第18話 魔法少女デビュー
「こんにちは。魔法少女、マジカル・ユメハのアトリエへようこそ!」
夢羽はいつも以上にテンション高く、画面に向かって大きく手を振った。
彼女の声は軽やかで、聞いているだけで視聴者の気分を引き上げるような魅力がある。
画面には、魔法少女ユメハこと厚木夢羽のアバターが映し出されていた。
例の杖——魔法陣がデザインされた日傘を手に持ち、決めポーズを取っている。
「闇の結界に守られし者たちよ……今日は特別な儀式に参加してもらうわ♪」
彼女の声に合わせて、画面にはきらびやかな魔法陣のエフェクトが広がる。
独特の雰囲気を醸し出すその姿に、コメント欄が一気に賑わい始めた。
『今日も濃いなこのメンツ』
『シューチさん、どんなツッコミするかなw』
『魔法少女×紺ちゃんコラボ最高!!』
俺は画面の端に配置された小さなアイコンで、できるだけ目立たないように座っていた。
紺とユメハが楽しげに配信を進行する中、俺の役目はどうやらツッコミ担当らしい。
「さぁ、今日はいつもと少し違うわよ。なんと特別ゲストをお迎えしました」
夢羽がドラマチックに杖を掲げ、視聴者の期待感を煽る。
その言葉に画面が切り替わり、次に現れたのは紺のアバターだった。
普段のシンプルで落ち着いたデザインとは異なり、今日は煌めくエフェクトが彼女を包み込む。
魔法少女風の衣装を纏い、肩やスカート部分にはキラキラした装飾が施されている。
さらに、頭には星型のアクセサリーが輝き、彼女のキャラクターを魔法少女らしく引き立てていた。
「こ、こんにちは! 流星の如く現れた貧困系Vtuber! 魔法少女……コンちゃんですっ! コンちゃんは今日も~~??」
紺が少し恥ずかしそうに言葉を詰まらせながら挨拶する姿は、普段とは違った可愛らしさを感じさせる。
その瞬間、コメント欄は爆発したように盛り上がった。
『かわいい~~~~~ッ!!』×119
『おおおお!』
『コンちゃん魔法少女化ww』
『似合いすぎてるw』
俺は少し離れたソファからその様子を見守っていたが、視聴者のテンションと紺の照れた顔に、つい心が和んでしまう。
「コンちゃん、今日は魔法少女としての素質を試す企画よ。視聴者のみんなも応援よろしく頼むわね」
「えへへ……頑張りますねっ♪」
紺が緊張しつつも笑顔を見せると、視聴者からもさらなる応援コメントが飛び交った。
一方、慣れない衣装とカメラの前の視線に少し落ち着かない様子で、彼女は俺の方をチラリと見る。
「シューチさん……本当に私、これで大丈夫でしょうか……?」
俺、菊川周知は豚である。
感想は一言、とても似合っている。
ブヒッてしまった俺は親指を立てて紺にサインをした。
「最高だ……いや、お前が楽しめるならそれでいいさ。ただ、変なことにはならないように気をつけろよ」
「えへへ、ありがとうございます……♡」
俺が苦笑いを浮かべながら答える。
紺は少しだけ肩の力を抜いて、穏やかに微笑んだ。
その表情を見た俺は、なんだか妙に誇らしい気持ちになった。
「では、早速始めるわよ?」
夢羽が勢いよく杖を掲げ、堂々としたポーズを取る。
その姿に合わせて画面には鮮やかな光のエフェクトが広がり、魔法少女らしい雰囲気を盛り上げていた。
コメント欄には視聴者たちの期待が高まり、次々と書き込みが流れていく。
『魔法少女ってこういうことだったのかw』
『ユメハとコンちゃんのコラボ、激アツ!』
『次の展開が楽しみ!』
「それじゃあまずは、魔法少女らしく自己紹介から始めましょう?」
夢羽が画面越しに視聴者に語りかけるように言うと、隣にいた紺に視線を向けた。
紺は少し緊張した様子で頷き、深呼吸して気持ちを整える。
「えっと……わたし、魔法少女のコンちゃんです! 皆さんの笑顔を守るためにがんばりますっ♪」
彼女が慣れないながらも声を張り上げて自己紹介をすると、画面にキラキラとした星型のエフェクトが散りばめられた。
その瞬間、コメント欄が再び沸騰するように盛り上がる。
『守られたいww』
『可愛すぎて草w』
『シューチさん、これどう思ってるんですか?』
俺はソファからそのコメントを眺め、つい苦笑してしまった。
紺がこうして楽しそうにしているのは微笑ましいが、目の前で繰り広げられるこの茶番劇にはどうしてもツッコミたくなる衝動を抑えられない。
「次は、魔法少女らしい呪文を唱えてみましょう」
夢羽が期待を込めた瞳で紺を見つめる。
紺は少し戸惑いながらも目を泳がせ、思案した末に頷いた。
勇気を振り絞るように、彼女は杖を掲げて声を震わせながら呪文を唱えた。
「マ、マジカル……スターライト……シューティングっ♡」
その瞬間、画面に星が舞い散る華やかなエフェクトが映し出される。
視聴者のコメント欄は一気に爆発的な盛り上がりを見せた。
『魔法少女感、完璧ww』
『可愛すぎてどうしようw』
『シューチさんのコメント欲しい!』
「どう? 視聴者の皆さん、コンちゃんの魔法は成功しましたか?」
夢羽が嬉しそうにコメント欄に呼びかけると、視聴者たちの熱狂がさらに加速する。
『大成功!』
『もっと魔法見せて!』
『次はどんな展開!?』
「それじゃあ、次は視聴者からのリクエストに応えてみましょう?」
夢羽がコメントを拾い上げながら楽しそうに提案する。
『魔法少女のテーマソング作らないの?』
『コンちゃんの特技を披露して!』
『魔法少女対決希望!』
「いいわね。コンちゃん、魔法少女らしく歌ってみるのはどう?♪」
その提案に紺は驚きの表情を浮かべ、目を丸くして夢羽を見た。
「えぇ!? 私、歌なんて無理ですよぉ~」
「大丈夫よ。視聴者のみんなが全力で応援してくれるわ!」
「で、でもぉ……!」
「ほら、コメント欄を見てみて」
紺が恐る恐る画面を確認すると、そこには温かい応援のコメントがあふれていた。
『歌ってみた来るか!?』
『コンちゃんの声が聞きたい!』
『全力で応援する!』
その言葉に背中を押されるように、紺は深呼吸して意を決した。
緊張しながらも、彼女は勇気を振り絞って小さく頷いた。
「それじゃあ……いきます!」
彼女が歌い出すと、画面には音符が踊るエフェクトが現れ、コメント欄はさらなる盛り上がりを見せた。
『かわいい!!』や『歌声も最高!』というコメントが溢れる中、俺はソファに座りながらその光景を眺めていた。
『~♪ ~♪』
紺が歌い出すと、コメント欄はさらにヒートアップする。
俺はソファでその様子を眺めながら、彼女がここまで頑張る姿に少し感心してしまった。
(まぁ、楽しそうで何よりだけどな……)
紺と夢羽の配信は、視聴者の熱意を受けながら盛り上がり続けていた。
次はどんな企画が待ち受けているのか——俺は少しだけわくわくしていた。
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