探索者村でのお買い物

「ふぅ。ようやく戻ってこれましたね」

『ものすごい駆け足でしたね……』


 俺たち一行は転送門をくぐり、お台場ダンジョンの探索者村まで戻った。

 そして、各自買い物のために一旦解散して、1時間半後に入口で集合となった。


「じゃ、何か一杯やれるとこでも探すかね」


『師匠、すぐに帰るんですから、飲みすぎないでくださいね』


「わかってるよ。ちっと正気を残しとけばいいんだろ?」

『そういっていつも……!』


『じゃセンパイ、あたしも行ってきまーす!』


「バーバラさんも何か探してるんですか」

『うーん。特に無いけどー、探すのを探しに行く感じかなー』

「あー、何となくわかりますそれ」

『んじゃ、そーゆーことで!』


 バーバラさんはそういうと、タタっと屋台街に走っていく。

 師匠はその後をかったるそうに歩いていった。


 なんともフリーダムだなあ。


『ツルハシさん、バーバラとも大分打ち解けましたね。あの子があそこまで気軽に話す人、そう居ませんよ』


「ラレースさん、あれは打ち解けてるんじゃなくて、ナメてるんだと思います」


『まぁ、ちょっとはそういう部分も……あるかもしれませんね』


 俺とラレースは屋台街で手頃な値段のハンマーを探すことにした。

 もし性能と値段が釣り合うようならここで買ってしまおう。


 基本この世界で買える物は、神様製のGomazonが一番性能が良くて、次に都市の職人が作った品物。で、最低なのが探索者村で売っている物だ


 探索者村で売ってる装備は、だいたい誰かの使い古しだ。

 最低限の品質保証も保険も何もないぶん、ここで買うのが一番安い。


 なにぶん、今は手持ちがないからな。

 一旦、間に合わせのハンマーを買って、そこから良いものにして行こう。


 せっかくお台場まで来たのになぁ……くやしいなぁ。

 これなら浜離宮とそんなに変わらない。


「ラレースさん、屋台はどこがいいですかね」

「うーんそうですね、低価格帯となると……『ルーキーズキャンプ』でしょうか」


 おぉ、名前からして安い装備を売ってそう。さっそく案内を頼もう。


「そこにしましょう。名前が気に入りました」

『は、はい、わかりました』


 店に案内してもらうとなるほど。

 掘っ立て小屋の中に商品棚が置かれ、中には大量の武器が並んでいる。

 サイズ感的にも雰囲気的にも、強盗御用達のキオスクって感じだ。

 

 店主のオッサンは、黄ばんだシャツの上に茶色いチョッキを着込んでいる。

 オレのアンテナが軽く警鐘を鳴らして、危機を知らせる。

 

『ツルハシさん、ここです。ですけど、あまりその……』

「うん、


 見た感じ、買ったものを丁寧にリボンで包んでくれる様には見えない。

 それ相応の接客ってことだな。

 

「よう探索者さん、何をお探しで?」

「愛と正義ってある?」

「そいつは品切れだ。他を当たんな」


「自分で言っといてなんだけど、オッサンの愛とか無くてよかったわ。」

「ぬかせ。――素人にゃ見えんが、何がほしい」


 オッサンはカチッとライターを鳴らしてタバコに火をつけると、タバコの煙を吹きかけてきた。


「愛想の良い店主がいる店で、ハンマーを探してるんだ」

「予算は?」

「5万」

「話にならんな」

「8万」


「……ふむ。無いこともない」


 オッサンは目の前のテーブルにいくつかのハンマーを取り出した。


 1つ目は、木製の柄に粗鉄のヘッドの付いたスレッジハンマー。

 2つ目は、ヘッドもグリップも木製のモール。

 3つ目は、鋼製だが、柄に大きな歪みの入ったウォーハンマー。


 ふむふむ……。まるでろくなもんがねぇや。

 この中だと、1つ目が一番マシかなー……。


 一応ヘッドが鉄製だし、柄も壊れてない。

 いや、商品だから壊れてないのが普通なんだけどね?


 8万でスレッジハンマーかぁ。

 まぁ、相場の7割強ってとこだし、これで良しとしよう。


「最初のスレッジハンマーをもらうよ」

「うちは現金だけだよ」

「ほいよ」


 俺は二拍手で表示枠を出し、オッサンとやり取りをする。

 まぁまぁの買い物だったな。


「どうも」

一見いちげんの礼はいらねぇよ」


 クッソ腹立つなこのオッサン!?


「客が多くて忙しいだろうに、丁寧な仕事で助かるよ」

「……チッ」


 悲しいかな、銀座ではこんなドブみたいな店はありふれてる。

 この店の接客は、どちらかというとお上品な方だ。

 俺は買ったハンマーをかつぐと、さっさと屋台を立ち去ることにした。


「集合時間まではまだ時間があります。もう少し辺りを見回りますか」

『そ、そうですね』


「ほどほどの値段でハンマーが手に入って助かりましたよ」

『見ていたこっちは冷や冷やしました』

「あの程度、ケンカのうちにも入りませんよ」

『そうなんですか?』


「ラレースさんってあんまり買い物しないんですか?」

『うちの装備は主計官がまとめて都市で購入するので、あまり……』


 なるほど。俺の交渉は彼女には刺激が強かったか。


「ん……?」


 擦り切れた靴、裾のほつれたズボン。

 みすぼらしい格好の少年……というには背のある子がこちらを見ている。


「なんだい?」


「あの……騎士の方ですよね? 頼みがあるんです!」


 ラレースがヘルメットのバイザー越しでもわかる困惑を示して俺を見る。

 俺を見てもしょうがないでしょう。


『頼みがあるなら、直接頼むのではなく、表示枠からいけるサイトで……』


「ないんです。僕は表示枠を使えないんです」

『なるほど。未契約、ということですね。では、聞かせてください』


 ラレースは目線の高さを合わせようと膝をつくが、彼女の上背は彼と同じ目線に立つことを許さない。気まずそうにしている彼女に、少年は構わず口を開いた。





「――おねがいします! 僕を家来けらいに入れてください!」


『え、えぇ……?』

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