第50話 一方、その頃
一方その頃。
伊豆あおいはライブストリーミングを通じて自らの心情を吐露していた。
「はぁ~~面白そうだったからネタにしただけなのに、なんであんなに怒られなきゃいけないわけ?」
彼女の話題は、自らが暴露したコンの恋愛事情について。
それが事務所の逆鱗に触れてしまったことについての愚痴だった。
配信画面の隅には、視聴者からのコメントが次々と流れる。
『反省しろよw』
『アイドルが男持ちはヤバい』
『身内を売るとか、ギスギスした事務所じゃん』
といった軽嘲の声も混ざりつつ、あおいは返答する。
「あーー確かにあたしらってアイドル語ってるし男がいるなんてバレたら致命傷じゃ済まないのかぁ……やば、ホントにマズいことしちゃったよね……」
怒りから反省へと、あおいの心情が配信中に変わっていく。
「勝手に言っちゃったけどさ、反省して落ち込んでるわけにはいかないんだよ! 最悪、謹慎になっちゃうかもしれないけど、出来る活動をしようと思ってさ、今急遽配信画面を開いたってワケ! だから来てくれてありがと……はぁ」
あおいはカメラに向かって苦々しい表情を浮かべる。
その時、彼女はまだ知らない——コンがすでにアイドルVTuberからタレント系VTuberの事務所へと移籍を完了させていたことを。
「けど、恋愛っていいよねぇ……」
しかし、配信は少しトーンが変わり、視聴者たちは様々なコメントを投げかける。
『急にどうした?』
『お、絹川コンへの嫉妬か?w』
『はいはい処女アピール乙 本当は彼氏いるんだろ』
「うるさいなこう見えていないんだよ、ほっといてよ怒」
あおいはキレながらも、過去の恋愛に話を移した。
「高校時代さー、私を好きだった同級生がいてね。あの頃の私は、なんで彼を受け入れられなかったんだろうって。周りの視線とかクラスカーストが気になって、本当にバカだったんだよね」
その男の特徴はシューチ自身のモノで、幸い彼はこの配信を見ていなさそうだ。
そして、彼女は続ける。
「共通の趣味があって、一緒にいると楽しかったのに見栄を張っちゃってさ……。マジでそいつが地味だからいけないのよ! その後、年上のカッコいい人と付き合ったけど、全然ダメでね。あの時の彼みたいに楽しく話せる人はいなかったなぁ」
あおいの声には、過去の選択を悔やむ色が濃く滲んでいる。
配信中のあおいは、視聴者の反応に心を動かされつつ、自分の内面をさらに掘り下げて語り続けた。
「本当に、恋愛って難しいよね。昔は自分のことを一番に考えて、その結果がこれだもん。でもね、今はちょっと違うんだ」
配信の空気は一変し、あおいの顔には少しの希望が灯る。
「そう、最近その同級生と再会したの。でも、彼には彼女っぽい人がいるかと思ったら、実はそうじゃなくて……これはチャンスかもって!」
だが、あおいはもう分かっている。
自分は恋愛レースに負けてしまったことに。
視聴者に心配かけたくないと思って、あえてそれをボカして語った。
「そうね……もう過去に縛られることなく、自分の感情に正直に生きたいの。だから、いつか彼に今の自分の気持ちをちゃんと伝えようと思って。それが恥ずかしいなんて思わないようにね」
視聴者からは、「がんばれ!」や「応援してるよ!」といったエンカレッジメントのコメントが次々と寄せられる。
画面を通じて届くそれらの声が、あおいに新たな勇気を与えていた。
「ありがとう、みんな。本当に励みになるよ……。色々悩んでて怖かったけど、みんなの支えがあれば、何とかできそう!」
配信の最後には、彼女がカメラに向かって真剣な表情で宣言した。
「次に彼と会ったとき、全部の真実を話すよ。もう隠し事はしない。そして、どんな結果になろうと、私はそれを受け入れる準備はできてるし!」
画面はゆっくりとフェードアウトし、配信は終了した。
あおいの配信が終わると同時に、部屋には静寂が戻る。
しかし、彼女の心には新たな決意が芽生えていた。
外はすっかり暗くなっていたが、その夜の星空は、あおいにとってこれまで以上に輝いて見えた。
「これからが本当のスタートだよ……」
彼女は窓の外を見ながら囁いた。
未来への一歩を踏み出す準備は、すでに整っていた。
「だからね、今度は逃さないように頑張るつもり!」
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