第22話 遊園地へ
色とりどりの光が輝き、高い叫び声が空に響き渡る。
周囲は活気にあふれ、はしゃぐ子どもたちや手を繋ぐカップルたちが、幸せな雰囲気を演出していた。
無数のアトラクションが回転し、音楽と笑い声が一体となって圧倒的な盛り上がりを見せている——
「行きましょうシューチさんっ♪」
——俺たちは遊園地に来てしまった。
紺がはしゃぎながら促す。
彼女の目はわくわくしているように輝いていた。
「お、おう……」
俺は重い足を引きずるようにして彼女についていった。
どうしてこうなったのか、その答えはつい数時間前にさかのぼる。
◆◆◆◆
何も告げられず、不意に紺の家に呼び出された。
前の件だろう。
玄関を抜け、リビングに足を踏み入れると、紺が待ちきれない様子で目を輝かせていた。
「遊園地に行きたいですシューチさん!」
「……はぁ?」
突然の切り出しに、俺は首を傾げた。
彼女はスマホを取り出し、画面を私に向ける。
表示されていたのは、「戸田急ハイランド」という名前のテーマパークだった。
「ほーん、紺はここに行きたいのか?」
「はい、そうです! この近辺にある遊園地なら、ここがいいと思いまして♪」
紺は興奮を隠せずにいた。
ただ、彼女の提案には戸惑いを隠せない。
「遊園地、ねぇ……」
行きたい場所があるとは聞いていたので、近場で買い物感覚で来てしまった。
それがまさか、遊園地とは。
「近辺って言ったって、県外じゃないか……本当にここに今から行きたいっていうのか?」
私は半ば呆れた声で尋ねる。
「ですです!」
紺は頷き、その意気込みを示すかのように身振り手振りが大きくなる。
ここにちゃぶ台があったらひっくり返していた。
こう「なんでやねーん!」と言わんばかりに。
俺は内心、頑固親父のような視線で彼女を見つめる。
「他に行きたい所はなかったのか?」
「ないですね、私はいつも直感と情熱で生きていますので♪」
「行き当たりばったりって言葉知ってる?」
それにしても、戸田急か……。
俺も一度は行ったことがあるが、少し抵抗感があるな。
「そもそも、なんでこんなに急なんだ? 準備ってものがあるだろ」
「撮影というのもありますが、たまには女の子らしいことをしたいって思ったからです♡」
紺の言葉には、どこか計画性の欠如を感じたが、意図は伝わってくる。
だが、めんどくさい……。
俺は彼女の動機に耳を傾けつつ、疑問が膨らむ。
県外で、日帰りで何時間もかける場所への訪問を、今から準備するのかと。
だからあえて俺は提案してみる。
「こういうのってもっと友達と行くべきじゃないのか?」
「友達はいません!」
紺は即座に返答し、俺の心には無意識の同情が芽生える。
「……イズミがいるだろ?」
俺が彼女の友人を思い出して言うと、紺は一瞬驚いた後、あっけらかんとした顔で「あっ、そうでした!」と笑う。
イズミも可哀想に……。
「それに、遊園地は友達だけの場所ではありませんよっ♪」
これはアレだな。
紺がさらに言葉を続けようとするので、俺は警戒して耳を塞ぐふりをした。
「あーあーあー」
半ば中二病じみたネーミングでくだらない技を披露。
ドキッとさせるようなことを言われると思ったからだ。
しかし、紺は私の手を強引に耳から引き剥がし、力強く言う。
「シューチさんとだったら、安心して行けるから頼んでるんです!」
「そ、そうなのか……」
その純粋な願いを聞いて、俺は抗しきれずに本音を漏らす。
「いや……それは嬉しいが、正直めんどくさいんだよな。片道何時間もかかると思ってんだよ」
それでも紺は、ひるむことなく自信を持って言う。
「でも前に行きたいところには行ってくれるって言ったじゃないですか」
「だったら前もって言えよ。どうしてこんなに急に?」
「唐突に思いついたからです!」
紺の答えに、日本の古き良き伝統芸。
吉本の漫才並みに転げそうになる。
「だからそれが困るんだよ……」
彼女の答えに、俺は頭を抱えた。
ため息をつきながら反論するが、紺は悲しげな顔でうつむく。
「ごめんなさい、急でしたよね……?」
その悲しそうな瞳が上を向いたとき、無言の訴えが俺の心を揺さぶった。
そんな顔をされたら誰だって弱いに決まっている。
……いや、俺が弱いのか?
深くため息をつきながらも、最終的には折れることを選んだ。
「はぁ……まあ、たまにはいいか」
半ば自嘲的に呟くと、彼女の顔が明るく輝いた。
「本当ですか!? やったーシューチさん大好きです~♡」
紺ににゃーん(意味深)されてしまった俺は仕方なく、紺のワガママに付き合うことになり、俺たちは戸田急ハイランドへの一日を過ごすことになったのだった。
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