交渉ってか脅迫だよね
「さて、爺よ、これが見えるか?」
「貴様、
俺はブロックを積み上げて柱の上に登ると、バリアではなく、バリアを展開している台座本体をツルハシで叩いて破壊した。
俺の持ってるスキルでは、護符を守っているバリアを壊せない。
だけど、「台座」は別だ。
ツルハシでガチンとやって台座を取っ払えば、バリアは消える。
あとはその場に残った護符を拾い上げるだけだ。
我ながらツルハシが万能すぎるな。
で、今は拾ったそれをリッチに見せつけている。ってところだ。
左手に護符、右手にツルハシって感じ。
「ファイアーボー……」
「おっと、コイツがどうなっても良いのか?」
「クッ!!」
<ヴィイイイイイイイン!!>
俺はこっそり火の玉をぶつける魔法をぶっぱなそうとした爺に、ツルハシを見せつける。ツルハシの先端は、丸ノコを防いでるブロックに今にもくっつきそうだ。
ツルハシの先がちょんと、このブロックに当たれば、さっきの丸ノコがリッチを再び切り刻み始めるだろう。
「まぁまぁ爺さん。このブロックをどけたらどうなるか、わかるだろ?」
「お主には人の心が無いのか!」
「ぶっちゃけ申し訳なかったとは思っている」
「じゃよね?!!」
「そこでモノは相談なんだが……これは爺さんにもメリットのある提案だ」
「何だと?」
「俺はこの辺に仮拠点を作りたくてね。で、平たく言うと爺さんに警備員をしてもらいたいんだ。探索者やモンスターが来たら、そいつを追い払っておいて欲しい」
俺はここに仮拠点を設営するつもりだが、探索者の中にはゲスもいる。
モンスターを倒すんじゃなくて、モンスターを倒して傷付いた奴らから宝を取ろうってカスは少なくない。ダンジョンの中では、人も簡単に信用できないのだ。
「バカな!なんでわしがお前ら人間ごときのために……!」
「ツルハシって重いんだよねぇ」
「待てっ! 待たんかっ! わかった話を聞く!!」
「よし、じゃあ一度しか言わないぞ」
ヒゲを揺らしてコクコクと
「俺はダンジョンの壁を壊せる。で、置くことも出来るのは、今見たとおりだ」
「ウム……」
「でだ、俺はここに仮拠点を作る」
「この護符を含めた全財産を持って『壁の中』にな。意味がわかるよな?」
「……ッ!!!!」
「お前さんは探索者に負けることはもうない。そりゃそうだよな。護符は壁の中にあるから、絶対に探索者に取られる事はない」
「お前は本当に人間か? まるで悪魔のささやきだ……ッ!」
「さぁ爺。答えを聞こうか」
「……わかった。お前の要求を聞こう。何をすれば良い?」
「さっき言ったとおりだよ。ここに仮拠点を作るから、モンスターや俺以外の探索者が来たら適当に追っ払って欲しい。無理なら知らせてくれるだけでも良い」
「……わかった。ならこれを使おう」
リッチはそう言って、手の平から何かをフワッと出した。人魂?
「それは、人魂か?」
「強い意志を持たぬ、レイスの出来損ないだ。生霊とも言うな」
「何か物騒なの出てきた」
「ピュイー?」
「……かわいい」
「だろう? お主にもコレのかわいさが
「まあそれは置いといて、それを何に使う?」
「? 連絡用だが。ゴーストやレイスのような霊体は壁をすり抜けられるだろう」
「あっ。さすが爺。頭いいな」
「私を誰だと思っている。不死者の王だぞ」
「おみそれしました。……それなら連絡の問題はないな」
「だが、今さら疑う訳では無いが……」
「本当に壁が掘れるのか、だろ。まあ見てなって」
俺はツルハシをリッチの目の前で、青白いレンガの壁を破壊する。
そしてそれを爺の目の前に<ぼんっ>と置いた。
「種も仕掛けもないな。文字通りか」
「信じてもらえた?」
「うむ……しかしいいのか?」
「何が?」
「人間がモンスターと交渉していると知れたら、問題だろう」
「その点だけど、俺ってあんまり人間のこと、信用してなくてさ」
「ふむ……続けてくれ」
「まだ爺みたいにわかりやすい弱みがあって、メリット・デメリットを理解できる、『そういう存在』の方が信用できるかな?」
「というと?」
「良かれと思ったから。誰かが悪いって言ってた。そんなフワフワした理由で左へ右へ動くような人間より、あんたらのほうが信用できるってこと」
「……ククク!! ハハハ!!!」
「そんな変な事いった? 照れるわ」
「いや何。全く同じ理由だとは思わなかった。それだけのことよ。」
「同じ理由?」
「私がこの体になることを選んだ理由。死霊術を目指した理由のひとつよ。
――魔法の善悪とは何か? 死の先へ行くことの何が悪くて、何が良いのか?」
「誰も答えを返せなかった。誰かの言葉を借り、本当の意味で信用できるものを私に示せるものは誰ひとりとしていなかった」
「何言ってるか分からんけど……爺と俺は――似た者同士ってわけか」
「そうなるな。お主、名前は?」
「ツルハシ男、でいいよ。ネットじゃ皆にそう呼ばれてるし、俺も爺のことは爺としか呼ばない。それ以上踏み込む必要、まだないだろ?」
「妙なやつだ」
「よく言われる」
俺と爺の間で、何か妙な空気が流れた。
友情というほどのものでもないが、何かこう。
コイツと俺は何かがつながってるなって、そんな感じのものだ。
俺は爺の部屋を見回す。
この爺さんにも物語があったんだよな。
本棚に家具。魔術の道具の他にも、生活の一式がここにはある。
どれだけの時間をここで過ごしてきたのだそう。
「……なあ爺、ちょっといいか?」
「なんだ?」
「そこにあるベッド、もらって良い?」
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