鏡の中の瞳




「アイツが来てる。おでたちの罠も見破られた。どうしよう」


「あなたは強い、もっと自信を持って」


「俺は強い……でも、他の探索者ならともかく、あいつらに自信は持てない」


「そんなことは無いわ。あなた達にはたくさんの仲間がいる。」

「このダンジョンのみんなが、あなた達の仲間なのよ」


「でも……おでたちの仲間言うこと聞かない。」

「ついてこい聞かない。おでたちだけで、どうする?」


「スケルトンでさえそうだ。閉じ込めて動かないようにしないといけなかった」


「そう、難しい。だから簡単な方を選ぶのよ、相手について来させるの」


「ついて……来させるとは?」


「アイツらはあなたを追ってる。あなたを傷付けるのが目的。あなた達の骨を砕いて、肉を裂いて……神のイケニエにするのを目的にしている」


「うぅ……こわい。逃げたいよ」


「そう、だから逃げるの、あなたの友だちがいっぱいいる部屋に。」

「ここにあるわよね? たくさんの友達がいて、決して尽きない場所が」


「わがった。おでたちの友だちいっぱい、いる部屋ある。そこ逃げる」


「いい子ね。心を強く持つのよ。あなたは強い、どんな存在より。」

「そう想えば、あなたはもっと強くなれる」


「本当か……俺たちは負けてばっかりだ。きっとアイツらには勝てない」


「もう2回ま、まけた。……に、2度あると3度って、No.4が」


「3度目の正直っていう言葉もあるわ。勝てるわ」

「う、うん……」


「ただ運が悪かっただけ。他の探索者には、あなたは勝ててるんだもの。」


「アイツらにだけ勝てない。そんなことはあり得ないわ。あなた達は悪くないわ……」


「俺たちは、悪くない」


「あなたは二人分の魂に経験を刻み込んでいる。強い意志で求めれば……あなたはもっと上に行ける。それこそ私達のいるこの場所にも」


「ほ、ほんとう? おで、ツクヨミに会いたい」


「えぇ。私もあなたに会いたいわ。それを強く想うの」


「聞いて……彼方かなた、こちらとあちらよりも遠くから届く私の声を」

「そして感じて……あなたの心に生まれたものを」


「うん……俺も君に会いたい。もっと強くなって、会いたいって思う」


「――信じて」


「うん、おで、ツクヨミの言う事、信じる」


 灰色の獣は目の前の明鏡石に向かって語りかけていた。

 いや、言葉を投げかけているのは、鏡の中に浮かんでいる月だ。


 月は鏡の中にだけ、ぽっかりと浮いている。


 獣の側、現実の世界にそれは存在しない。


 ただ、虚像の中にだけ、獣に答えを授ける光があった。

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