で脱出しても追撃されるだけだねー。」


「シスター・バーバラ。報告があります」

「ほい、何?」


「シスターが指摘した通りです。暴徒たちの装備はファウストから提供された付呪装備でした。鹵獲した剣の柄から、人の歯が出てきました」


「わーぉ……まさか本当にやらかしたかー。」


「シスター、都市が支援を要求しています。どうします?」

「私にそれ聞くー? ソーチョーの仕事っしょ」

「部屋から出てきません」


「あらら……折れちゃったかな?」


「今、指示ができるのはシスター……いえ、パラディン、貴方だけです」


「シスターでいいよ」


「シスター・バーバラ指示をお願いします。」


「…………わかった。私のやり方で行くよ」


「はい!」


「まずだけど……南の職人街が突破されたら、そのまま西の都市市場の区画は制圧されるね。部屋の多い職人街と違って、西はフロアぶち抜きだから、数が多いほうが断然有利」


「加えて、南の職人街の在庫で、暴徒は再武装できますね」


「うん。西も落ちれば、市場の在庫で連中はさらに活気づく。詰みじゃない?」


「そんな……」


「実質的には、南館で水際防御しないといけないんだけど、西館から回られると孤立する。だから守るこっちは兵力を分散しないといけない、か」


「下手に突出すると包囲されて全滅。かと言って、見捨てても終わり。なんつーか、この作戦考えたやつ、性格悪いわ。」


「シスター、何か手立ては?」


「状況を再確認しようか。まず我々はここ。国際展示場の中心部、会議棟にいる。我々の本来の拠点、聖墳墓教会は西館2階にあるけど、ここは放棄しよっか。」


「そんな……」


「現状、都市からのマトモな支援が望めないからねー。離脱も困難な2階に立てこもるのは意味がない。危険しか無いから、さっさと撤収、再編成させて」


「はい」


「東の自由市場の状況は?」


「――その報告はこっちがしようか」


「あ、師匠。逃げなかったんだー?」


「逃げるったってどこに逃げるのさ。船も沈んじまったよ」


「わーぉ、最悪。で、状況は?」


「都市の兵士は客人たちを各自登録したスペースに押し込んで、指示に従うよう言い含めて、シャッターを下ろして、鍵をかけて閉じ込めちまったね」


「せめて傭兵でも集めりゃよかったのに……アホなのかなー?」


「門前町から暴徒が押し寄せてきた時、それに呼応して火をつけたりした連中がそこらかしこで出たからね……被害妄想が蔓延してるのさ」


「被害妄想?」


「そ、最初はコンコン、悪い風邪みたいなもんだったけど――いまやペストだよ」


「疑い、疑われているって恐怖が、まるで酸みたいに頭に浸ってきて、皆の正気を犯していくんだ。そうなりゃ一緒に戦うどころじゃない」


「隣のやつが敵かも知れない。そんな考えが蔓延まんえんしちまったら、襲撃を退けたとしても、都市としては終わりだね」


「ま、自業自得だけどねー。」


「どっちも正当な取り分を要求しているつもりさ」


「まぁ、それはいいや……師匠、東館の配備状況はどうなってるの? 東館の大きさは、南と西をあわせたくらいの大きさだったよね?」


「大体30人ってとこかな?」

「少なっ!」


「連中、完全にビビってたね。東館でなにかあったら、建物に火を着けて、中の人間ごと焼き払いかねないよ」


「うーん東館を支援するのは問題外、かな」

「だろうね。」


「うーん、なら市長は、会議棟で決戦するつもりなのかなー?」


「だとおもうよ。暴徒たちの狙いは確実に、市長とその取り巻き……この会議棟に家を持つ、富豪や資産家たちをお焚き上げして、ちゃぶ台をひっくり返すのが目的だろうからね」


「なら、今のうちに要塞化、するかー……よし!」


「シスター・バーバラ、指示をお願いします!」


「じゃあね、まず対空砲を引っこ抜いて、対地射撃に使うよ」


「対空砲を、ですか? しかし……」


「危険は承知の上だよ。でも、いま使わないと全てパァになるからね」


「わかりました。技師長に伝えます」


「それと……障壁やバリケードを追加しようか。まず最優先は西館2階から会議棟に通じる直通の空中廊下があったよね。ここに爆薬を仕掛けて」


「な、爆薬ですか?」

「ヒュー! 派手な花火になりそうだねぇ」


「空中廊下を失えば、暴徒たちは地上から上がるしか無い。そうなればこっちは上から連中を撃ちおろせるから、数の不利を和らげることができる」


「東館に通じる空中廊下も、同様に爆薬を仕掛けておいて」


「わかりました!」


「兵士たちには知らせないのかい?」


「ファウストのことを先に知らせなかったのは向こうだからね。何の役にも立たない義理を通すより、姉妹の命の方が大事かな」


「やれやれ、怖いもんだね」


「後は地上にひたすらバリケードを作るよ。エントランスの守りより、チョークポイントを重視してバリケードを作って」


「はい!」


「そうだ。バリケードにする素材が足らなかったら、金持ちの部屋からテーブルでもソファーでもタンスでも、何でも持っていって使ってやろう」


「そいつはいい!」


「こういう時ツルハシがいてくれたら良かったんだけどねー……バンバン意味わかんないもん作ってくれるし……」


「向こうもそう思ってるだろうさ。」


「……よし、こんなところかな。行動開始!」


「「ハッ!!」」

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