インチキVSインチキ

『させません! 「フラッシュ」!!』


 ツクヨミが走らせた影の間に、ラレースが割り込んで閃光を放つ。

 すると、触手の影は消えるどころか、実体となって現れた。


『なっ?!』


 そのまま触手はラレースに絡みつき締め上げる。

 何で影が消えないんだ?!


「これはこれは……ありがとうございます。強い光があれば、強い影が差すもの。実体化させる手間が省けました」


『うっ!!』


 金属同士が擦り合い、ギリギリときしむ音がする。このままじゃ不味い!

 槍……毒矢……ダメだ、このトラップの攻撃は「点」だ。

 触手には範囲が狭すぎて通用しない。何か他の……ある、あるぞ!!


 俺はかっぱらった「ギロチン」を、ラレースの前に置いた。これでどうだ!


<ジャキン!!>


 天井から落ちてきたギロチンは立派に役目を果たして、触手をぶった切る。

 墨汁みたいな真っ黒い血液を断面から撒き散らし、触手は床に転がった。

 何これすごい。


「ラレースさん、大丈夫ですか?」

『はい……迂闊でした、すみません。ツルハシさんのお陰で助かりました』


「おや、こうも簡単に千切れるとは。概念を相手にするのは厄介ですね」


 なんか意味わかんないコト言ってるけど、触手を失ったツクヨミは無防備だ。

 今が攻撃のチャンスだな。


「みんな、今がチャンスだ!」


『ツルハシがやられちゃうとオモチャが減るし、いちおー相手するかぁ』

「だね。アタシも飲み友だちが減るとちょっと困るからね」


「神様相手にしてるのに、軽ッ!」


「何いってんだい。相手もこっちも、使ってるモンに変わりは無いんだ。ビビることなんて何もないよ」


「それはそうですけど……軽いなぁ」


「奇跡の大安売りは今に始まったことじゃないからね。……スサノオ、来な!」

『うむ! いざ舞い遊ぼうぞ!』


 ミコトさんが信仰しているのはスサノオなのか。

 なんていうか、実に師匠っぽいな。


 アバターを降ろすと師匠の雰囲気が変わる。

 背中の赤髪が舞い上がり、体がなんか大きく見えた。


『師匠、合わせるよ!』

「あいよ!」


『ツルハシさんは私の後ろに』

「あっはい!」


 臨戦態勢を取った師匠に、バーバラが動きを合わせる。


 リンと鈴の音をさせて銃を折った彼女は、一度に5、6発の弾丸を銃に込めた。

 ちょ、それ大丈夫なやつ?!


『太く短く、いっくよー「カロネード」!!』


<ドゴォォン!!>


 バーバラがぶっ放したスキルは轟音と共に複数の火球を生み出した。

 ……が、俺たちの頭の上を飛んで行くそれは、目に見えて遅い。


 え、こんなんで良いの? と思った瞬間、師匠が動いた。


「いざ、舞いめる『燕飛えんぴ』!」


 空中を爆炎が泳いでるその時、師匠がスキルを使い、影も追いつけないんじゃないかという速さで剣を振った。


 師匠の剣はツクヨミの居た空間を断裂させ、そこにバーバラのはなった火球が落ちてきて爆発する。


 弾けた火球から解き放たれた炎は、師匠の剣筋に沿って走り、熱っぽい風が渦を巻く。明らかに爆炎が落ちていない場所にも、被害がおよんでいた。


 戦闘職にはスキルを重ね合わせて、効果を強くする「連携技」があるって聞いてたけど、実際やるとこんな感じなのか。はぇーすっごい。


『あらら、なんかあっさり終わった?』

「思ったより、あっけないね」


 ツクヨミは空間を荒れ狂った爆炎で焦がされ、爆風と剣撃で胴体を大きくえぐられて、手足が無くなっている。

 うわぁ……これはお子様には見せられない。


 これじゃあ、配信に論理フィルターが……ん、効いてない?!


「違います、あれはニセモノです!! 配信のフィルターが効いてません!!」


「――ッ! そこか!」


<ギィン!!>


 俺の背後に回ったツクヨミが不意打ちを仕掛ける。が――

 師匠が俺とヤツの間に入り、剣を背負うような構えで体をひねって切り払った。

 手指を刃に変形させたツクヨミの腕が斬り飛ばされ、宙を舞う。


「狙いがはっきりしてるから助かるね!」


「これはこれは……惜しかったですね」


『めっちゃ贅沢な使い方したのに……無駄ってことぉ?』

「みたいだね。」


 ぶった斬られ、ダンジョンの床に落ちた手は、水に溶けるようにして消えた。

 これはダンジョンネズミの分身がやられて消える時と同じだ。


「師匠、ツクヨミのやつは幻影のようで幻影じゃない。いったい何なんです?」


「よくはわからないけど……存在がズレてるんだろうね。受肉してこの世に現れたとはいえ、ツクヨミの本質は影ってことなんだろう」


「えーと、つまり?」


「幽霊と人間のいいとこ取りってことだね。向こうはこっちに自由に干渉できるけど、こっちからは干渉できない。いやー笑うしか無いね!! ハハッ!」


『笑ってる場合ですか!!』


 クソッ! 完全インチキじゃねぇか!!

 一体どうすればアイツを仕留められる……?

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