ランドメイカーの秘密(クレーム案件)


『こっちですか?』

「もうちょい左……そこっ!」


<カシャンッ!>


「……よし、ダークゾーンはこれで全部です」

「ふぅ、せいせいしたね」

『一時はどうなるかと思ったけど、なんとかなったねー』



 本当に一時はどうなるかと思った。

 ラレースに背骨を折られ、俺は無事死亡するところだった。

 

 ――いや、大体俺の自業自得なんだけどね。


 ともかく、俺たちはその後もダークゾーンの撤去を続けた。

 そして、ついに第4層から全ての闇を追い出すことに成功したのだ。


「ダークゾーンは全部で8つ。それと回転床が32個。結構集まりましたね」


『回転床が凄まじい量ですね』

『マジ、悪意しか無いよね』


「イカダにもどって、地上に戻る転送門に行きましょうか。結構良い時間になっちゃいそうですね」


「カギは……ツルハシなら必要ないか。アンタほんとに便利なやつだね」

「でしょ?」


「後、俺はカギ屋の撲滅を使命としてるので、転送門の扉は全部壊すつもりです。ただのひとつも残すつもりはありません!」


「やるじゃないか。 あんたの聖戦を心から応援するよ」

「どうも」


『師匠がツルハシさんを褒めた……?』

『マジ? すっごい激レアなの見ちゃった』



 その後、ゾンビや魚人の襲撃を受けたが、とくに何事もなく転送門のある難破船まで到達した。そして、難破船の壁を片っ端からツルハシで素材にして、ここでもカギ屋が営業できなくしてやった。


「フフフ……営業停止だコノヤロー!!」


<バキベキボキ!! ガシャン!!>


『そーいやツルハシ、上の層でも寄り道して転送門の扉ブッ壊してたよね』

『はい。社会貢献ですね』

「こればっかりは純粋に応援できるね」

『カギ屋に同情するの、ウチらの中に一人も居なくて草なんですけど』


「さて……入り口の探索者村まで戻りましょうか」


「本当に1日で終わっちまったね。まだ午後の4時だよ」


『じゃ、市場を見る時間はありそうだねー』

「おっとそうだ! ハンマーを買うつもりだったんだ」


「ここで買うのかい? 探索者村じゃ、大したもんは置いてないよ? その分、『都市』で売ってるのに比べたらずっと安いけどね」


「今の俺には、その値段が何より重要なので」


 なにせ、今の手持ちがね。


 ラレースや師匠にトドメを譲ってもらった数体のモンスターの分と、ダッチマンの船倉にいた探索者を葬ったことで手に入れた分になるのだが……。


 神気の残高は……ふむ、12万か。ビミョー……。


大国主オオクニヌシ、ハンマーってなんでも良いのか?」

『うむ、なんでも良いといえばいいのじゃが……』


「何か問題があるのか?」


『ラレースちゃんのハンマーだから1発で建築が終わったんじゃ。もし、しょうもないハンマーを買ったら、何回も叩くことになるやもしれんな』


 ゲッ! ハンマーの性能も必要なのかよ!


「ん、ってことは……建築は『槌術』がある方が良いのか?」

『そうじゃな、無いよりはあったほうが絶対に良いのう』


「まさかとは思うが、建築してると『槌術』って……上がる?」

『うむ。ちょびっと上がるぞい』


 ん、ってことは、俺、ラレースと同じ戦闘スキル持ってるってこと?

 ……あ、たしかにスキル欄にあるわ! 気づかんかった!


「……ちょ、おま?! 何でそれ言わなかった?!」

『そんな事言われても……聞かれてないしのう』

「クソ! サポートセンターに電話してやる!! クレーム案件だろ!!」

『それワシじゃよ』

「ガッデム!!」


 大国主オオクニヌシの適当さは今に始まったことじゃないが、これはひどい。もうちょっとちゃんと聞いておくか。


「え~っと確認だけど、ランドメイカーの戦闘スキルのサブカテゴリを育てると、攻撃できるスキルをちゃんと取得できるんだよな?」


『うむ、それは他のジョブと変わらんぞ。』


「攻撃に使えるスキルのランクは?」

「低位から中位じゃな。さすがに本職の戦闘職には劣るぞい」


 よし! よし!! よーぉぉぉし!!!


 俺が大国主オオクニヌシに押し売りされた「ランドメイカー」は、戦闘系スキルを持ってたのか!!


 これはでかい。めっちゃでかいぞ。

 俺は採掘と建築に加えて、戦闘も出来るようになった。

 そういう意味だからだ。


 とにかく、今までの俺はザコに対して自衛も出来なかった。


 だが、「槌術」を実用レベルにまで鍛えれば、トラップ以外の方法でモンスターと戦うことも出来る。さすが5000万神気のジョブ。

 「採掘師」とは格が違うぜ。


 あとは建築をすることで「槌術」のスキルが上がるのも素敵だ。


 自分の身を危険にさらさずとも、人の居ないところで延々壁を作ったり壊したりを繰り返すだけでもスキルが伸びるってことじゃないか。


 ダンジョンの壁にツルハシを振るうのよりずっと建設的だしやりやすい。

 コツコツやれば結構すぐに育つんじゃなかろうか。


「なら、ちゃんと戦闘にも使える、普通のハンマーを買おう!」


『ですがツルハシさん、ハンマーのお金は大丈夫ですか?』


「……そう言われると、ちょっと心もとないかも。もし足らなかったら……その、建て替えてくれます?」

『はい、もちろんです!』

 

 ――う、俺の背後の二人からの視線が痛い。


『……師匠、センパイってさぁ、ダメ男に惚れるタイプ?』


「あの子、誰にも優しくし過ぎなんだよねぇ。ま、ツルハシは奥手っぽいから問題ないとは思うけどね」


 ……グフッ!!


 師匠とバーバラ、二人の言葉のナイフが俺の心に突き立った。

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