第23話 遊園地へ②
朝からの出発だったので、開園からさほど時間は経たないうちに着いた。
「何から乗ろうか?」
着いたばかりの俺は立ち尽くす。
そこで、紺がワクワクした面持ちで提案した。
「私、考えてきたんです!」
「ほう、なにを?」
好奇心に駆られて尋ねると、彼女はスマートフォンを取り出し、画面に映し出された遊園地のマップを指さした。
「遊園地の回り方をですっ!」
自信満々だが、それは車の中で即席で考えたことであろうことは触れないでおいた。
「まずはジェットコースターからスタートしましょう!」
彼女は決意の表情で指を突き出す。
その熱意に少し圧倒されながら、私は彼女の即興の計画に耳を傾けた。
「シューチさんは絶叫マシン、平気ですか?」
「ダメだといったら?」
俺が半ば冗談で尋ねると、彼女はにっこり笑って答える。
「それでも、一緒に乗りますよ♡」
「こういうのって強要罪になるといいよな」
「司法には限界があります、諦めてくださいっ」
そういうものなのか?(知らない)
彼女の強引さに内心でため息をつきつつも、開園直後の人出の少なさを考慮し、渋々同意する。
「まぁ、平気だから一緒に乗ってやるよ」
「乗りましょうっ♪」
道中、紺の遊園地巡り講座が始まった。
開園直後は比較的人が少なく空いているので、人気のアトラクションから並ぶのが鉄則だと彼女は言った。
そう、紺の判断は正しい。
「はい、次の方どうぞ〜」
係員の明るい声が響き、私たちはほとんど待つことなくアトラクションに乗ることができた。
そして席に乗り、安全ベルトを締める。
「さぁ皆さん、夢の天国のような地獄へレッツゴー!」
係員が不穏な掛け声とともに勢いよくレバーを引くと、けたたましい音を立ててアトラクションが動き出した。
「きゃあ!」
ガチガチガチ、ガタン……ッ!
隣に座った紺が目をつむり、両手で耳を塞いだ。
あれ、意外と怖がりなのか?
そんな彼女を安心させるため、俺は声をかける。
「大丈夫か?」
「え……あ、あぅ……」
すると彼女はせき止めていた感情を吐露し始め早口になる。
「いやいやいや、こんなの怖いに決まってるじゃないですかなんでシューチさんは平気なんですか、私と一緒だと思ってたのに有罪です訴えます」
「お前が乗りたいって言い出したんだろ」
「だって他の人が楽しいまた乗りたいっていう乗り物に一度は乗ってみたいじゃないですか、あっ、きちゃう、なんかきちゃいますよあぁ……っ!!」
紺は初めてだったようで、最初は期待に満ち溢れていたのだろう。
しかし、実際に乗ってみてその恐怖に怯えていた。
「いや、ジェットコースターは絶叫マシンなんだから怖いのは当たり前だろ」
「でもシューチさんは平気じゃないですか、なんでですか?」
「それはまぁ……慣れだな」
「そ、そんなぁ……」
そうこうしているうちにジェットコースターが頂点に達し、あとは落下するだけだ。
内臓が浮き上がるような感覚が全身を駆け巡る。
「きゃああああああああああああああああああああああああっ!!」
「うわああああああああああああああああああああああああっ!?」
隣では紺が叫び、俺も思わず情けない悲鳴を上げた。
まぁ、確かに平衡感覚が狂うような感覚はちょっときついかもしれない。
俺たちは終始絶叫を上げながらジェットコースターを楽しんでいた(?)。
◆◆◆◆
「紺、大丈夫か?」
ジェットコースターが終了し、安全ベルトが外される。
俺は隣で放心状態の彼女に声をかける。
「大丈夫じゃないです……もう乗りません……」
彼女は青い顔をして呟くように言った。
どうやらかなり怖かったらしい。
しかし、それでも彼女は立ち上がったので俺もそれに倣った。
「じゃあ次は何に乗る?」
俺が尋ねると、彼女は自信満々に答えた。
