ツキの神
「視聴者の皆さん、見てください!! 目の前のダークゾーンにミラービーストを封印しました!!!」
「ダークゾーンなんだから、見えるわけないだろ」
「うっ……」
『なんか「もう終わり?」とか「自演乙」ってコメントがすごいよー?』
「ぐぐ……ッ!」
表示枠で動画を確認してるバーバラと師匠の突っ込みが的確すぎる。
俺だってこんなにサックリ終わるなんて思って無かったんだよッ!!
俺は暗黒空間の前に立って手を広げ、イェーイ! って感じで、必死に視聴者に勝利をアピールしている。
が、何ともきまりが悪い。ミラービーストが勝手に閉じこもり、俺はそれにダークゾーンを
何ていうかアレだな。
アクション映画で悪役のボスと対峙するシーンで、真横から暴走車両が突っ込んできてボスがはねられて終わりみたいな、そんな唐突な幕切れとなった感じ。
これはクソ映画……いや、クソ配信呼ばわりされても仕方がないわ。
『ツルハシさん、お疲れ様でした。今そちらに戻りますね』
「あっはい。ラレースさんもお疲れです」
『どーすんの? この消化不良感。ツルハシが裸で踊るー?』
「しないですよそんなコト!! ていうか、焼けて死にますって!!」
「まあ終わっちまったんもんは仕方な……ん?」
「どうしました、師匠?」
「……まだ終わってないみたいだね」
「ダークゾーンが……小さくなってる?」
音もなく、潮が引くようにダークゾーンが小さくなって行く。俺たちのブ―ツの先くらいにあった暗黒空間がしぼんでいき、ランタンの中に収まった。
そして次に、奇妙なことが起きた。ランタンから闇が垂れてきたのだ。
粘り気のある水みたいにして、黒い闇がダンジョンの床に垂れて広がった。
そして、その闇はぬらりと立ち上がって、人の形になった。
闇から立ち上がって出てきたのは、黒いスーツを着た、細身の青白い顔の男。
目を引くのは床をこすりそうな長い黒髪と、その顔だ。
男の俺が見ても、顔に水をかけられたみたいにハッとする。そんな顔だった。
何故かはわからない。
だがひと目見て、こいつ人間じゃないなと思った。
『な、なんか出てきたよ?』
「ダークゾーンから人が出てきた? ……そんなはずは」
「人間なワケないね。後ろのランタンを見な、ツルハシ」
(――ランタンを? ……あっ!)
ダークゾーンを生み出すはずのランタンは空っぽになっている。
こいつまさか、ダークゾーンを「喰った」のか?!
「それに、このクソ暑い中、足元が燃えてるってのに、スカしたエナメルの靴ってのが気に食わないね」
あっ、ホントだ。普通の靴な上、マスクもしてないじゃん!
マジで何なんだこいつ?
「お前は一体何なんだ!? ミラービーストなのか?」
「いいえ。私は彼らを見守っていた者です」
「見守っていた……? おまえが人をモンスターに作り替えたってことか!」
「作り替えた、ですか。『引き出した』の方が正確ですね。私は、あれが彼らの姿だと思っていましたので」
「顔の割に、趣味は悪いんだな。」
「あとクジ運もよくありません。人々にツキを呼ぶ神なのに、型なしですよね」
『ツキを呼ぶ……? それに『影術』、闇を司るとなると、
「知ってるのか、
『うむ。月を司り、夜を統べる神じゃ。イザナギという父神が、冥府の
「えーっと……よくわかんないけど、すごいえらい神様?」
『じゃな。かなり偉いぞ』
大国主の説明を聞いた男は、口を三日月みたいに曲げてニヤリと笑う。
何とも嫌な雰囲気だ。
しかしそんな偉い神様が、なんでこんなところに?
それにどう見ても実体をもってるけど……神様本体を見るなんて、始めてだぞ?
「ツクヨミ……あんなモンスターを作って、どうするつもりだったんだ?」
「簡単なことです。あなたのその力。ダンジョンを作り変えられる力を、そんな風に使ってほしくなかったんですよ」
「なんだって? じゃあお前はミラービーストがやったみたいに、ネオ・ボケカスクソたわけダンジョンを造ってほしかったってことなのか?」
「……まぁ、その通りです。ですが……彼らは私が彼らの祈りの対価として与えたもの、それを手放してしまいました。――自分たち、それ自身を。」
「末世まで続く闇に絶望した彼らは、私にすべてを捧げました。なので、肉の体をしばしお借りした次第です」
「スキルをどう使おうと、こっちの勝手だろ? それでツクヨミ、わざわざ出てきて次は何をしようっていうんだ?」
「中断ですね。次はもっと利己的な人物にそのスキルを持ってもらいたいのです。混沌と闘争。それがより多くの祈りを生むので。」
「……あんた、本当に
師匠が投げかけた疑問に、ツクヨミは答えない。
眉ひとつ動かさず、こちらに半身を向けるようにして構えた。
「ツルハシ男、あなたの存在は少し大きくなりすぎた。これ以上大きくならないよう、今のうちに
男が喋り終えた瞬間、足元から巨大な黒い影が伸びる。そしてバッと裂けたかとおもうと、無数の触手となって俺たちに襲いかかってきた。
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