第10話 謎の訪問者
「ふふ……楽しそうだねぇ~……」
「え?」
玄関の方から声が聞こえたと思った瞬間、 ガチャッ、バタン!
紺が驚いて俺にしがみついてくる。
「し、シューチさん! 鍵、ちゃんと閉めましたよね?」
「あ、ああ……たぶん」
自信がなくなる。
だが、そんな疑念を抱く間もなく現れたのは、相模麗香、つまり管理人さんだった。
「おっす、新居で楽しんでるか〜?」
玄関からフラフラと入ってきた彼女の手には、妙に鮮やかな色をしたボトルが握られている。
顔は赤く、明らかに酔っぱらっていた。
「いや、ちょっと待て。なんで入ってこれたんだよ?」
すると、麗香さんはポケットから鍵を取り出す。
それを軽く振りながら無邪気に笑った。
「これ? マスターキーだよ〜。管理人特権ってやつ~!」
「いや、だからって勝手に入ってきちゃ困るだろ!?」
俺のツッコミもどこ吹く風、管理人さんは靴も脱がずに部屋に上がり込んでくる。
その様子を見た紺は、困惑の表情を浮かべていた。
「し、シューチさん……この人、もしかして危ない人ですか?」
「おそらくな。けど、酔っぱらいの相手をするのはもっと面倒だぞ」
俺たちの密談をよそに、管理人さんはリビングのソファにどっかり腰を下ろす。
「何言ってんのよ~。新しい住人がちゃんと暮らせてるか見に来たの! これは管理人としての使命なんだから!」
「使命って、そんなの聞いてないが?」
楽しそうな紺と困惑する俺
俺が必死にツッコミを入れている一方で、隣の紺はケラケラと笑っていた。
「あははっ、シューチさん、管理人さんって面白い人ですね!」
「お前、楽しんでる場合じゃないだろ!」
「だって、すごく賑やかで楽しいじゃないですか♪」
紺は笑顔を浮かべながら、麗香さんと視線を交わす。
二人が何か通じ合ったような雰囲気に、俺は余計に困惑してしまった。
「でも、チェーンキーは付けた方が良かったかもしれませんね」
紺がぽつりと呟く。
確かに管理人とはいえ、入ってくるのはマズいだろう……という普通のコメントとは違う理由を語られる。
「だって、私たちの関係の邪魔をされちゃうじゃないですか♡」
「そ、そうだな」
悪戯っぽく微笑む紺に、俺は思わず真っ赤になる。
そんな俺たちのやり取りを見て、麗香さんは嬉しそうに頷いた。
「おお~、仲良しだねぇ! ほら、これで乾杯しなさいよ!」
そう言って、彼女は持っていたピンクのボトルをテーブルにドンと置いた。
「ほら、新居祝いだよ。これ、私が特別に用意したカクテルなの〜!」
「……怪しげな液体だな?」
俺はボトルをじっと見つめた。
中身は、何とも形容しがたいショッキングピンクの液体がたゆたっている。
「まさかこれ、飲めって言うんじゃないよな?」
俺が恐る恐る尋ねると、管理人さんはケラケラと笑いながら頷いた。
「もちろん! これ、私の自家製特製カクテルなんだから! 飲んだら元気100倍よ!」
「いやいや、なんでそんなモノを……てか、飲ませるつもりだったのかよ」
「入居祝いだからね! 私、管理人として歓迎の気持ちを込めて、頑張っちゃったの!」
「……自分で飲めよ」
どうやら彼女なりに俺たちを歓迎しようとしているらしいが、この異常なテンションと奇抜な飲み物を見る限り、その行動は完全に空回りしている。
「はぁ、誰がこんなの飲むんだよ、なぁ紺……って、なにしてるんだ?」
俺が拒否している中、紺は笑顔でカメラを構えている。
「シューチさん、せっかくだから飲んでみましょうよ♪」
「お前まで何言ってんだ?」
紺はウッキウキで「撮れ高♪撮れ高♪」とコールをしていて聞く耳を持ってくれていなさそうだ。
彼女の無邪気な笑顔に抗議しようとするが、麗香さんはすかさず瓶の蓋を開け、グラスに怪しげな液体を注ぎ始める。
その香りは、フルーツとも薬品ともつかない、不思議な匂いだった。
「さ、飲みなさいよ! これ、私の愛情たっぷりだから!」
「いや、アンタの愛情はいらん」
俺は必死に断るが、紺は笑顔のまま俺の背中を押す。
「シューチさん、管理人さんの気持ちを無下にするのはダメですよ~♪」
「いや、どう見てもこれは罠だろ……?」
俺が再び拒否すると、麗香さんは肩をすくめた。
「ほらほら、二人とも一口だけでいいからさ〜」
俺は完全に追い詰められた気分だ。
どうにかしてこの場を切り抜ける方法を考えねばならない。
「あ、そうだ……管理人さんがまず飲んでくださいよ♪」
「えっ?」
意表を突かれたのか、管理人さんはピタリと動きを止めた。
「いや、だって自家製なら、まずは作った本人が飲んでお手本を見せてくれるべきじゃないですか?」
紺の言葉に、俺もすかさず乗っかる。
「そうさ、きっと美味しいんだろうし、まずは麗香さんが味を見て、それで俺たちにも勧めてくださいよ」
管理人さんは少し考える素振りを見せたが、すぐにニヤリと笑ってボトルを掲げた。
「いいわよ! 見てなさい、この特製カクテルの力を!」
そう言うと、グラスを一気に飲み干した。
俺たちは息を呑んで見守る。
数秒後——
「ぐはっ!」
管理人さんは突然咳き込み、顔を真っ赤にして床に倒れ込んだ。
「だ、大丈夫ですか!?」
俺と紺が慌てて駆け寄るが、管理人さんは手を振りながら力なく笑った。
「ふふ……ちょっと度が過ぎたかな……」
いや、完全にアウトだろそれ……。
結局、管理人さんはその場で酔いつぶれ、俺たちは彼女をどうするべきか悩むことになったのだった。
——「新生活、波乱の幕開け」
こうして俺たちの新居生活は、初日から波乱に満ちたものとなった。
管理人の相模さんという強烈なキャラクターとの付き合いが、これからの生活をさらに刺激的なものにしてくれる予感がする。
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毎日更新すると言ったのに一日空いてしまいスミマセン^^;
仕事で帰ったらすぐ気絶したように爆睡しちゃうんですよね。
せっかくカクヨムコンに出した作品ですので、頑張って更新していきたいと思います♪
良いと思ったらブクマや☆評価もよろしくお願いします!
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