第30話 来週の予定

 ——と、解散したと思ったら紺が家に戻ってきた。


「なんだ忘れ物でもしたのか?」

「シューチさん、言い忘れていたことがありました」


 改まってなんだろう。


「荷物が多すぎるので、また家に来てくれませんか……?」

「えっ?」


 荷物の仕分けをしたいからと、上目遣いでストレートに誘ってくる。

 確かに量は多いが、そこまで重たいものがあっただろうか。

 困っているなら助けてやりたいが……


「うーん、行ってやりたいが仕事もあるからなぁ……」


 だけど、俺は仕事でそんな余裕がない。

 家にいる時間の方が短いからな。


「いつでもいいんです、空けておきますから!」


 すると、食い下がって俺の手を握ってくる。

 なんだこの可愛い生き物は……と思うのだが、そこまで必死になるような事だろうか。

 別に俺じゃなくても良いと思うんだけどな。


「じゃあ、行くよ」


 なんて、つい了承してしまった。


「ありがとうございます! 助かります!!」


 満面の笑みだ。

 こっちまで嬉しくなってきてしまう。


「まぁ、俺で良ければ……でも忙しいから来週でもいいか?」

「ら、来週かぁ……」


 と、残念そうな表情を見せる。

 そうか、紺にも予定があるもんな。


「もしかして予定が入ってたのか?」

「い、いえそういうわけでは……っ!」

「無理そうなら他の人にあたってくれた方が早いと思うぞ?」


 若干突き放し気味な言い方だが、紺には配信という仕事がある以上、あまり無理に時間を割いて欲しくないのだ。

 その点については彼女も理解しているハズである。


「そ、それはダメです! 意地でもシューチさんを待ちます!」


 頑なに俺を指名してくるので、ホストにでもなった気分だ。


「お、おう……? でも大丈夫なのか?」


 忙しいのはお互い様。

 だから気を遣ったのだが


「はい、問題ありません!」


 なぜかムキになっているようにも聞こえる。

 気のせいであって欲しいけど……。


「忙しいのに無理言っちゃってごめんなさい」

「いいって、なるべく早く行けるようにするから」

「はい、じゃあ……当日もご飯を作って待っていますからねっ♪」

「お、おう……」


 ヤケに楽しそうだ。

 何か企んでいるのかと疑ってしまう。


 そういえばさっきイズミに「最近よく絡むよね」と言われたことが気になった。

 そのせいか、俺は少しだけ遠慮してしまった。


「やっぱり……いつも飯作らせるの悪い気がするんだよな」

「え、今更何を言ってるんですか? いつも喜んで食べてくれるのはシューチさんですよ?」

「それはそうだが……」


 俺のせいだとでも言いたげに。


「次は何が食べたいですかっ?♪」

「いや、特には思いつかないが……」

「じゃあ私が考えておきますっ、楽しみにしててくださいねっ♡」


 良いのだろうか。

 それに紺は今回も強引だ。何かにつけて誘ってくる……。


 何か事情でもあるのかもしれない。

 本当に俺じゃないと駄目な理由があるとか?

 いやいや、そんなわけあるまい。


「じゃあ……このダンボールは宅配の人に送らせるから、後日ちゃんと届いたかも連絡してくれ」

「分かりましたっ、じゃあまた来週っ♪」


 そうして紺は家を出ていく。

 また来週も紺と会う約束をしてしまった。


 本当にこれでいいのかと、俺は残ったダンボールを見つめる。


「やっぱり最近妙だよなぁ……」


 これまで何もなかった俺の生活がとんでもなく変わってきている。

 慌ただしい日々、充実感を感じているが同時に不安もあった。

 こんな毎日がいつまでも続くのだろうか。

 そんな考えが頭を過った。


「お前たちはどう思う?」


 紺の家に送る予定の段ボールの山々。

 当然、返事が返ってくるはずもなく。


「聞いても仕方ないよな、とりあえずさっさと送ってしまうか」


 業者に集荷依頼すると、すぐに来てくれた。

 それらを運んでもらうと元の部屋の光景が広がる。

 同時に、寂しい気持ちにもなった。



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 体調崩して執筆速度落ちました、スイマセン。汗

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