神の力、人の力
「あのインチキ野郎をどうやって倒せばいいんだ?」
俺に不意打ちを仕掛けたツクヨミは、今は師匠と戦っている。
彼女が振るう剣に対して、奴は腕を刃に変えて切り結んでいる。剣術は師匠の方が上みたいだ。ツクヨミはたびたび腕や足を切り飛ばされている。
だが、いくら手足を切られてもツクヨミは死ぬ様子がない。
切り落とされた腕が落ち、床の上で溶けたかとおもうと、元に戻っている。
こんなHP無限チート野郎を相手にどうしろと?
いや……何か方法があるはずだ。
『師匠がぶった斬りまくってるのに、アイツ全然効いてないよ?』
『まるでダメージになってないみたいですね。これではキリがありません』
光で実体化……概念とかなんとか……。
ダメだ。何か繋がりそうだが、手がかりが
トラップは効いたが、ダメージと言うには微妙だ。
もっと根本的な対策をする必要がある。
「なぁ、
『うむ、その者たちの強い信仰を後押しにして、こうして現実の世界に現れているんじゃろう。じゃが、まだ薄いのう』
「完全に現れるには、まだ信仰が足りてないってことか?」
『うむ。じゃからこそ、触手や刃にした手足と言った、末端だけを実体化させて、こちらに干渉しているんじゃろうな』
信仰が、祈りが足らない。だから肉体が中途半端ってことか。
――あっ、ふーん……。
配信の様子は……お、これならいけるんじゃね?
「
『ふむふむ……行けると思うが、お主ってホントにアレじゃな』
「ま、いいだろ? モノは試しだ」
『まぁやってみぃ』
・
・
・
<ギィン!>
<カキィンッ!!>
「少し疲れが見えますよ。そろそろ休まれては?」
「あんたみたいな男の相手が、かったるくて仕方がないだけだよ!」
<ギンッ!!>
「ツルハシ! こいつを何とかでき……なんとか……?」
俺は師匠とツクヨミの前に立ち、Gomazonで買った下から1番目のお神酒(工業用アルコール添加、飲用不可)を捧げるようにして腰を前に折った。
「ツクヨミ様!! 私が悪ぅございました!!!」
「ちゅるはしは貴方様のシモベでございますぅぅぅぅ!!!」
『はぁ?! なにやってんのツルハシ!?』
『ツルハシさん!?』
「ツルハシ、キサマ……私に祈る、だと……? ――まさかッ!!」
「配信をご覧の視聴者の皆さん、ツクヨミに祈ってください!!! ダンジョン安全でも学業成就でもなんでもいいです!! そうすればこいつは実体化して――」
「ブン殴れるようになります!!!」
「キ、キサマァ……!!」
俺は配信を見ている視聴者に語りかけ、眼前のツクヨミに祈るよう頼んだ。
いつの間にか、配信画面に表示されている視聴者は100万近くになっている。
このうちの10人に一人が祈ったとしても10万人だ。この物量なら、ミラービースト1体の祈りの重さなんか、軽く飛び超えるだろう。
ケヒャヒャーーー!!
ツクヨミのアホめ、現代の配信文化を甘く見たな!!
俺様の元◯玉を喰らえええええええ!!!
「なんてったって実際に居るんです!! さあツクヨミにお祈りしましょう!! 合格祈願、交通安全、病気平癒! 何でも引き受けてもらえますよ―!!!」
「祈るなら今!! さぁ皆さんご一緒に! ツクヨミさまー!!」
『ゲ、ゲスい……!!』
「こんな斜め上で来るとはねぇ……」
『そういえばそうでした。ツルハシさんは遠慮なく他人を頼って、こういうことをする人でした……』
視聴者に祈りを捧げるよう、俺が頼んでから間もなくそれは起きた。
ツクヨミの体に異変が起き始めたのだ。
「『不味イ、この肉体には、祈りが収まりきらン……ッ!!』」
ツクヨミの体がねじまがり、その姿を変える。
形の良かった顔は潰れ、無定形の肉の塊となり、ポッカリと穴の空いた円錐形の頭部に変わる。長いすらっとした脚は3本の肉肉しいものに生え変わった。
しなやかなだった手も。
その姿は、まさに
「こいつは……『邪神・ニャルラトホテプ』!!」
「知ってるんですか、師匠?」
「ああ。千の
「よくわかんないですけど、神様の力の借りパク野郎ですか」
「『おい!!! 言い方ァ!!!』」
「ツクヨミの名を
『完全に実体化した邪神なんて始めて見ましたよ……』
『あんまりしたくない体験だね―』
「『ツルハシ男、あなたは本当に面白いことをしますね……』」
「照れるわ」
「『褒めてませんよ。しかしここは退くとしま……退く……アレ?』」
「ツルハシの視聴者から、あんだけの信仰を受けて実体化したんだ。いまさら影になって逃げられるわけ無いだろ」
「『アッ』」
『さて、逃げる心配がなくなったところで』
「おしおきタイムといくかね」
「『アッアッアッ』」
・
・
・
俺の言語能力ではとても言い表せないような、きっついお仕置きを受けたニャルなんとかという邪神は消えた。恐ろしい戦いだった……。
ぶっちゃけ俺、何もしてないけど。
「ふぅ。正義の勝利ですな」
『あれを正義と言ったら、何か大事なものを失いそうです』
『ま、それはそうと』
「だね」
『ツルハシの友だち……やっぱやめよっかなー』
「あたしらにも世間体ってもんがあるしね」
「そんなぁ?!」
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