第28話 お土産
時刻は17時。
遊園地のメインストリートは色とりどりの装飾で彩られ、何かの準備が整えられていた。
お互いに目を合わせて「なんだろうね」と、紺と一緒にちょうど良い場所を見つけて立ち止まると、すぐに周囲は子どもたちの歓声や期待に満ちたざわめきでいっぱいになった。
「シューチさん! あれ、始まるみたいですよ!」
紺が指さす先で、華やかな音楽が一斉に鳴り響き始める。
パレードの先頭が、ゆっくりと曲がり角を曲がってきたところだった。
「なるほどな、二回に分けられてるからこれが最後のパレードってわけか」
トラブルで見る機会を逃していたので、紺の満足度は爆上がりだろう。
「わー見てくださいシューチさんっ、先頭のフロートは竜の形をしてますね! その背中に乗ってるのは騎士かな?」
「迫力があるなぁ」
当然のごとく、紺は目を輝かせながら少し興奮気味に説明を加えた。
「竜が本当に動いてるみたい。それにその騎士、とっても勇ましいです!」
フロートが一つ一つ通り過ぎるたびに、俺たちはそのディテールの豊かさに感動する。
ダンサーたちが振るキラキラと輝く衣装、手を振るキャラクターたちに、紺は何度も手を振り返していた。
「あそこのフロート、見てシューチさん! 海の世界みたい!」
紺が指差したフロートは、波や海の生き物がデザインされていて、まるで水中を漂っているようだった。
「あぁ、それに乗ってるのはマーメイドだな。すごく綺麗だ」
「私、小さいころはマーメイドになりたかったんですよ~」
すごく純粋で、子どものように言う紺。
その姿に惚けてしまいそうなので、からかってしまう。
「今からガワを変えても遅くはないぞ?」
「もうっ、そういうことを言いたいんじゃないですよう~」
俺の冗談に頬を膨らませる紺。
機嫌を直す為に俺は言う。
「本当か? じゃあ今度、プールに行こうか。紺のマーメイド姿、見てみたいな」
と冗談を言うと、紺は笑いながらこういうのだ。
「うーんと、メイド姿の方が衣装的には楽かもしれません♪」
「なるほどなぁ、そういう見方があったか」
それで料理を振舞ってくれる紺の姿を想像すると、思わずお腹が空いてきてしまいそうだ。実際ちょっと見てみたい気持ちが高まる。
「あー想像しちゃいましたか?」
「してないしてない。ほら、そろそろ最後なんじゃないか?」
と、俺は悟られないように話題を逸らした。
パレードが終盤に差し掛かると、フロートが近づいて来た。
「あのフロート、すごく大きいですね! それにお城の形をしててカッコイイ!」
と紺は興奮気味に言う。
確かにそのフロートは巨大で、まるで本物のお城のように見えた。
「あれはシンデレラの城だな」
「えっシューチさん詳しいですね!」
「いや、詳しいってほどじゃない。たまたま知ってるだけだ」
そう否定するも、紺は少しだけ寂しそうな顔をしていた。
「そうですよね、だってシューチさんは……」
最後に何かを呟き、またパレードに視線を向ける。
そしてラストのフロートを見送るなり紺は言った。
「とーっても良かったですねっ♡」
「あぁ、ホントにな」
お互いに非日常を感じることが出来て良い刺激になっただろう。
「じゃあ帰るか?」
「あ、待ってください。お土産屋さんに寄っていきたいです」
「そうだな、せっかくだし行かないとな」
そう言い、俺たちはお土産屋さんに行った。
◆◆◆◆
「結構広々としてますね~」
「そうだな」
中は広く、お土産屋さんだけでも3つあった。
「あっ、これも良いし捨てがたい……だけど荷物になるし、うーん、やっぱりこれもっ!」
紺はお土産を選ぶのに夢中で、邪魔をするのは悪いかと思った。
とりあえず見て回ろうと、俺は歩き始める。
営業停止を食らってる今、お土産を渡せそうなのは先輩くらいかなと思って、適当にそれっぽいものをカゴに入れる。
他にも何かあるだろうか、そう思っていると
「……ん、なんか見覚えのあるキャラがいるな」
見ると、そこに陳列されていたのはフルール・ド・リスのぬいぐるみだった。
どこで見たのか……数秒立ち止まると思い出す。
配信で紺が「可愛い」って言ってたキャラだった。
「これ、あいつに渡したら喜んでくれるかな?」
ぬいぐるみを前に喜んでいる紺の姿を想像して、クスリと笑ってしまう。
ふと我に還ると、俺は頭を振った。
「あー変な想像するな、普通に渡せばいいだろ」
今や贈り物機能がないのだから。
それに日頃のお礼も兼ねてプレゼントしてあげたい。
そう思って、俺はそいつをカゴに入れて会計をした。
「お、いたいた。買い物は終わったか?」
紺を見つけて声を掛けると振り向いてくれた。
「丁度探してましたーっ、おかえりなさいですっ!」
「結構買ったんだな」
「もちろんですっ、事務所でお世話になってる方がたくさんいらっしゃいますので」
紺の両手には大きな袋が4つほど。
意外と交友関係が広いんだな……。
なんだか差を見せつけられているような気がしてしまったが、気にするところではない。
「重いだろ、持ってやるよ」
「やったーありがとうございますっ♡」
袋を3つほど持つと、意外とずっしりとしていた。
これを持って帰ろうと思っていたのだろうか。
そう疑念を覚えて紺の方を見てみる。
「~♪ ~♪」
鼻歌混じりで上機嫌だ。
後先考えていないという風にも伺えるが、その笑顔を守れるのだと思えば、なんだってできるような気がした。
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