第11話 ラーメン
女の子との食事。
店選びには自信がないが、ラーメン屋に関しては行きつけの場所があった。
味も、紺の要望に応えられそうなので一安心。
その道中の会話である。
「そういえば紺って、今日は何してたんだ?」
「え? 気になるんですか?」
「まぁ……気にならないと言えば嘘になるけど」
俺がそう言うと、紺はニヤニヤしながら言った。
「私の事好きなんですねっ♡」
「ラーメン屋寄るのやめるかー」
俺は踵を返して歩き出す。
「ちょっと待ってくださいよー!」
紺は慌てて追いかけてくる。
そして、さりげなく俺の腕を掴んでくるのは何の冗談か。
俺の言動はいつも逆効果になってしまっているような気がして何だか悲しい。
「冗談ですよぉ~実はですねー?」
ぎゅっと硬く締め付け、紺は語り始めた。
どうやら今日は事務所のライバーとコラボしていたらしい。
「やっぱりイズミちゃん以外にも事務所の方とは仲良くすべきかと思いまして~」
「へぇ、誰としてたんだ?」
仮にも部外者が聞くべきことじゃないとは思ったが、それ以上に俺は地雷を踏みぬいてしまった。
「水俣あおいさんですよ~♪」
「ぐふ」
素直に答えてくれた。
いいや、それは全然いいんだ。
俺は吐血混じりの咳が出てしまいそうなほどの衝撃を受けた。(伝わるだろうか)
「ど、どうしたんですかシューチさん!?」
「いや……大したことじゃない」
あまり聞きたくのない知人の名前が出てきたからだ。
きっと他人であることは承知だが、どうにも心が落ち着かない。
「それにしては、なんだか顔色悪いですけど……」
「だ、大丈夫……紺が有名な方とコラボしてるのが嬉しくてな……」
「にしては明日世界が崩壊するかのような表情ですよ!? すごく不安になるんですけど……?」
紺と会えてもう引きずらなくなったと思ったのに、まさか掘り返されるとは。
いや、違う人なんだしこんなことで気にするのも良くない。
忘れよう……。
「こ、これ以上紺の認知度が上がったら遠くに行ってしまいそうな気になって……? さぁ、ラーメン屋に着いたぞ」
「!」
店に入って気分を紛らわせようと扉を開ける。
何名か聞かれた際に紺が「二名でーす♡」とルンルンと答えていたことに、俺は余計なことを言っていた気付き後悔。
そして、食券機の前に立ちメニューを眺める。
「どれにする?」
「お腹空いたので煮卵トッピングにします♪」
「小さな贅沢だな」
それだけでいいのかとクスリと笑ってしまう。
俺はもっと食べるので炒飯セットなるものを選び、食券を買って店員に渡した。
少し年季の入った店内は狭く、客同士がひしめき合っている。
カウンター席しかなく、回転率と効率性を重視しているような店であった。
「確かに女の子は来づらい店かもですね」
紺は素直な感想を述べた。
「まぁ、女でも来る奴はいるけどな」
俺はそう言いながら店員に食券を渡し、席に座る。
すると、紺は俺に身を寄せて囁いた。
「私は女の子として見てくれますか……?」
「……っ!」
その質問に思わずドキリとしてしまう。
「だって今からラーメンを啜るような女の子になっちゃうんですよ?」
いや、そんなつもりは一切ないが……。
紺の容姿は整っていて、とても可愛らしい。
そんな子に密着されこんな事を言われたら、意識してしまうのは当然だ。
「そ、そんなの関係ないし……み、見てるよ……」
俺はそう答えるので精一杯だった。
すると、紺は嬉しそうに言うのだ。
「えへへ……ありがとうございます♪」
その笑顔にドキリとさせられていると、目の前にドンッと大きな器が置かれた。
「あいよお二人さん“アツアツの”ラーメンお待ち!」
「っ!?」
店員のその一言に、俺は思わず吹き出しそうになってしまった。
若干イラつき気味だったような。
……ラーメンがアツアツなのは当たり前だろうに。
「わぁ~♪」
紺は嬉しそうに割り箸を割る。
心待ちにしていたラーメンが来たはずなのに、違う意味でドキドキしてしまっている。
そして——
「いただきます」
「いただきまーす♪」
二人で手を合わせて食べ始めることにした。
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