第26話 その後の余韻
結局あの後、キャラクターショーには行く事が出来ず、紺の介抱する時間となってしまっていた。まぁ、時間帯的に恥ずかしい所を見られなくて済んだというのが幸いだろう。
だけど、どれくらい経っただろうか。
「「…………」」
俺たち二人はベンチに座ったまま一言も会話をしないまま、ただ遊園地の景色を眺めて座っているだけだった。
たまに顔を合わせては視線を逸らす……そんな気まずさも甘酸っぱい体験だったようにも思えてくる。
そうして、座り疲れを感じ取った頃、紺は身体を伸ばして息を吐いた。
「んーーーーっ……」
まるで猫のような伸びをして、紺は凝り固まった身体をほぐすなり元気になった。
「はぁ~遊園地に来てまで日向ぼっこするとは思いませんでしたよ~」
「最高に良い時間の無駄遣いしてるな」
「そうですねぇ」
だけど、そろそろ行こうかという話にもならない。
まだお互いにこの余韻を味わっていたいことが伝わってきた。
何か話したいな、そう思って話題を振る。
「正直、紺がナンパされてる所見て非常にビビった」
「相手の方を殴っちゃったのに……?」
「社会的にやっちゃいけないことだからそれには触れないでくれ……」
いきなり図星を突かれて頭を抱えてしまう。
「まぁ、私だって怖くてビビり散らかしてましたからね? お互い様ですっ♪」
だけど、紺はフォローを入れてくれる。優しい。
彼女もナンパに対して思う所があったようだ。
「それにしてもナンパってどうしてあんなに強引なんでしょうか?」
弱者男性から見ても不思議である。
やはり自信があると見え方が違うのだろうか。
その自信はどこから来るのだろうか。
「一回美味しい思いをすると調子乗っちゃうんじゃないか? ギャンプルみたいにさ」
一回の成功体験が人に自信を与えるっていうしな。
ところが、俺の言い方が悪かったせいで、紺は妙なことを言い出した。
「えー私って回転数の高い台だと思われてます?」
「どんな例え方だよ……でもちょっと違うんじゃないか?」
パチンコの例えに軽く引きながらも真面目に答える。
回転数の多い女だったらそりゃあビッチだ。
当てはまるとしたら伊豆さんみたいな……いや、想像するのはやめておこう。
「まぁ声を掛けるなら気弱で大人しい子だろうな、変に噛みついてこなさそうだし」
「だったらギャルにならないとですね! まじやばです~><」
「敬語を直すところから始めないとな」
可愛いからやめないで欲しいなと内心思った。
そこで俺の見解が少し深まる。
「そもそも紺が可愛いからナンパされやすいんだろ……あっ」
思わず褒めるようなことを言ってしまった。
当の本人は口を開けたままぽかんとしている。
もういいやと思い、俺は続けた。
「ま、まぁ……愛想も可愛くもない女に話しかけたいとは思わないしな、普通」
「シューチさんっ、もしかして可愛いって思ってくれてるんですか!?」
「はは、残念だったな、ナンパされるお前が悪いって話がしたかったんだ」
「可愛いって罪ですねー♡」
煽り耐性高いなぁ……流石ストリーマーだ。
まぁ、これだけユーモアに富んだ返事をしてくれるのだから、頻繁に声をかけられているのかもしれない。
「ていうかナンパって結構されるのか?」
その問いに対し、紺は目を丸くした。
「これで二回目なんですけど……え、覚えてないんですか?」
「え、なにが?」
俺が尋ねると、ぽかんと口を開けて黙っていた。
だけど、クスッと笑って紺は言うのだ。
「いいえなんでもありませーん。まぁナンパみたいなコメントを拾うことはありますけどねっ♪ 結婚してくれーとか」
「あぁ、俺もナンパ男だったのか」
「シューチさんからのナンパは何度されて困ることはありませんね♡」
さっき気になるようなことを言われたが、まぁ気を取り直して提案する。
「休憩もそろそろ飽きただろ、次どこかに行こうぜ」
「はいっ、よろこんでっ!」
自然と俺たちは手を繋いでしまっていて
何故か離したくないなって思ってしまった。
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