爺部屋
「しかし付けたのが誰かしらんけど『
アリの巣みたいな通路をたどり、目の前を水路が通る部屋の前に俺はいる。
ここが通称「爺部屋」だ。
「爺部屋」は、モンスターのあだ名がそのまま部屋の名前になったものだ。
そのモンスターの正式な名前は「リッチ」。
リッチの見た目はボロボロのローブに長いヒゲを垂らしたミイラ。
だから、ついたあだ名が「爺」ってわけ。
そうそう、リッチといっても、金持ちの爺という訳じゃない。
俺も
リッチってのは、古い英語で死体を意味する言葉で、このモンスターの名前は、それ以上死なない死体っていう意味が由来らしい。
何かいまいちピンとこないが……要は死体ってことだよ、うん。
で、死体は死体なんだけど、このリッチはただの死体じゃない。
これ以上死なないようにしたのは、リッチ御本人様なのだ。
アンデッドを代表するゾンビは、死体に魔法をかけてゾンビにしたモノだ。
骨の化け物のスケルトンも同じで、白骨死体に魔法かけて動き出すもの。
復讐心からレブナントっていうやばい奴になるのパターンもあるけど……。
普通のアンデッドって、基本的に本人の意志で動いてないんだわ。
だけどリッチは違う。本人の意志でこれ以上死なない体を手に入れた存在なので、意識や知恵が普通に存在する。これがヤバイ。
知恵があるので、作戦らしきものを使ってくるし、魔法の矢とか火の玉とか雷をバンバン飛ばしてくる。クソ強えぇのだ。
リッチの特徴的な笑い声「ファファファ」を聞いたら人生の最後だ。
次の瞬間にはアホみたいに魔法が飛んでくる。
そして更に最悪なのが、コイツも泥人と同じでギミック持ちなのだ。
リッチが持つギミックはシンプル。
部屋に隠された「護符」を壊されない限り死なないというものだ。
しかもその護符が厄介な場所にある。
部屋の中心の柱の上にある台座でフワフワ浮いていて、魔法のバリアで守られているのだ。バリアで守られているから、狙撃も効かない。
リッチは大抵、その護符に対してビビビと魔法を使っている。おまけにリッチのようなアンデッドは寝る必要がないのでずーっとビビビしている。
いやホント、どうしろと?
リッチに見つからずに護符を取りに行くことはできない。
正攻法でリッチをなんとかするなら、まずこの爺を死闘の果てにしばき倒す。
で、次に護符を壊しに行かないといけない。
ただこのバリアの破壊には時間がかかる。
以前俺が見た配信だと、バリアを壊そうとしている間にリッチが復活して、2~3回戦するのが普通だったな。
うーむ。中々にクソたわけている。
もしこのダンジョンに開発者がいたら、絶対テストプレイとかしてなさそう。
「このリッチについては一応対策しないとだけど……退治してもどうせ復活するんだよな……」
その時、俺の頭に電撃が走った。
退治しても復活するんなら、逆に考えればいい。
そう、この爺を人払いの警備員として使う道はないだろうか?
やつには「知恵」がある。なら交渉だって出来るんじゃないか?
だがそれには爺と対等な立場にならないといけないな。
ヤツと俺とでは立場が違う。
一方的に銃を突きつけることが出来る爺と俺の間では交渉が成り立たない。
なら、ヤツから銃を奪い、俺が銃を持っている状態にすれば?
それなら交渉が成立する。
「それが可能なら」やる価値はあるんじゃないの?
くくく……理不尽には理不尽で対抗しよう。
ちょっとしたプランが思いついたぞ!
「配信……はいいか、仮拠点は隠れ家だし、位置はバレたくないもんな」
俺は爺部屋の扉をそっと押し、スキマから中を見る。
部屋の中央には骸骨を象った柱があり、頂上には緑に光る丸いオーブがある。
あれが護符だ。そして……うん、しっかりビビビしてるね。
こちらに背を向けた格好で、爺が柱に向かって両手を掲げていた。
爺の手の平からは、いかにもダークパワー!! って感じの電撃が出ている。
「よし、まずは小手調べだ。コイツで先制攻撃と行くか」
俺は早速、採りたてのアレを活用することにした。
「さあいけ、丸ノコ君!!」
柱
リ
◎
↑
↑
俺
「そして……こうだ!!」<ポンッ>
柱
リ
◎
↑
↑
▢
俺
俺は壁ブロックを手前に配置した。
柱、リッチ、丸ノコ、壁ブロック。その全てがちょうど一列になるように。
「ファファファ! この部屋にギャー!!!!」
ようやく俺の存在気づいたリッチに丸ノコが襲いかかる。
爺を切り刻んだ丸ノコは俺のもとに帰ってきて、壁ブロックにぶち当たり――
「ククク……この程度の損傷、すぐに再生ギャアアアアア!!!!」
よし。
少しずつブロックの距離を詰めていくか。
柱
リ
◎
▢
俺
<ヴィイイイイィィィィン!!!>
「おのれこの不死者の王ゥーノオオオオオオオ!!!!」
<ヴィイイイイィィィィン!!!>
「無駄無駄!!!! あ、ちょ」
<ヴィイイイイィィィィン!!!>
「……ふっか、グェー!!」
<ヴィイイイイィィィィン!!!>
「……」
「うわー。っていうか……うわー。」
なんかすげえ拷問装置が出来上がってしまった。ごめん爺。
護符の効果があるから、死ぬことも出来ない。
これにはちょっと……流石の俺も同情せざるを得ないわ。
さ、さて……。
後はブロックを積み上げて柱の上に登って、護符を確保するとしよう。
・
・
・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます