イカダと棺桶
「ええぃ! ただでさえ狭いんだから寄ってくんじゃないよ!!」
<ブシャ!!><バキドコ! ブチ!!>
ミコトさんは直剣が獲物なのか。
刃を一振りするたびに3~4個のゾンビの頭が飛んでいく。えっぐいなぁ。
「ミコトさん、目の前を空けられます?」
「ほいよ!」
師匠は俺の求めに応じ、踊るようにくるっと回転すると、その勢いを剣に伝え、彼女の目の前にいた海賊ゾンビの首を飛ばしまくった。
おっかないのはこの人、さっきから一度もスキルの名前を叫んでないんだよね。
素で剣を振って、この威力らしい……。
ともかく目の前が空いた。よし、ここに「建築」――!!
「ラレースさん、これにハンマーをお願いします!」
『はいッ!』
ボン! っと木の板が現れ、海面に浮いた。
「足場は無理なので、海の上をイカダで移動します!」
「なるほど、そう来たかい」
『私は建築にかかります、師匠は敵をお願いします!』
「うちの弟子は人使いが荒いね。――それっ」<ザンッ!>
イカダが小さいままだとバランスが取れない。
なのでどんどん継ぎ足し「建築」して、大きくしていく。
幸い素材となる木材はそこらへんに浮いている。ツルハシのパッシブを止めて資源化すれば、海の上でどんどん足場を大きく出来るのだ。
「それ! 『建築』もいっちょ『建築』!!」
イカダは階段の足場の3倍位の大きさになった。
これだけ大きければ、ちょっとやそっとの事じゃひっくり返らないだろう。
ついでに壁を編集してくっつけて、船っぽくしておく。
『ツルハシさん、今さらですけど、上の市場でハンマーを探しておくんでしたね』
「あっ……確かに、しまったなぁ」
『これが終わったら、一緒にハンマーを買いに行きましょう』
「そうだね――これが終わったら」
ハッ! 待って、これは「死亡フラグ」ってやつじゃ?
ダンジョンの内部で「これが終わったら」から始まる言葉で何かを約束すると、もれなくその人物は非業の死を遂げるという呪い!!
……ま、大丈夫なんですけどね。
死亡フラグは基本、恋人の間でしか発生しない。
俺とラレースの間ならセーフだ。 クスン。
『イカダはバラバラにならず、ちゃんと浮いてますね』
「どれ、ちょっとジャンプしてみよう」
<ドンッ><……トプン>
「よし、バランスは問題なさそうだ。みんな乗って大丈夫です!」
「はいよ!」
『今いくよ!』
イカダは全員が乗ってもビクともしない。
これならいけそうだ。
俺は桟橋の残骸から、長い木の板をつかむと、オールの代わりにする。
進みはゆっくりだが、やらないよりはマシだろう。
「では、船を出しま……?」
おかしい、勝手にイカダが前に進んでる?
あ、水面が揺れている、潮の流れに乗ってるんだ!
「イカダが勝手に前に進んでます!」
「どうなってるんだい?」
『見てください、目の前に
「来るね……!」
『はいッ!』
「来るって、まさか?!」
<ザッパァァァァァンッ!!!!!!!>
『ツルハシさん、来ました! あれがフライング・ダッチマンです!』
「すっげぇ……! 本当に船のモンスターだ……!」
目の前の渦潮の中から、バカでかい帆船が現れた。
帆船は側面に10門の大砲を並べていて、砲口からは海水が流れ落ちている。
3本あるマストには、ダメージジーンズをさらに痛めつけてボロボロにしたような帆をだらりとさげており、マストの先端には白いドクロが描かれた海賊旗が
船は全体的に緑がかった黒色だったが、
『『ヨォォォホォォォ!!!』』
なんかミョーに陽気な声が、ダッチマンの中から飛び出してきた。
声の主は、ダッチマンの上にいるコートを着た緑色に光るゴーストだ。
もしかして、あれがダッチマンの船長、その人なのか?
『兄ォ~~~~弟!!! 見たまえ、あの哀れな者たちをッ!』
『『ヒャッハハ!!!!オヒョヒョイーヒヒ!!!』』
『あれでこの海を渡ろうって、おつもりらしいな。ヒーヒヒ!!!』
さっきまで船長の他には甲板上に何もいなかったはずだが……。
ふっと船員の幽霊が現れたかと思うと、船長の左右に並んで笑っていた。
「何だおまえら、人のイカダを馬鹿にしやがって!」
『おーっとっと……すまねぇ兄弟。イカダのつもりだったのか、プッ』
『俺はてっきり
『『ドッ! ギャハハハハ』』『『ヒ~ッヒッヒ!』』
腹立つなコイツ。
ジジイとはまた違うベクトルで面倒なやつだぞ!!
「沈んだ棺桶に乗ってるお前らに言われたかないね」
『言うねぇ!! お前みたいなイキの良いヤツは、オレ好みだぞ』
『ふぅ~ん……みたところ、手足もそろってるし、頭もついてる……もしかしたら、
『よ~し、決めたッ!! お前を乗組員として採用してやろう』
『……ただし、海の底で腐って浮いてきたら、な!!!』
『『ヒャーハハハハ!!!!』』
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