炎威の獄へ

 仮拠点で休んだオレたちは第三層、「炎威の獄」に来ていた。


 基本ダンジョンの階層の適正レベルとは、層の数×10が適正と言われている。


 つまり、第一層ならLV10、第二層ならLV20と言った具合だ。


 そしてこの第三層は中級冒険者、LV30の探索者でないと手も足も出ない。

 第一層や第二層と違い、第三層からはある特徴が追加されるからだ。


 それは「人間が生身で生存できる環境ではない」という特徴になる。


 ウソだと思うでしょ?

 でもホントなの。


 マジでこのダンジョンクソたわけだわ。

 ほんでバカげてると思う。


 これは他のダンジョンでも変わらない。

 このダンジョンだけが特別にイカれてるというわけではないのだ。


 第三層は全てのエリアが毒ガスで汚染されてるとか、完全に水没してるとか、この「炎威の獄」のように「地面が燃えてる」とか、それが普通なのだ。


 対策をしていないと、一歩前へ踏み出すことすら許されない。

 それがダンジョン三層の常識だ。


 階段を降りてすぐの場所についたが、もう熱気で気を失いそうになる。


 その「炎威の獄」の名前が示す通り、三層の床は全てが炎え上がっていた。

 

 地下であるダンジョンに空はない。

 そのため燃え盛る床の熱は、三層の中にとどまり続けている。


 表示枠の気温表示は90度を越していた。

 普通の服で入ったら、すぐにで上がってぶっ倒れるだろう。


 採掘師とは言え、俺はLV50。ちゃんと採掘用に耐環境装備は揃えてある。


 俺が今装備しているのは、とある職人に依頼して作ってもらったマスクだ。


 コイツは放射能、防毒、はもちろん、マイナス80度から100度までの熱耐性を持つ優れものだ。


 これくらいの装備がないと、ダンジョンで採掘なんてやってられない。

 まあ炎威の獄は、この装備でもかなりきついんだけど。


 ラレースさんは大丈夫かな?

 見た感じ、物理防御に特化して、それ以外は~って感じだけど。


「ラレースさん、その格好で暑くないんですか?」

『問題ない。私のアーマーとヘルメットなら、宇宙空間でも平気だ』


 そう言って、指でヘルメットの側面をトントンとつつく。


 そう言えば、ここへ行こうってのは、彼女から言い出したんだった。

 なら平気か。


「宇宙空間でもって、またすごい装備ですね」

『ありがとう。まだ装備に似合う腕前ではないがな』


『で、ツルハシ男。目の前の「これ」はどうする?』

「うーん……」


 第三階層、「炎威の獄」の燃え盛る床を移動する手段はいくつかある。


1.回復薬や回復のスキルを使って、足を大火傷しながら移動する


2.炎耐性を上げる装備やスキルでゴリ押しする。


3.地面を観察し、火勢が弱まった地面を選んで移動。


 どの手段も一長一短だ。


 1は必要な装備や資金が少ないが、めちゃくちゃ痛い思いをする。

 駆け出しの時に試したが、できれば二度とやりたくない。


 3は運任せ。通った先で足場がなくなって「ジュッ」ってなる危険がある。


 最も安全なのは2。

 そして今の俺が取っている手段でもある。


 これには火鼠ファイアラットの皮を材料に作成された特殊な装備が必要だ。


 火鼠というのはこの「炎威の獄」に住む希少なモンスターだ。

 自前で用意する場合、1か3の方法でこのモンスターを仕留めないといけない。


 ダンジョンの初級者の壁になってしまうのが「これ」なんだよな。


 ちゃんと対策があるのだが、大方「服を買いに行くのに着る服がない」っていう状況になっているのだ。本当にこのダンジョンを考えたやつは性格が悪い。



『まずはこの燃える床を、通常のダンジョンの床と入れ替えてみたらどうだ?』

「なるほど。まずいつも通りやってみますか」


 よし、やってみよう。


 ツルハシを振り下ろし、最初の一歩のブロックを回収する。

 火を吹く見た目は凄まじいが、普通に回収できてしまった。


 ん、これは案外簡単か? 楽勝で終わるかもな。


「ん?」

『どうした?』

「いや、まさかそんな……」


 ……妙だ。

 俺が回収したブロックは普通の『ダンジョンの床』だった。

 てっきり「燃える床」的なものかとおもったら、ただの床?


 所持品欄を見るが、どこにも燃える床はない。

 間違いではないとすると……まさか!


「ちょっと試しにブロックを置いてみます」

『うむ』


 俺は試しに、床が抜け、空白になった箇所に床ブロックを差し込む。

 すると……。


(ゲッ!)


 俺が置いたのは、何の変哲もない、普通のレンガの床だったはずだ。

 なのに、俺が置いた床は、周囲と同じ燃える床に変化した。


『これは……どういうことだ?』


「もしかしてこれ、ブロックが原因じゃない?」

『回収したブロックは何だったのだ?』

「そのまんま、ダンジョンの床です」

『ふむ……』


 しばし考え込んだラレースが指を鳴らす。


『ツルハシ男、床を掘り続けよう。きっと原因はもっと下にある』

「そうか……!」


 ラレースの言葉に俺は気がついた。

 床に問題がないなら、原因はそれ以外のはずだ。


 俺は床を掘り続ける。


 階段状に足場を造りながら、掘り進める。

 6つ。8つ。そして10になった時、それは現れた。


 グツグツと煮えたぎり、オレンジ色の光を放つ輝く液体がそこにあった。

 液体から発せられる猛烈な熱気は痛みを感じるほどだ。


 俺のマスクのゴーグルが汗で濡れたのは、この熱気のせいだけではない。

 マジどうしよう? って冷や汗もセットだ。


(こりゃまた、えっぐいのがでてきたなぁ……!)


「溶岩……?」

『これは、思った以上に骨が折れそうだな』

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