懐かしい顔(顔無いけど)

「――よし、このトラップもこれで無力化しましたね」

『それにしても……凄まじい数ですね』


 俺はギロチン通路を突破した後、さらにえげつない罠地帯に遭遇した。


 回転床と移動強制床を組み合わせ、間違ったパネルを踏むと、槍やダガーの舞い踊るキルゾーンに送り込まれてミンチになる、ダンシング刺殺広場。


 その次が、十字通路に無数の地雷を設置、そして迷い込んだ者の背後に突如現れる吊り天井の壁で被害者を閉じ込めて爆殺する、ボン◯ーマン回廊だ。


 今は注意深く地雷を撤去しているが、よくもまぁ、あれこれ思いつくもんだ。

 ……くやしいけど、ちょっと参考になる。


『第一層にこんなに大量の罠は無かったはず。ミラービーストが他の階層の罠を、ここに持ってきたんでしょうか』


「かもしれませんね。一層の防御を集中的に強化するつもりだったのかも」


「ふーん、水際防御のつもりかね? ダンジョン内の罠の数は限られている。だから一層に全てをまとめて、そこから先へは進ませない、そんなところかな」


 おっと、俺たちだけで納得するところだった。

 ミラービーストの目的を、配信の視聴者にも説明しないといけない。


「えー、これは推測だったんですが、確信に変わりました。ミラービーストがダンジョンを封鎖する目的は、スタンピードを発生させることにあったのでしょう」


「ダンジョンの中のモンスターが増加すると、モンスターが外部にあふれ出ることがあります。ミラービーストはそれに混じって、ダンジョンの外へ出るつもりだったのでしょう」


「第一層をこれだけ複雑化させたのは、一刻も早く、スタンピードを起こすため。そう見るのがよいでしょうね」


 かなーり雑な説明だが、コレでいいだろう。


 後は……スレ民に任せるか。他スレに書き込んだり、まとめサイトに載せるなりで、俺の身の安全のためにも、名誉を回復してほしい。


 俺の安全は=ダンジョンの開拓が進むこと。つまり、彼らの利益だ。

 たぶんやってくれるだろ。ていうかやってお願い。


 俺は最後の地雷を撤去して、次のフロアに進んだ。すると――


「なんだ。思ったより遅かったな。もしかしてビビってる?」


 ダンジョンの大部屋の向こう側に俺が居た。

 いや、ミラービーストが出したツルハシ男だ。


「こんだけ罠だらけにして、ビビッてるのはお前だろう。足元を地雷で埋め尽くさないと眠れないのか?」


「あーごめん……守ってくれる友だち、居なさそうだもんな」


「……クソがッ!」


「性格の悪さは本物の方が上だね」

『だねー。ちょっと友だちやめようかなってレベル』


「待って?!」


 っと、こんな事やってる場合じゃない。


 ミラービーストと対峙できたのはいいが、問題は本体だ。

 本体を追い詰めて、ダークゾーンの中に閉じ込めないといけない。


 奴が扉や壁、空間を超えて幻影を出したところは見たことがない。

 つまり、この部屋の中にいるはず。


 でも、明鏡石の鉱床、念のために取っておいた2つしか残ってないんだよね。

 どうやって姿を見破ってやろうか……そう考えていた時だった。

 ミラービーストが俺の幻影の横に、その姿を現したのだ。


 こういっちゃなんだが、相変わらずキモいな。


 奴のカエルのような下膨れの体躯は、灰色のヌメッとした皮膚に覆われている。ボテッとした印象なのに、バッタみたいな足だけが妙にスマートだ。


「「クソ! クソッ! 怖がってなんかいない。来い、相手してやる」」


 どうやらミラービーストは俺の挑発に乗ったのか?

 好都合だな。


「向こうから姿を表してくれたのは助かります。行きましょう」

「待ちな」


 前に進もうとした俺は、師匠に行く手をさえぎられた。


「足元注意ってね……フンッ!」


 師匠が直剣を抜いて、白刃を飛ばす。鳥が水の上を飛んで波紋が広がるように、何重もの衝撃がに吸い込まれていった。


 すると、グシャグシャと何かを砕く音がして、床が消えた。

 床とおもったのは、全部幻だったのか?! 危ねぇ!


『……なんですかこれ、凄まじいことになってますね』


「懐かしい顔がいるなぁ……いや、顔無かったわ」


 完全に忘れてた。そういやこの部屋、位置的にアイツの部屋だった。


 いくらぶっ倒しても、数を保ってリスポーンする、最強の時間稼ぎモブ。

 ザ・骨折り損。マッドマンの部屋だ。


 いや、今はちょっと違うかもしれない。


 なにせ連中、地面から吹き上がる熱で焼かれて、ちょっと表面がレンガっぽい。

 見ようによっては、クレイゴーレムに見えないこともない。


 そしてこれもミラービーストが置いたものだろう。

 マッドマンがうろつく床には、回転するブレードが付いた柱がある。


 その柱に付いてるブレードがぐるぐる回って、あーうー言いながら近寄ってくるマッドマンを、ズバズバ切り裂いている。


 つまりどういう事か?


 普通、マッドマンは盾なんかで押しのけて、その間に通るのが正攻法だ。

 しかし勝手に死なれてしまうと、部屋のどこかでリスポーンする。

 例えば、誰かの足元とかね?


 つまり、あのトラップは押しのけ対策だ。あれがあると、押し出して安全圏を作るという戦法が、まったくの役立たずになる。


 本当に面倒くさいことしよるな、こいつ?!!

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