「ふ、ふふ……次も人気のアトラクションに乗りますよ。午前中は列が短いので特にアドレナリンを刺激するタイプのアトラクションを楽しむべきです……!」
「間違ってない理屈だとは思うが……大丈夫か?」
ふらふらしながら言われても説得力は皆無だ。
「大丈夫です……これしきの事ではへこたれません」
彼女はそう言うが、俺は心配である。
か弱い小動物は死んでしまうのではないかと思い、俺は指を刺した。
「メリーゴーランドなんてどうだ?」
少し奥に、可愛らしい装飾が施されたそれがあった。
ちょっと子供っぽくレディをバカにしないで、と言われる懸念もあったが、紺は目を輝かせて応じてくれる。
「い、いいですね回転木馬……! 行きましょうっ♡」
紺が同意してくれて良かった。
二人でそのアトラクションに向かう際に、紺が言うのだ。
「ねぇねぇシューチさんっ」
「なんだ?」
「回転木馬ってちょっとえっちな響きですよね♪」
「……」
俺は提案するんじゃなかったと軽く後悔した。
メリーゴーランドの乗り場に着くと、係員がにこやかに対応してくれた。
「はい、次の方どうぞ〜」
俺たちは木馬に乗り込む途中で、係員に尋ねられた。
「あ、お二人はご一緒に乗られますか?」
「はい?」
木馬を見てみると、二人が乗れるような作りになっており、一緒に乗っているカップル客の姿も伺える。
というか、親子だと思われたのだろう。
係員が気を利かせて聞いてくれたことに間違いはないが
「大丈夫だ、一人ずつ——」
「——もちろん二人で乗りますっ!!!」
紺が横から大きな声で返答するのだから、俺は驚いた。
「えっ?」
すると、すぐに係員は俺たちを誘導して
「はーい、ではこちらに乗ってくださいね~。
ベルトと背もたれがあるので落ちることはないと思いますが、手すりを掴んでバランスを取ってくださいねー♪」
と、そつがない動きで俺たちを乗せるのだ。
「お、おい紺……」
俺たちは密着している。
それもそのはず、俺が乗った木馬の前に紺が乗り込んだのだから。
「ふふん……シューチさん、これはデートなんですよ? カップルらしく密着して当然ですっ」
確かにそういう流れだったが、まさかこんなことになるなんて予想していなかった。
「ほらほら、前を見ないと危ないですよ? ちゃんと私にくっついていないと」
「わ、分かってるよ……」
俺が前を向くと、紺は俺に寄り添うように体を密着させる。
「……なんか近くないか?」
俺はそう呟くが、紺は特に気にしていないようだ。
「そうですかね? このくらい普通だと思いますけど?」
「そうか……?」
俺は納得いかないが、紺は俺に身体を寄せてくる。
密着度が高まるにつれ、彼女の体温を感じるようになる。
心臓の鼓動まで聞こえてしまいそうでドキドキする。
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、彼女はさらに身を寄せてくるのだ。
するとすぐにゆっくりと動き始めた。
「わぁ……!」
紺は目を輝かせて辺りを見回している。
そんな無邪気な様子を見ていると微笑ましい気持ちになった。
俺はそんな彼女に声をかける。
「楽しいか?」
「はい! とっても楽しいです!」
彼女は笑顔で答えてくれた。
「良かったな」
俺もつられて笑顔になる。
「はい!」
そんなやり取りを交わしながらそれを楽しむ。
係員が言うには、一度乗ると5分は回転木馬が止まらないらしい。
ちょっと長いような気がするが、どのような心持ちでいればいいだろう。
「あははっ、すごーい、揺れてる~♪」
だけど、そんな様子も可愛らしく、ずっと見ていたいなと思ってしまった。
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