正攻法


 俺が顔の横に表示している表示枠、配信画面上では、配信の評価を示すハートが天を目指して飛び交っている。

 その数と来たら、ミラービーストと戦った時の数を軽く超えてそうだ。


 それもそうか。


 ファウストは都市探索者にして、第十層に何度も到達している「黄泉歩き」。

 生半可な探索者では勝つどころか、退しりぞけられる相手とも思えない。


 だが相手はこの俺ツルハシ男。

 理不尽なダンジョンを、それを超える理不尽で突破してきた俺だ。


 正統派 VS 邪道の戦いとなれば……そりゃぁ気になるよな。

 でもまぁ、配信とか視聴者とか関係ない、目の前の事に集中してやるだけだ。


 武器を構える俺たちに対して、ファウストは両手をだらりと下げ、構えらしい構えを取らない。何があっても問題にならない、そんなところか。


「ツルハシ男さんには、是非ともその力を貸していただきたかったのですが……こうなっては仕方がありませんね。直接的な手段を取るとしましょう」


 そう宣言するファウストだが、武器を取り出す気配はない。

 格闘系なのか?


 なら小汚く動こう。相手の嫌がることは進んでやる、だ。


「きっとファウストは白兵タイプですね。遠距離攻撃で牽制しましょう」

『はい!』


 ラレースはファウストに対して「十字軍」を宣言。

 スキルを強化して、盾から防御壁を展開した。


 しかしまぁ、この吹雪と雪はお互いにとって厄介だな。粉雪がまとわりつくんで足元はおぼつかないし、雪が音を吸って、相手が何をしているのか読みづらい。


「ラレースさん、安全のため今のラインを堅守してください。決して前には出ないよう、気をつけてくださいね」


『承知しました』


 俺たちの中で有用な遠距離攻撃手段を持っているのは、ナナ、それとジンさんくらいだ。だけどジンさんはそこまで戦闘に振り切っていない。


 なのでここは、ナナの投げ槍が頼りだ。


「ナナ、頼む」

「うんっ!」


 ナナは原始的な作りの石槍を、投擲するために振りかぶった。


 吹雪で白く染まった天を仰いだ木槍の穂先には、黒曜石の欠片が魚類の歯を思わせる様相でハメ込まれている。この白一色の世界では、それがよく目立った。


 この武器は彼女と同じ「鷲の戦士」たちがスペイン人の侵略者に対抗するために使っていた。だが、敵が着込んでいたのは鋼の胸甲。

 石の槍は鋼には無力だった。


 だが、今では関係ない。

 たとえ獲物が鋼の皮で包まれていようとも、彼女が投げた石槍は敵を貫く。今の世界では、武器の威力は武器そのものよりも、信仰やスキルのほうが大きく影響するからだ。


「天の星、光のさざなみに届け――『アトラトル』!!」


 冠羽を揺らしたナナが、右肩を振り切って石の槍を投げつけた。

 青く燃え上がり、彗星となった槍はファウストの胸に吸い込まれていく。

 だが――


 ハエでも払うように手をふると、彗星は弾け、光は雪原の間に消えた。


(さすがは黄泉歩き。5,6層の探索者の実力じゃ、傷もつかないってか?)


「事もなげに弾かれましたね」

『ツルハシさん、ファウストの骨の甲冑、あれを見てください!』


 ファウストが身に着けている強化外骨格、それが赤く脈打つように光っている。

 奴の戦闘力の源はあれで間違い無さそうだな。


「きっとあれ……あの骨全部が全部、付呪エンチャされているパーツを組み合わせた装備なんですかね?」


「医学的見地から言うと、人間の骨は全部で206本かな~?」


 ジンさんが有り難くもあり、有り難くもない情報を俺にくれる。

 なにそれぇ……。


「つまり、彼はあの鎧に200種類のスキルを封じているというわけですな!」

「ダンジョンもそうだけど、それに適応した探索者もクソたわけてるなぁ……」

「覚えるのが大変そう」


 ファウストは防具に大量のスキルをまとめているのか。


 恐らくそのほとんどは、装備していれば効果が発揮される強化系スキルだろう。

 200個のスキルを頭に入れて使い分けるなんて事は、多分してない。


 俺なんか、10数個のブロックを扱うだけでも割とキツイんだからな。

 ファウストの半分の半分、50個でもムリだわ。

 

「そろそろ終わりにしましょう」


 ファウストは雪原を蹴り、漆黒の弾丸となって俺たちに迫ってくる。

 見ると、雪原をけるヤツの脚を包む骨鎧は光り輝いていた。

 やはり付呪がされているのか。


「ラレースさん、スキルを!」

『はい! 「インビンシブル」!!!』


 ラレースは数秒の間、完全に無敵化するスキル「インビンシブル」を使った。

 このスキルを発動させると、こちらから一切攻撃はできないが、ほとんどの攻撃を反らすことができる。


 時間稼ぎにしかならないが、今はこれで十分だ。


「守りを固めましたか。では割らせていただきます」


 影を地面に置いていくように、雪原を駆けるファウスト。


 ヤツは肘から手の先へ、染み出すようにして伝ってきた漆黒の炎をたぎらせると、手のひらを手刀の形にして振りかぶり、そして――!


<ズガァァァァァン!!!!!>

 

 俺たちの眼前で大爆発が起きた。雪が舞い上がり、白い柱を立てる。

 その光景はさながら、雪原に巨人が立ち上がったかと錯覚するほどだ。


 爆圧はインビンシブルを発動したラレースの側を通り抜け、俺たちの足元と、その後ろ以外の雪を根こそぎ吹き飛ばし、黒土をあらわにした。


『うわぁ……前に出なくてよかったです』

「ありったけのダンジョン製地雷を、目の前に仕掛けましたからね」


 ――そう。

 俺たちに比べ、はるか格上の探索者であるファウスト。

 そんなヤツと、まともに戦うつもりなんて俺には最初はなっから無い。


 吹雪で地面が埋もれているのをこれ幸いと、大量の地雷を埋めまくったのだ。


 本物の地雷を雪の上に置けば埋まり込むが、ダンジョン製ならその心配もない。 

 その上に立てば100%発動し、周りも巻き込んで誘爆する。


 ガハハ!

 誰がこんなやつと正々堂々なんていう、危ない橋を渡るか!!!

 これが俺の正攻法じゃい!!!


 風で舞い上がった雪が煙のようになって、俺達の視界を塞ぐ。

 だが、雪煙が吹雪で追いやられると――


 そこにはまだ、奴がいた。

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