第29話 気になる
「ふぅー食べた食べた~♪」
俺が手を合わせて「ごちそうさま」と言うのに対し、飯を食べ終わるとすぐにごろんと寝転がるイズミに俺は注意した。
「おいおい行儀が悪いぞ」
俺という人の家でよくもまぁそんなだらけた姿を晒せるな……。
おへそがチラリと見えてしまっている。
だけど、彼女は気にした様子もなく仰向けで言った。
「いいじゃないのー誰かが見てるわけでもないし」
「俺と紺が見てるだろ」
「え……アンタも見てるんだ」
「もしかして俺っていないもの扱いされていたのか?」
遠回しなイジメを食らってしまう。
いや別に良いんだけどさ。
俺は本当に自由な奴だな……と思うだけだから。
「女なんだから場所を選ばず女らしくした方が可愛らしいと思うぞ」
「えーアタシのこと女の子だと思ってみてくれてんの? アハハ、冗談は視聴者だけにしてよねw」
「職業柄その発言はどうなんだ?」
もしかして俺も紺に同じように思われているのか?
そう思って視線を向けてみる。
「どうしたんですか深刻そうな顔をして……?」
「いや、別に」
そんなこと思ってないよなと安心すると
「まぁ……たまにダメなコメントを残すシューチさんも良いと思いますよ……?」
「ぐは」
致命傷を食らってしまう。
少しだけ立ち上がれなかった。
「ってわけで~アタシたち起き上がれないから、後片付けお願いしていいー?w」
「もちろんだよ、イズミちゃんは面倒くさがるだろうなって思ってたから」
「あははー辛辣だねー」
不可抗力で楽な役回りとなってしまった、申し訳ない。
だけど紺はまんざらでもなさそうな態度で食器を洗いに行った。
カチャカチャと、皿が合わさる音が聞こえてくる。
そんな中、自分の上着を羽織り始めて帰り支度をしているイズミを見つけた。
「なんだ、もう帰るのか」
「そうねーなんだか二人の邪魔したら悪そうだな~って思って」
気にし過ぎではないか?
むしろ、二人の邪魔をしているのは俺の方だと思うが。
「別にそんなことないだろ、だってお前がいる時の反応はやっぱりいつもと違うぞ?」
「アタシも紺がアンタと一緒にいる所を見てたら違うなって思うわよ」
お互いに同じことを思っているようだが、イズミの場合は少し違う。
紺には聞こえないように、小さな声で話してきた。
「紺がアタシの事友達だと思ってくれてるのは分かるけど、分かるからこそ遠慮したくなっちゃうものがあるのよ」
「どういうことだ?」
やはり、長いこと友達付き合いをしていると、相手の些細な仕草で何を考えているのか分かるようになるものだろうか。
すると彼女は、俺を部屋の端の方へと手招きするのだ。
「ちょっときて」
「なんだよ改まって」
紺には聞こえたらマズい話をするのだろうか。
耳打ちするように俺に話しかけてくる。
「……やっぱ思ったけど、紺ってばアンタに相当懐いてるよね」
なんだ、そんなことか?
大した内容じゃなくて良かったと思い返事をする。
「まぁ……これだけ飯を作られたら好意を感じてしまうよな」
「なにその煮え切らない反応、寝取られてもいいわけ?」
「誰にだよ」
「アタシに」
「はぁ、だから別に紺とはそういう関係じゃないって言ってるだろ……」
そんな冗談を言いに来たのかと呆れてしまうと、変化球が飛んでくる。
「へ、アンタをだけど」
「……何の得があるんだ?」
クスクスと笑っているので俺をからかっているのだろう。
はぁ……とため息をつくと、改めてイズミは切り出した。
「冗談はさておき、やっぱり最近の紺はおかしいと思うのよねー」
「どういうところが?」
キッチンにて、鼻歌混じりで食器を洗う紺を見てみるが、何も分からない。
すると少しショックな一言が飛んできた。
「シューチと絡みに行きすぎなところとか」
「……もしかして、止めた方が良いか……?」
少し胸が痛い。分かっていた。
十も離れた女の子と密に仲良くするのは世間体よろしくないし、そもそも立場上会うべきではないことをまた思い出した。
あぁ、やっぱりイズミも常識人なんだな……。
「わかってるよ……今すぐにとはいかないが、そのうち紺離れをしようと思うから……」
俺は飯を作る紺に甘えていた。
恩を売った俺に責任があるから、その責任を果たすまで……と変なことを考えていると叩かれる。
「その反応しつこい、だからいいって」
「……すまん」
痛い事を考えたせいで、痛いモノが飛んできた。
だが、まだその発言の真意が分かっていないのでイズミに尋ねてしまう。
「で、確かに最近よく会うようにはなったが、何かおかしいのか?」
「そっか、気付いてると思ったんだけど……まぁいいや、最近仕事にイマイチ熱が入っていないっていうか」
その一言にふと思い出す。
「確かに最近配信時間が短いよな」
もっと彼女の配信を観ていたいなと思う部分がありつつも、それを許してしまうのがファンである。ファンとは振り回されて嬉しいものだから。
イズミは俺に同意してくれた。
「そうそれ、しかも配信の内容も薄っぺらいし……まぁコンは可愛いから何でも許されるんだけどね」
その言い方だと、遠回しに「つまらない」と聞こえてしまうがあえて俺はスルーした。
「収録で会う時なんか、ぼーっとしてることが多いのよねぇ」
「それって、紺が忙しいのに俺が飯を作らせてばかりいるからか……?」
「いや、それは関係ないって」
きっぱりと否定された。
じゃあ他に原因があるのだろうか?
「まぁ、アタシが気にし過ぎてるだけかもしれないけど……シューチが紺に何かしたとかじゃないよね?」
「俺は特に何かをした覚えはない」
「そうよね、配信のことだし。やっぱり原因が他にあるのかな?」
もし俺が何かしでかしたなら、何があるのだろう。
だけど、答えは出ない。
「紺が悩んでるなら相談に乗ってあげたいと思ってるけど、多分その役目がアタシじゃないような気がして、だからシューチに聞いてみたのよ」
イズミは悩んでいた。紺の様子がおかしいことには気付いていたが、それが何故なのかまでは分からなかったらしい。
そして、その原因を俺が知っているのでは? と考えたようだ。
「ごめんね~変なこと聞いちゃって」
「大丈夫だ、それに俺も紺がどうしてそうなっているのか知りたいと思っていたから」
「お、意外と好感度高いのね~」
「そういう誤解を招く言い方やめてくれ」
そりゃあメシを作ってくれるから、それなりに感謝と好意を感じている。
「ま、アタシがとやかく言うことじゃないけどさ、やっぱり同業のやる気って気になるじゃん。だからあえてアンタに聞いてみたのよ」
その一言に、俺はクスリと笑う。
「友達想いなんだよな」
「ち、違うわよ! アタシと紺は友達以上の関係だし!」
「まだそれを引きづってるのか」
なんて大きな声を出すので、紺が振り向いた。
「どうしたんですか二人で内緒話なんかして」
「いや、大した話ではなく……」
「ズルイですよ~私も混ぜてくださいっ!」
紺のことだから、混ざられたら困るんだけどな。
そして、他愛のない話をしてこの場は解散となった。
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