ミラービースト

「何よあれ、何よあれ……ッ!」

「あんなの、インチキじゃないッ!」


<逃げてるwwww><斬姫wwww無様すぎるwww>


 のほほんと暖かい場所でコメントを打ってるクズども……!

 イライラする……!


 私は首狩り斬姫、私に斬れないものはない、なのに……!


 あのバケモノ、カタナは防ぐ、スキルも防ぐ。

 話が違うじゃない!!


 本来リッチは切断と火属性に弱い。

 弱点をついて一時的に無力化し、護符を破壊する。


 やることは理解して、準備もした。

 それなのに、まるで戦いにならなかった。


 リッチは切断攻撃を完全に防ぎ、炎もオーブのようなアイテムで弾き返した。


 そして極めつけは護符だ。


 本来、部屋中央の柱の上で、リッチの護符はバリアに守られている。

 護符は一つ。置き場所も固定。そのはずだった。


 だけどあのリッチは無数の護符を円環状に展開してきた。

 あれは数百枚、いや、数千枚かも知れない。


 いくら攻撃しても、護符を焼いても、不死者の王は倒れなかった。


 ある凸探索者がとっておきの炎の嵐で護符を全て焼き払った。

 しかし、焼いても直ぐに次が来た。ギミックが全くわからなかった。


 護符が飛び交う中、リッチは冷酷で無慈悲にこちらを魔法で焼いてきた。

 10人以上いた凸探索者は全滅。私も逃げるしか無かった。

 

 あのリッチ、完全に私たちの知っているリッチじゃなかった。


 ……そうか。

 神のクソ野郎、だからクエストを出しやがったんだ!!


 これは「宣伝」だ。

 新しいおもちゃを作ったぞ、だから攻略してみろっていう……!


 餌で釣って騙し討ちしやがったんだ! 性悪め!


「クソ! クソ! クソが!」


 もう配信は終わらそう。

 コメントを見ているだけでイライラする――


 私は足を止め、配信を止めようと表示枠を操作する。

 しかしそこでコメントの異変に気づいた。


<後ろ!後ろ!><なんか、なんだあれ?>


「え?」


<ドンッ……ズグッ!>


 目の前に愛刀を持った私の右腕が飛んできた。

 切られた?

 いや、弾けた?


 ちらりと右を見る。

 上腕の中に何かが入っている。透明な何かが。


 次第に血に染まって、それが形をつくっていくのがわかる。

 これは骨、骨の矢だ。


 こんなのは知らない。はぐれボスか? 一層に?

 頭の血管が切れそうだ。本当にこのダンジョンって最低。


 表示枠の配信に倫理フィルターがかかるのが見えた。


 私の姿が可愛らしいぬいぐるみになっている。

 これが掛かったということは、私はもう終わりということ。


 ……しまったな。ぬいぐるみの手には指がない。


 最後に配信画面に向かってやってやろうと思ったのに。

 立てる中指が無くなったのが残念――。

 

<ズガッ! ガリリッ、ズン! ザグッ!>


「ガハッ いだい”ッ ガッごぼぶぶぶッ」

『アハハッ くすぐったいよ! きゃはー!』


 配信を続ける画面には、可愛らしいサムライ人形と透明な何かが映っていた。


 それは人形の四肢を引きちぎるが、それでも満足していないようだ。

 人形のお腹から綿を出してもて遊ぶ。そして顔らしきものを突っ込んだ。


 すると、見えない何かが綿色に染まっておぼろげに姿を現す。

 人形と同じく丸っこい姿のそれは、一見すると白いカエルのようだった。


 二つの首を横にのばし、細長い足をバッタの様に折りたたんだは口に含んだ獲物に満足したのだろう。


 現れた時と同じように、周囲の背景を自分の体に写し込み、音もなく消えた。

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