普通は一番ダメなやつ
「大変失礼いたしました」
「ファファ、わかっていただければ、それで何よりです」
「なんとお詫びしたらいいか」
俺の目の前ではなんとも奇妙な光景が繰り広げられている。
不死者の王リッチと、女騎士がお辞儀しあってるのだ。
ラレースのスキルでジジイは粉々になったものの、流石はアンデッド。
蘇生を終えて、ちょっと余分なパーツが生えてるけど復活した。
それで平謝りのラレースとジジイは腰を曲げあっているのだが……。
なんだかなぁ。
もうすぐ12時になる。
これもそろそろ終わりにさせないと、明日に差し支えそうだ。
「ラレースさん、そろそろ……」
「そうでした。このお詫びは後々ちゃんと」
「いえいえお気になさらずですじゃ」
まだやってる、もう!
キリがないでしょ!!!
「はい、二人が謝ったからおしまい! ジジイもこれで仲直り、イイね!」
「学校の先生かお主は! そうやって勝手に解決した風にすると、モヤモヤだけが残るんじゃぞ!!」
「モヤモヤっていうかヨボヨボだけど。普通に死んだだけだから良いじゃん?」
「普通に一番ダメなやつじゃろ!! 死ぬのは一番ダメ!!!」
「もー。ワガママなんだから」
「こ、こいつ……」
「すみません、ツルハシ男には私からもよく言っておきますので」
ラレースさんが俺の代わりにジジイに謝った。
こうなってしまうと彼女の面目のため、俺も押し黙るしか無かった。
「頼みますよ騎士様!」
「では失礼します……」
<バタン>
――ツルハシ男と騎士は仮拠点、と言う名の場所に引っ込んだ。
リッチの背中越しに、この一部始終を見ていた人魂がいた。
彼は小さな体を傾けると、疑問を感じるような調子の鳴き声を上げた。
「ピュイ~?」(何この茶番)
・
・
・
「ふう。ようやく帰ってこれたぁ……」
「すまなかった。私の勘違いで、リッチ殿に大怪我をさせてしまった」
「あのジジイは無駄に頑丈なんで大丈夫です。じゃれ合いみたいなもんですよ」
「そうなのか? 割と本気で怒っているように見えたが」
「いえ、普段からああです。何かと怒りっぽいんですよ」
「普段から接しているお前が言うなら、そうなのか……?」
「はい、あんな感じですよ」
「しかし……この部屋はすごいな。仮拠点と言うから、てっきり小部屋を想像したが、私の部屋より広いぞ」
軽く屈んだラレースが呆れたように息を吐く。
ついちょっと頑張って掘りすぎちゃったんだよね。
部屋の幅は5メートル、奥行きが大体15メートル。高さが2メートルだ。
他の通路とぶつからないように、通路と爺部屋のスキマをギリギリまで掘った。
なので、奥行きはジジイ部屋と同じで、幅が絶妙に狭いのもそのためだ。
「天井は低いのは申し訳ないです。自分の身長を基準につくったので……」
「いや、これで十分だとも」
「そういうわけには……ちょっと広げておきますね」
そう言って俺はツルハシを天井に向けて振る。
なんてことはない。カンカンカンっと叩けばすぐに終わる。
あっという間に仮拠点の天上の高さは3メートルになった。
だがこれ以上はツルハシが届かない。さらに高く掘るには台座が必要だな。
「君も疲れてるだろうに、すまない」
「いえいえ」
さすがに腰を曲げたまま歩くのは大変そうだからね。
そのままっていうのは、逆にこっちが申し訳なくなる。
「ここは家具も素晴らしいな。良い趣味をしているな、ツルハシ男」
「あ、全然勝手に使ってもらって大丈夫ですからね」
「良いのか? かなり高価そうなものに見えるが……」
俺は手に持ったツルハシを持ってガッツポーズしてみせた。
すると、ラレースは「ああ」と納得がいったようだ。
「君に限っては、ダンジョンで何でも揃うな」
「えぇ」
まあ、ダンジョンっていうか、全部ジジイの部屋からパクったものだが。
◆◆◆
その後、俺はベッドをラレースさんに譲ろうとしたが、彼女はそれを断った。
流石の俺も女性を床で寝かして、自分はベッドに……なんて事はできない。
なので、二人して床に寝ることになった。
きっと俺たちアホだと思う。いまさらか。
「それはそうと、これからどうしましょう?」
「ダンジョンの開拓なのは言うまでもないが……どこを開拓するか、だな」
「どのダンジョン、どの場所も、理不尽さを煮詰めたような場所ですからね」
「どこから手を付けても良さそう、か」
「はい」
「ならあそこはどうだろう? 第三層の『炎威の獄』だ」
「三層から完全に初級者お断りになりますからね。やる価値はありそうです」
「もっと多くの探索者がダンジョンに入ってこれるようになるな」
「えぇ。」
「ところで、話を
「なんです?」
「ダンジョンの開拓を続けることの危険性、それは当然わかっているな?」
「続ければ当然、さっきの連中みたいなのに襲われますね」
「先程はダンジョンネズミだったが、より上位のクランや武装組織がお前に興味を持っても、何らおかしくない」
「モテモテですね。いっそのこと、やり方公開してみましょうか?」
「む? 一見メチャクチャなようだが、いいアイデアかもしれん」
「考えてみよう……ダンジョンを作り変える力は、希少であればもちろん排除や利用の対象になる。だがありふれた物となれば、話は変わる」
「それでも4ヶ月かかりますけどね」
「そうだ。方法を公開したとしても、4ヶ月もの間、安全は保証されない……か」
「4ヶ月間も、大人しく掘ってくれる人がいますかね?」
「それにもし、掘りきったとして……ダンジョンを作り変える力を持った者が、それをどう使うのか? 事態がどのように転ぶか、まるでわからないな」
「やっぱやめといたほうが良さそうですね」
「そうだな」
「ふと思ったんですが、ラレースさん」
「なんだ?」
「俺たちのスキルって神様がくれたんですよね」
「そうだな」
「で、ダンジョンが現れてから、神様がでてきたんでしたっけ?」
「そのように聞いているな」
「人間がダンジョンを攻略できるようになって、そこから神様には神気が安定的に入ってくるようになった」
「どうみても、ダンジョンと神様には、深いつながりがありますよね」
「じゃあ、このダンジョンを作り変える事ができるのって――」
「こうなることが元々、想定済み、だったんでしょうか」
彼女から答えはなかった。
何かが引っかかる。
だがそれが何かとつながり、答えになることは無かった。
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