第24話 ランチタイム
ランチタイムは早めに設定されていた。
11時30分。
人々の群れがピークを迎える前に、俺たちは紺の丁寧な下調べのおかげでスムーズに席につくことができた。
レストラン内はまだ広々としており、ゆったりとした空間が広がっていた。
「あ、これ美味しそうですー!」
紺がメニューを眺めながら興奮気味に呟いた。
「どれ?」
俺は興味津々で彼女の指差す方を見た。
彼女はにっこり笑って「これですっ♪」とハンバーグランチを指さした。
そのメニューにはジューシーなハンバーグと炊きたてのライスが添えられており、添えられた野菜も鮮やかで誘惑的だった。
「じゃあそれにする? 俺も同じのにしようか迷ってたし」
俺は提案し、紺は嬉しそうに頷いた。
「うん、いいですね。……すいませーん!」
彼女が手を挙げて店員を呼び、その明るい声が周囲に響いた。
「ハンバーグランチを2つでお願いします♪」
「かしこまりました」
店員さんは笑顔で頷き、厨房へと注文を伝えに行った。
しばしの沈黙の後、紺が会話を再開させた。
「なんだか最近一緒に出かけることが多いですね」
「そうだなぁ……なんかいかに仕事ばかりしてたかってことが分かるな」
俺は自嘲気味に笑う。
「じゃあ外に連れ出した私に感謝しないとですねっ♪」
彼女はいたずらっぽく目を細めたので、俺は心から同意した。
「確かにな」
「ご飯を食べた後もいっぱい遊園地を回りますから、覚悟しておいてくださいね?」
「また絶叫系に乗るのか?」
俺は若干の不安を隠せずに尋ねると
「絶 対 に 乗 り ま せ ん !」
彼女は大袈裟に手を振りながら、強調して言った。
その宣言に、俺はほっと胸を撫で下ろし、苦笑いを浮かべた。
実は紺はどこかにカメラを仕込んでおり、自分の中で良い撮れ高を取れたので、すでに満足しているらしい。
その事実を知って、俺は彼女の行動力と準備の良さに改めて感心した。
「お待たせしました。ハンバーグランチ2つです。」
響き渡る声とともに、店員さんが丁寧に料理をテーブルに下ろした。光り輝くポーセリンのプレートには、ジューシーなハンバーグが鎮座しており、周りにはカラフルな野菜が添えられていた。ソースが肉にかかり、芳ばしい香りが空気中に広がる。
「ありがとうございます」
俺は感謝の気持ちを込めてお礼を述べ、フォークとナイフを手に取った。
「「いただきます」」
紺と共に手を合わせてから、早速フォークを肉に沈める。
一口食べるなり、その味に心底驚いた。
心の中で(お~っ)と感嘆の声をあげながら、口の中で広がる肉汁と濃厚なソースのハーモニーに満足感が溢れる。
「美味しいな」
「はいっ、おいひぃです~♡」
隣で紺も幸せそうに目を細め、ハンバーグを味わっている。
彼女の顔には食べることへの純粋な喜びが表れており、その姿に俺も自然と笑顔がこぼれた。食事を進めるごとに、肉の柔らかさとソースの絶妙なバランスが心地よいリズムを奏でる。
それにしても、何とも言えない満足感が漂う。
内心ではもっと別の渇望が湧いていたようだ。
「紺の手料理が食べたいな」
ぽつりと呟くと、彼女は驚いた表情で問い返す。
「はむ……ど、どうしたんですか突然?」
「いや、外食も美味しいけどなんだろうな……最近紺の料理を食べてない気がして、物足りなさを感じてた」
素直に心情を打ち明けると、紺は嬉しそうにニヤニヤと笑い出す。
「えー、シューチさんってば、そんなに私の料理が恋しいんですか?」
彼女の声にはいたずらっぽさが含まれていた。
ふと失言した事に気付く俺だが、もう遅い。
正直に頷くしかなかった。
「そ、そうだな」
「ふふっ、贅沢な悩みですねぇ~そっかぁ。じゃあ、仕方ないなぁ~今度作ってあげましょうか♡ 何が食べたいですか?」
一瞬でどんな料理でもいいと言いかけたが、彼女に迷惑をかけないように一つ提案する。
「ハンバーグ……とか?」
「ハンバーグは今食べてるじゃないですか。あっ、じゃあオムライス作ってあげましょうか? 私オムライス大好きなんです~♪」
変な回答をしてしまうが、紺は提案してくれる。
別に「何でもいいよ」と答えても良かったのかもしれない。
「うん、それも良いな」
「じゃあ、私の得意料理のオムライスにしましょうか♪」
紺は嬉しそうに笑う。
そんな彼女の笑顔を見ると、俺まで幸せな気分になるのだ。
会話を交えながら、楽しいランチタイムを過ごす。
あれよあれよという間に、プレートはきれいに空になった。
「「ごちそうさまでした」」
俺たちはレジで会計を済ませ、店員さんに再び感謝を表して店を後にした。
「ところで次はどこに行くんだ?」
「んーと、次はアトラクションやショーなんかがいいですね~」
午後のリラックスタイム。
食後は少し体を休める為に、紺はゆったりとした場所が適所だと言った。
「確かに今ジェットコースターに乗ったら吐きそうだもんな」
俺は笑いながら同意する。
アドレナリン全開の朝を過ごした後だから、少しペースダウンも必要だろう。
「そういうことです! あ、14時になったらマジックショーが向こうで開催されるそうなのでそれまで時間を潰す為にこの博物館に行きませんか?」
「いいな、今度は俺が地図見て案内するよ」
「えーシューチさん優しいですね~どうしたんですか?」
と、紺は少し驚きを交えて問うので、ちょっぴり得意げに答えた。
「まぁ……今度メシ作ってくれるって言ったから」
「ふふ、そういうことにしておいてあげます♡」
そんな軽妙なやり取りを交わしながら、俺たちは遊園地の散策を続ける。
風は心地よく、遊園地の喧騒が背景の音楽のように流れる中、次の目的地に向かって歩みを進めていくのだった。
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