神のモノ、人のモノ
「全ての人間を神にする……ご大層な事を言いだすね」
「それで――返事はいかがでしょう?」
「ファウスト、アンタの話には乗れないな」
「理由をお
「シンプルに目的が違うからだよ。」
「俺とラレースは、人の心の救済なんてことは目的にしてない。」
「俺たちがやりたいのは、ダンジョンを開拓して、楽に攻略できるようにすることで、不幸な人を少しでも減らす――それだけだ。」
『それに私たちは、「神」に対して人の全てを委ねるほど盲目でもありません』
「では、貴方達は人は今のままで良いというのですね?」
「
『人が神になったとしても、神同士の
「それの何が悪いのです?」
『なッ――!』
「正気で言っているのか?」
「はい。人ならざる『神』の視座から行われた選択に間違いはありません」
「なんでそこまで神を盲信できるんだ」
「人類の歴史上、この『神の力』より優れたものは無いからですよ」
『その力を得るため、自分自身はもとより、自らの子供の命まで捧げる必要があるというのに……それが優れた力なのですか!?』
『ダンジョンが生まれ、神が現れる前の世界は失敗し、死に絶えたかも知れません。ですが、その世界には死ぬために生まれる人なんていませんでした!』
雪を踏みしめ、前に出て言葉をぶつける彼女。
ファウストは
「ラレースさん、でしたね。あなたが知っている世界は死んでなどいません」
『それは……どういう意味ですか』
「あなたが知っている世界は決して存在しませんでした。存在しないものが、どうして死ぬことが出来るでしょう」
『私達の世界は……幻などではありません!!』
「いいえ。あなたが得たのは残像です。権力者が映し出し、強欲な者たちが歪めた結果生まれ、世界に焼き付いた残像です。」
「その時代にも、死ぬために生まれた人々はいました。むしろ、今よりもずっとその数は多かったことでしょう」
「なぜなら……その時は『不完全な人が神に類する』ものだったからです」
『…………』
「『良い』『悪い』は主観的なものです。今を判断できるのは、今を生きる私達だけです。人類の歴史上、今より優れた時代はありません」
「……バカな事を言うな。コンビニに行く感覚で命を捨てる人間が山ほどいる今のどこがマシなんだ」
「今の時代の不幸な一面ですね。ですが、それに
「今の時代を生きる私たちは、神に対価を支払うことで熟練の職人、戦士の技を手に入れることができます。それも――ほぼ即座に」
「捧げるという意志さえあれば、人は神の知恵と力を手に入れられるのです。かつては経済、人種、階級、年齢、遺伝子と言った乗り越え難い障壁がありました」
「だけど、それをやりすぎると――ファウスト、お前みたいなトンチキな事を言い出し始めるってわけだ」
「ツルハシ男さんには理解して頂きたいのですが、難しいことでしょうか」
「あぁ、難しいね。それは決して物事を間違えない世界じゃない。間違えたってことを認めない世界だ。」
『ファウスト――あなたは光の中で目が
「……率直に言いますと、『以前と比べて良い』と言うのが、私達が触れ得る全てを判断する、最良かつ唯一の方法です」
「かつて、私達の祖先は
「ですが、結果はいつも同じでした。より善き未来を求めて行き着くのは、今という現実の否定、そして幸せの代わりに創り出される、灰と死体の山」
「それは――全ての人が『良い』と思える時代は決して存在しないからです」
ファウスト、まさかこいつ……!
「すべての人が無理やり『良い』と思わされていれば不幸は存在しないとでも?」
「はい。不幸は人が自らの言葉でくくり、見出すものですから。その
「――人の救済は
「もしそれを拒否されるとなれば、多少力づくでもご協力願いましょう」
『ツルハシさん……』
「あぁ、わかってる。」
ラレースは盾を持ち上げ、戦鎚を持ち上げる。
俺の背後でも、レオとナナが武器を構える音がした。
「ファウスト、お前は身勝手な欲望を『神』に全部押し付けてるだけだ」
「お前の目的は人類を神という存在に『上げる』こと。それで失敗や破壊を繰り返してきた、人間の弱さを乗り越えることを目指しているんだな」
「左様です。」
「だけどそれだって、結局『神』に責任を押し付けてるに過ぎないだろ」
「言ってみりゃ、他人にサイコロを振らせて、その結果を受け入れるだけの人生を送れって言ってるようなもんだ。その生き方は、何ひとつ自分のものじゃない」
「俺はそんなモンを受け入れたいとは思わない。」
「手ひどい失敗だって俺のもんだ。」
「別に失敗したって良いだろ。今みたいにケツ拭けばいいだけの話だ。俺は十層に到達して、地獄門を開くつもりだ。――だけど、その場にお前はいない」
俺の拒絶を受け取ったファウストは、肉のない顔で笑ったように見えた。
「俺はここでお前を否定する」
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