第43話 メシを作る、そして

 話は紺を追いかけ捕まえた後になる。

 落ち着きを取り戻した俺たちは紺の家に戻った。


「はぁ……この一週間何やってたんだよ」


 俺は紺の部屋を見渡しながらため息をついた。

 部屋は普段の紺らしくないほど荒れており、いたるところに衣類や本が散乱していたので、今は掃除を始めることにする。


「えへへ、寝てぼーっとしていたらこうなりました」

「なんでそんなことに……」

「シューチさんが悪いんですよ、私にあんなことするから」


 あまり元気が無さそうな返事に思わず心がチクリと痛む。


「だからってこんな露骨に落ち込むなよ」


 罪悪感を覚えるだろうが、と俺は苦笑いを浮かべた。

 だけど仲直りした今、お互いを拒む障壁はない。

 心を許し、気までも許したところで俺はやらかしてしまう。


「ん?」


 ゴミの中から一枚の布切れを掴んでしまう。

 何かと思って見てみれば、薄くてレースの……


「きゃああぁぁぁっ!?」


 紺が驚き俺の手からパンツを奪った。


「な、なんで拾っちゃうんですかぁっ!」

「わ、悪い、拾うつもりじゃなかったんだが……」

「まだ洗濯もしてないモノを……うぅ、お嫁にいけない……ちらっ」


 そこで何故か俺の方を見てくる。

 紺は何とか冗談を交えて状況を和らげようとしているのかもしれないが、そのやり取りに気まずさを感じつつ


「何となく言いたい事は分かったからしまってくれないか? 目のやり場に困る」

「なるほど……まだピュアでいたいってことですね、まぁ許してあげましょう」


 勝手に納得する紺。

 もうそろそろ俺が抜けても良い頃かなと思い、抜ける。

 行き先はキッチンだ。


「手伝わなくて大丈夫ですか?」

「いいよ、たまにはこれくらい」


 紺の家に戻ってきたのはこのためである。

 お腹が空いたので一度家に戻ろうとなった。

 なので、先ほどの話は一旦お預けを食らっている。


「ええと、これでいいのか……?」


 俺はとにかく材料を炒める事に注力していた。

 そして、出来上がる——


「出来たが……これは……」


 ご飯と野菜炒めという、なんともお粗末な料理だ。

 調理方法は切った野菜と肉をフライパンに入れただけ。

 これはカップ麺と何ら変わりないのでは?


 とりあえず試食をしてみる。

 料理なんて久々だから、味がどうなったか分からない。


「……」


 素直には美味しいと言えない味。

 出すわけにはいかないなと一口で思ってしまった。


「捨てよう……」


 だけど、後ろから紺は言うのだ。


「お腹がすいてるので貰っていいですか?」

「わっ、いつのまに!?」


 驚いた俺は飛び退いてしまうが、紺はしかめ面を見せてくる。


「今捨てようとしましたよね?」

「あぁ……失敗したから捨てようと思っていたんだ」

「ダメです勿体ないです、食材は命なんですよ!」


 紺は怒って詰め寄ってくる。

 なので仕方なくお皿に盛りつけたが、見た目も良くない。


「さて、テーブルを拭きますから待っててくださいね♪」


 こんなものを紺に食べさせるのかと思うと、申し訳ない。

 そして席に案内され、食事をする流れに至ってしまった。


「じゃあ、いっただきまーす♪」


 手を合わせるなり俺たちは一緒にご飯を食べ始める。

 だが、口にさせるワケにはいかず、俺は言う。


「はは、どうしたら肉が焦げるんだって話だよな」


 せめて料理の出来を理解させようと、食事への気を逸らそうとするのだが


「そうですか? 入れる順番が悪かったのかなぁ、それとも……ま、いっか」

「あ……」


 けど、紺は口に含んでしまう。

 それでいて、優しい表情で微笑むのだ。


「美味しいですよ、とっても」

「ウソだ……本当のこと言ってくれていいんだぞ」


 嘘をつかれると逆に傷付くことがある。

 だけど、紺の言葉は本音のようだ。


「確かに変に焦げててびっくりしますけど、自分の作った味とは違って美味しいんです。嘘だと思うならちゃんと私を見ていてください♪」


 食べる姿を見れば一目瞭然。

 とても美味しそうに食べるから、俺は納得してしまった。


「そうか、こんな料理でも食べてくれるんだな」

「シューチさんは食べないんですか?」

「自分の作った料理だからちゃんと食べるさ」


 一人で食べるのなら良かったと思っていたが、少しだけ気が晴れた。

 空かしていたお腹が満たすべく、俺も食事を始める。


「んーー美味しいですねぇ~」


 頬に手を当てて咀嚼する紺に、思わず頬が緩んでしまう。


「……そっか」

 

 考えすぎだったのか、みるみるうちに皿から料理が無くなっていく。

 楽しい食事の時間が終わるまで、あっという間の時間だった。


 二人で「ごちそうさま」をするや否や、紺は食器を洗い場に持って行ってくれる。


「それくらい俺がやるよ」

「いいんですよっ、今日はシューチさんが作ってくれたんですから座っていてください」

「いつも全部やってくれてるだろ、だから貸してくれって」

「ダメです、絶対に放しません」

「わかったよ……」


 仕事を奪われるも、思わずクスリと笑ってしまう。

 あぁ、前と同じ空間が戻ってきたなと、いつもの安心感が戻ってきたような気がして。


 ……俺はある決意をした。


「ふぅ~終わりました……あら?」


 俺は紺の近くにやってきた。

 目を丸くしていて、全く警戒心がなさそうだ。


「あのさ……お前に言いたい事があるんだ」


 俺にはタイミングというものを知らない。

 丁寧な言葉も使い慣れていない。

 だけど、今すぐに気持ちを口にしたい。


「俺はお前のことが好きだ——ずっと好きだった」



―――――――――――――――――――――――――



 いつも読んでくださりありがとうございます。

 点滴を打つ程度に体調不良になりました。

 近々更新が途絶えたらそういうことだと思ってください。


 長くても一週間で復帰します。

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