ユウキという少年

『えっと君は……家来になりたいのかい?』

「はい、お願いします!!」

『名前は?』

「ユウキです!!」


『ユウキくん。ここは往来だ。通る人の邪魔になるから場所を変えよう』

「……わかりました」


 ユウキという少年を連れ、俺とラレースは集合場所に向かった。

 ふと、ラレースの様子が妙なのに気づいた。

 足をすぐに踏み変え、明らかに落ち着きがない。


「ユウキ、俺は彼女と話すから、そこで待っててくれ」

「は、はい!」



『参りましたね……どうしましょう』

「家来になりたいっていうんだから、してやればいいんじゃ?」


『それが……そう簡単な話でもないのです』

「うん?」


『彼、ユウキくんは未契約者。神気を全く持っていません』

「まぁ、無一文ってことだよな」

『それは問題では無いです、問題なのは信仰がないということです』


「あぁ教会的には問題か」

『はい。それに彼が何をしようとしているのか、それもよくわかりません』

「だから、家来にはできない?」

『残念ながら……』


「でもラレースはユウキを追い返したいって雰囲気じゃないな」

『彼が何か問題を抱えているなら、その助けになりたいですが……』


「いまは助けを求める手、全てに手をさし出せる状況じゃない、だよな?」

『はい。ミラービーストの問題があります』


「じゃ、てっとり早く本人に聞いてみるしかないな」

『話してくれるでしょうか』

「話してもらうさ。今の震えたラレースの声じゃ、彼がそれどころじゃなくなる」

『ツルハシさん……』


 俺はユウキのもとに戻ると、座り込んでいた彼の横に腰を掛けた。


「よっと……さて、ユウキ。君は何で家来になりたいんだ?」

「あの……あなたも騎士なんですか?」

「鋭いな。俺は彼らと一緒に行動してるが、騎士じゃない。家来でもないけどな」


「……」

「だから、第三者として冷静にお前の話を聞ける。ユウキ、言ってみな」


「僕の友達が『都市』に入ったんです。でも、それから全く連絡がなくって」

「ユウキの友達が?」

「はい。みんなで『都市』に住もうって……でも、僕は何も取り柄がないから」


 取り柄が……うん? 都市に住むのに取り柄が必要?


 俺のホームの銀座ではそんなことはなかったぞ。

 勝手に入り込んでダンボールをしいて寝れば、それで住民じゃないのか?


「なるほど。それで騎士の家来になって、荷物持ちにでもなれば『都市』に入れると思った。そういう事か」

「はい。」


「ユウキの友達はどうやって『都市』に入ったんだ? 取り柄ってのは?」


「イツキは手先が器用だったし、ヒナタは歌が上手で……でも俺、グズで、二人と違って神様と契約もしてないし、自分の力じゃ何も出来なくて……」


「他の都市じゃダメなのか? 銀座なら、ちっと汚いが誰でも受け入れる」


「お台場じゃないとダメなんです。みんながお台場にいるから……お台場は安全って聞いて、北の豊洲から何とか渡ってきたんです。今さら戻れないです」


 ふーむ……。

 友達や周囲に負け犬として見られるからって感じじゃないな。

 本当に友達のことを気にかけてる感じがする。


「でも入り込んでどうするつもりだったんだ?」


「みんなと約束してたんです。お台場で、みんなの部屋を持とうって。だから、何をしてでも働くつもりです。『都市』の中に入るチャンスさえ貰えれば!」


「それだけのやる気があるなら、入れてもらえそうだけどなぁ」

「……」

「悪い。別にお前のやる気を疑ってるとか、そういう意味じゃない」


「実は、お台場は俺も始めてなんだ。訪問者として入っただけで、『都市』の中に住んでるわけじゃない。住人はそんなに特別なのか?」


「はい。お台場の『都市』。国際展示場はお金持ちの商人と、職人の街で……外から来た僕らが住人になろうとすると、職人に弟子入するか、召使いや芸人にならないと無理なんです」


「なるほど、君の友達は手先が器用だったり、歌がうまいんだったな」

「はい」


 身元の引受人が必要。そういう事かな。

 なら、ソーチョーに任せれば、それで丸く収まるのでは?

 ちょっとラレースに確認してみよう。


「ユウキ、ちょっとまってな。騎士様と話してくる」

「はい……」


◆◆◆


「――とまぁ、そういうことらしい。ソーチョーに任せられないか?」

『残念ですが、それは難しいですね』


「なぜだ?」

『総長も私たちも……教会は『都市』にお願いして、国際展示場に拠点を置かせてもらっている状況なのです。私達の立場は強くないんです』


「ラレースたちは『都市』を防衛をしてるんじゃないのか?」


『防衛してる、の方が正しいですね。私達の任務は別にあるので』


「それって、聞けるやつ?」

『聞けないやつです』

「わかった」


「話を戻すと、ラレースたちも住人を迎え入れる権限がないってことか?」

『はい、そういうことです』


「じゃあユウキを『都市』の中へ住人として入れる方法は無い、か」

『皆無ではないですが……信仰がなく、神気を使えないとなると難しいですね』


「どう難しいんだ」


『神を信仰していないということは、神の力、ジョブを使えないわけですから……自力で神の御業に迫る技術、文字通りの神業ができないといけません』


「ユウキは子供だ。熱意はあっても技量を持っているはずがない。住人として入るのに、なぜそんなに厳しくする必要があるんだ」


『……お台場の『都市』に住人として入る。それがどういうことなのか? 実際に見たほうが早いでしょうね』


 うーん、ダークゾーンを集めてそれで終わりかと思いきや……。

 何か妙な事に巻き込まれつつあるな。


 まぁ、いいか。

 ユウキの……子供一人の世話をしてから戻っても、遅くは無いだろう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る