止まらない師匠

『撃ちぃ~方始め!!』

『『アイアイ、キャプテン!!!』』


<ドン!ドン!ドン!ドン!>


 ダッチマンの側面の大砲が号令を受けて発射され、ボッと緑色の火を吹く。

 すると、砲弾のかわりに緑に光るドクロが飛んできた!!


 マジかよ、弾もゴーストなのかよ?!


「不味い、これじゃ壁でも防げないですよ!?」


「みんな、ラレースの近くに集まりな!!」

「『はい!!』」


 俺たちはラレースの後ろに隠れるように集まった。

 すると彼女は十字を切り、ハンマーを体の前に構えるとスキルを使った。


『死せる魂に永久とわの安らぎを――「イクソシズム」!!!』


 加特カトリック系が使う、低位から中位のゴーストを消滅させるスキルだ。


 彼女を中心に金色の光の輪が広がって、触れたゴースト弾を消滅させた。

 こりゃすごい。


『くらいやがれ~って、ありゃ、消されちまったぞ!』


『左舷、弾幕薄いぞ、何やってんの!? なんつって?』

『『ギャハハハ!!!』』


『よーし、者ども、取りかじ!! ひっくり返して海水浴をさせてやろう!!』

『『アイアイ、キャプテン!』』



「こっちに船首を向けたね。突っ込んでくるつもりだよ」


「ゴーストで体当たりって……当たるの?」


『いえ、ゴーストでも、生身の人間に宿る「霊体」には体当たりが可能です』


『そそ、艦首にぶつかると一発で取り込まれて、ほんとにダッチマンの乗組員になっちゃうの。誰かがダッチマンを沈めるまで、タダ働きさせられるよー?』


「ゲッ! 何それ?! ブラック企業ってレベルじゃないだろ!」


『ブラック企業っていうか、ゾンビ企業?』


「ツルハシ、あんた、アタシをあの船に乗り込ませる方法、あるかい?」


「え、ミコトさんをフライング・ダッチマン号に、ですか?」


「そ。アイツの対策法ってね。ダッチマン号の中に乗り込んで、船長に決闘をしかけるのがてっとり早いんだよ」


「わぁ。思った以上の脳筋解決法だった」

 

『普段は「水葬海域」にある沈没船のマストに上り、そこから飛び降りて乗り込むのですが……』

『でも、慣れないと失敗してよく落ちるんだよねー』


「え、変だと思うの俺だけ? これが普通なの?」


 まあダンジョンがタワケなら、人もタワケるんだろう。


「ここは文化的で最低限度の人間性を保つために、ちょっと考えますか」


「まるで人のことを蛮族みたいに言うんじゃないよ」


「……うん、やってみますか! ラレースさん、ハンマーをお願いします!」

「はい!」


 イカダの上にタワーを作ってしまうと、バランスが不安定になってひっくり返る恐れがある。なので単純に上に伸ばすことは出来ない。


 かといって、まんべんなくスロープを作ろうものなら重量がかさんでしまう。

 ここは足場はコンパクトにしよう。そして、物理法則を利用する。


 配置場所はバランスを考えて中央にしよう。


 まずは斜めのスロープを置く。だがコレは足場じゃない。支えだ。

 本命の足場は、これの反対側に作る、より長いスロープだ。


 うん、ちょうど漢字の『入』みたいになった。


 仕上げとして、その下に円柱の柱を横にして建築する。

 つまり「シーソー」でジャンプさせるのだ。


 ……アレ? おかしいな???

 文化的で最低限度の人間性を保つはずが、人間砲弾になってしまった……。


『あの、ツルハシさん、流石にコレは……』

「まずいですよね、作りなお――」


「良いね!!! こういうイカれたのは大好きだよ、ハッハッハ!!!」


『……そうでした、師匠はこういう人でした。うっ頭痛が』

「わー。」


「ラレース、あんたは重しに立ちな。ツルハシ、アンタは合図で飛ばすんだよ」


「いいの? なんかすごい事になってきたけど」

『諦めましょう。師匠がこうなるともう止まりません。』



◆◆◆



『今日は大漁だなぁ~!? 新入りが4人も入るぞぉ?』

『『ギャハハハ!!!』』


 俺っちはダッチマン号の先端に霊体の刃を作らせる。

 これでブチ当たれば、どんな鎧を着込んでいようが、ハイサヨナラだ。


 探索者共が着込んでいる鎧は肉の体を守るためのもの。

 大方の連中は霊体、魂までは守れない。


 あの生意気な野郎が船に入ってきたら、そうだな……。

 歯ブラシでデッキを掃除させてやるか。ハハハ!!


『よーし、全速前進だ!!!』

『『アイアイ、サー!!』』


『ん、なんか妙なものを作ってんなぁ~?』


 連中、イカダの上に何かよくわからんモンを作っている。

 しかもそのまま見ていたら、急にぶっ壊れてデカイ板がひっくり返った。


 妙なもんを作るからだ……。

 ん、何か飛んで、ゲッ!! 「アレ」は――?!


<ズゴガガガンッ!!!!>


 「アレ」が真っすぐ飛んできて、マストの根本にブチ当たった。

 こんなことくらいで死ぬアイツじゃない、きっと……!


「いやぁ、こりゃ良いや!! もっと速さがほしいところだけどね」


『ヒィッ?! やっぱ生きてるッ?!!』

『『でたぁ!! オバケッ!!』』


「オバケはあんたらだろ? まったく、りずにいて出て」


『キャプテン!』

『うむ!! 俺は用事を思い出した!!』

『『捕まえろ!! 逃がすなぁぁぁ!!!』』

『な、何をする貴様ら―!!!』


『キャプテンが死なないと、俺たちずっと切り刻まれるんですよ?!』

『だから真っ先に死んでください!!』

『い、いやだー!! 逝きたくなーい!!』


「ハハ! 良い部下を持ったじゃないか!」


『チキショー!』


「降りな、スサノオ!!」

『うむ! いざ舞い遊ぼうぞ! 祭りである!』


 女は表示枠を出すと、剣を持ったヒゲ男のアバターをその身に降ろす。

 ヤバイ! あれが来るううううう!!!


雲出くもいず荒神あらがみの祭りを此処ここに――舞い散れ!『天羽々斬アメノハバキリ』」


『ニギャアアアァァァッ!!!!』


◆◆◆


 ミコトさんが飛んでいった後、何が起きたのだろう。


 フライング・ダッチマンの甲板が騒がしくなったと思ったら、3本あったマストがスパパっと切り落とされて海に落ち、船がスイカみたいに真っ二つになった。


 よくわからないけど、倒せたなら……ヨシ!!


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