>>爺サイド クエスト対象
一方その頃。「爺部屋」前。
レンガの壁に囲まれた暗い空間で、それは行われていた。
自身の配信を表示している表示枠に黒髪の少女が語りかけている。
彼女は東方の鎧と巫女服を足し、ミニスカートにした服装をしていた。
そして、その周囲には物々しい装備をした10人以上の男が列をなしている。
彼らは皆一様に押し黙り、自身の「推し配信者」。
つまり、目の前の女性を自分たちの表示枠越しに見ていた。
「今日もみんな、首狩り斬姫の配信に来てくれてありがとうね~!!」
<待ってた!><配信おつです!!><帰宅が間に合わないよ~😢>
女の声に合わせ、必死に男たちもコメントを乱打する。
これは一種の崇拝儀式。
それは見る者にある種の神秘性と異常性を感じさせた。
「うんうんコメントありがとー!」
「今日はなんと、凸で集まった探索者さんと、『クエスト』をしまーす!!」
<8888888><お、何のクエスト!?><いいなー!>
「クエストを知らない子のために、一応教えておくね? クエストっていうのは、神様にお願いするともらえる依頼です!」
「でも今回は、神様からのお願い! このタイプのクエストをクリアすると、普段よりもいっぱい神気が貰えるんだよね~!!」
「それで今日はなんと、『リッチ』の退治です!」
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「静かじゃのー」
「ピュイ~!」
「よしよし、ヒトリン、いまエッセンスを分けてやろう」
ワシはペットの人魂のヒトリンに、エッセンス――
すなわち、人から抜き取った精気的なアレをスポイトに取って分け与える。
「ピュイ!」
「そうかそうか、ウマイか。よしよし」
ペットの人魂の世話をして、書を読み、日々のことを日記に書きつける。
穏やかだ。「あの時」と比べれば、実に穏やかじゃ。
ふと、あのツルハシを持った若造が来たときの事を思い出す。
ああ、思い返すだけでも胃がキュッとなるわい。
やつはあろうことかワシに丸ノコをあてがい、ヴィィィン!!!とした挙げ句、護符を盗み、ワシを従えた。
まあそれくらいならまだ、大海原より広いワシの心が許すかも知れない。
だが、ツルハシ男はウチの壁に穴を掘って、そこを仮拠点とか言い出した。
それだけでは飽き足らず、細々と集めていたワシの家具を片っ端から略奪。
嵐のように現れて、本当にやりたい放題していった。
探索者のマナーが悪いことは理解している。
だが、あそこまでヒドイのは初めてじゃ。
「クソッ!! 思い返したら何かムカっ腹立ってきたぞい!!!」
「ワシを自宅警備員か何かみたいにしおって!!!」
「これでも一応、不死者の王よ?!」
「ピュゥ?」
「おうおう、怖がらせてスマンの、大丈夫じゃよ」
わしはゆっくりと両手でヒトリンを包み込んだ。
ファファファ、この子の魂の温かみを感じるのう。
「邪魔しちゃうよぉー!!」
<バァァァァァン!!!>
(ほげぇぇぇぇ?!)<パァン!!>
(ヒ、ヒトリンーー!!!!)
(ビックリした勢いで潰しちゃったぁぁぁぁッ!!!)
扉が蹴破られた爆音でビビったワシは、手に持った人魂を潰してしまった。
ヒ、ヒトリンが……! ワシは、な、なんてことをッ!!!
(おのれ許さん!!)
乱入者を一目見ようと、入り口を振り返った瞬間――
<ガキンッ!!!>
キラリと光る白刃が、ワシの肩口に振り下ろされていた。
これは……カタナか!!
得物の持ち主を見ると、若い女のサムライだ。
きゃつは両手で持ったカタナを引き、刃を返して突きを入れる。
が、目の前で型を変えるところを見て斬られるほど、ワシも阿呆ではない。
魔力をヴェールにして、布で刃先をくるむようにして受け流した。
「やるじゃん!!」
<斬姫ちゃん!スキル!!!><スキルだ!!!>
みるとこの女サムライ、随分軽装でハカマも異様に短い。
ふむ、速度重視といったところかの?
「じゃあいっくよー首狩り斬姫の必殺スキル!!」
「
スキルを宣言した女サムライが刀を振る。
すると、次元を割断する一本の白線が出現した。
「えっ」て思ってそのまま固まってると、次の瞬間、白線はそのままぴゅーんと飛んできて、ワシの首に吸い込まれた。 ぎゃーーー!!!
「ふっふーん! これでひとつ!」
勝利を確信した女サムライは、パチンと音を立て、カタナを鞘に納める。
だが、ワシの首はなんとも無い。平穏無事だ。
「ファファファ。今、何かしたかの……?」
ワシは自分の力を誇示するように、
コキッ……コキッ……と首の骨を鳴らしてみせる。
ふ、ふ、ふ――
ふあああああああ!!!! あっぶねぇぇぇえ!!!!!
切断耐性のタリスマン作っといてよかったぁーー!!!
ワシは二度同じ失敗は繰り返さない。
あのツルハシ男の使った「丸ノコ」対策をすでに用意していたのだ。
切断耐性を限界まで高めるお守り。これを作って身につけていた。
まぁ、その副作用として「打撃」にはめっぽう弱くなってしまったが。
「キャー!! みんなピンチ! 助けてー!!」
「「「「おおおおおおおおお!!!!」」」
<行け―おまえら!><斬鬼ちゃんのために死ね!!>
ほう、女の悲鳴が合図になったのかの?
後ろから随分と色々でてきたのう。ひい、ふう……
10人くらいの、まあ
みたところ、目の前の女も含め、飛び抜けた達人はおらん。
これくらいなら「なんとかなる」な。
常識的な相手なら、常識的に戦うまでじゃ。
「ファファ、我こそは不死者の王。その魔術の真髄を味わうが良い」
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