第4話 キャラ設定

 それから俺達は企画のシナリオを考えていた。

 これが良い、もっとこうしたほうが良くなりそうと熱く語り合う。

 紺のテンションはとても高く、視聴者を楽しませることを一番に考えていて、俺まで楽しくなってしまう始末。


「いや、ここはこういう意図があってですね」

「な、なるほど」


 同時に真剣な顔をする紺の表情を見るのは非常に珍しく、俺まで圧倒されてしまう。

 そうして仕上がった企画をいち早く実行することに


「……なんで『さわやか』なんだ?」


 俺たちが考えたのは「さわやか」というハンバーグ屋を探す旅だった。

 といっても、地元にあるチェーン店なので特別物珍しいモノでもない。


「やっぱり会社勤めのシューチさんは流行に疎いですね、最近SNSで話題になり始めてshort動画に頻繁に出てきますよ? まずさわやかのハンバーグの人気の理由は、徹底的にこだわり抜かれた製法と高い品質で、ローカルテレビでは何度もさわやかのハンバーグが取り上げられています。 お店だけでなく、ハンバーグを製造している工場内にもテレビカメラが撮影に向かうほど——」

「……なるほどな」


 熱く語り始める紺が止まるまで苦笑いで待った。

 二番煎じ感のあるネタではあるが、流行りのワードを取り入れることで再生数を掴みやすいとのこと。

 それだけではない熱意も感じられるが、もう一つ企画に取り入れた要素が俺の心を掴んだ。


「じゃあ準備はいいか?」

「もちろんです、早速始めましょう!」


 今回はGeoguessrという地図ゲームを使って、紺の知らない『さわやか』の店の位置を特定することに挑戦することにしたのだ


「なるほど、指定されたお店はここなんですね!」


 紺は最初から興奮していた。

 Geoguessrのアプリは開いており、静岡県の地図上で遊びながら、さわやかの正確な場所を特定するのが目的だ。


「ふふ、私をナメてもらっては困ります。こういうのは少し進んで看板を見ればいいのです!」


 画面を録画し、後で音声を加えるようなので俺も口出しをして良いらしい。

 なので、今思ったことを遠慮なく言った。


「そんなことしたらすぐに終わらないか?」

「あっ、本当だ! どうしましょう~……」

「この部分を編集でカットするから最初の位置に戻ったらどうだ?」

「いや、それじゃヤラせと変わりないです! あくまで自然体の画面操作をしたいんです!」


 良い案だと思ったのだが、紺には紺のやり方があるらしい。


「じゃあどうするんだ?」


 そう尋ねると、紺は困って


「う、うーん……」


 と首を傾げている。

 そこまで悩む事だろうか。

 俺は紺の配信をずっと見ているので自信満々に言ってしまう。


「いつものバカキャラを演じれば良くないか?」

「は、はいー!?」


 バンッと机を叩き、困惑した表情で俺の方を見る。


「ば、バカキャラを演じるべく看板の漢字を読めないことにするってことですか……!」

「あぁ、そうすれば動画の尺も稼げるだろ?」

「そういう問題じゃありません!!」


 じゃあ一体どういう問題があるのか。

 普段からやっていることじゃないのかと聞いてみるも、やはり不服そう。


「えーーー動画は配信と違って編集ができるので、もっと私の良い部分をみせたいんですよ。そんなことも分からないんですか」


 駄々こねる仕草は子どものよう。

 なかなか納得してくれない紺に対し、ため息をついて


「その方が可愛いと思ったんだけどな……」


 そう呟くと、紺の耳がピクリと動いた。


「可愛い……ですか?」


 聞き返してきたので当然のように答えてあげる。


「あぁ、配信と同じ可愛いキャラを見れないのが俺にとっては残念だ」

「看板の漢字も読めないバカなのに?」

「あぁ、だからこそ愛しさを感じてしまうんだ」


 少しだけ過剰に持ち上げると少し嬉しそう。

 だけど、少々のプライドを残した紺がこう言った。


「ふ、ふーん……シューチさんって私のことをおバカだと思ってるんですね。もういいでーす、勝手に位置特定しますから。位置特定は得意ですから♪」


 と、不安になるような言葉を残してアプリを再開し始めた。


「なんかわからないけどクセになるんだよな……」


 俺がボソリと呟くと、紺はいち早く反応する。


「今何か聞き捨てならないことが聞こえたんですけど?」

「いや、ただの独り言だから気にしないでくれ」


 失礼なことを言っただろうかと思い、俺は即座に誤魔化した。


「ふふ、まぁいいですよ♪ じゃあ再開再開っと~あれれ、この地名わかんないんだけど~~!」


 そして、おバカなキャラを演じる紺だったが、思ったよりも難航していた。

 慣れない土地からの「さわやか」を見つけるのは容易ではないらしい。数回の試行錯誤の後、紺は少しエリアを広げてみることにする。


「もしかして、もっと郊外の方かなぁ……」


 自然な尺稼ぎで、見ている俺も楽しかった。

 紺が別のエリアをタップした瞬間、何かを見つけたらしい。


「は、はままつ……? あっ、これなら分かるかも!」


 青看板を見つけた紺は、MAPを開いてその地名と駅を探し出す。

 画面上に小さなアイコンが現れたと同時に、紺は叫び出した。


「あーっ、わかった、わかった!」


 俺は釣られて急いでその場所を確認する。

 そして、そこには確かに「さわやか」と書かれたマーカーがあった。


「やったね、これで行けますよっ♪」

「あぁ、じゃあ今から食いに行こうか」


 俺たちは高揚感を共有しながら、その地点の情報を詳しく調べた。

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