第26話 勿体ない

「は?」


 またそれしか出てこなかった。

 何故なら俺の家に二人の女の子がいるからだ。


「まったくそこまでキレなくてもいいでしょうに」


 一人はもちろんイズミである。

 俺の家に不用品ゴミを送りつけてきたから取りに来いと言ったからだ。

 やれやれと言わんばかりに手を広げているのだが、迷惑行為をしでかした自覚はあるのだろうか。


「それで……どうして紺までうちに来たんだ?」


 涙ぐんだ紺に恐る恐る尋ねた。


「どうしてって、あんな酷いことを言われたら……私……っ」


 イズミが送り付けた荷物は紺が送ってきたのだと勘違いをした。

 だから電話で誤解だったと謝ったのだが、彼女は納得がいかないようである。


「本当に悪かったよ、あれは紺じゃなくてイズミが……」

「ううん、私が悪いんです……いつも迷惑行為ばかりしでかすから、シューチさんを困らせてばかりで……っ」

「あ“ぁっ!? なにアタシのコンちゃんを泣かせてんだテメッ!!」


 その最中にイズミが割り込んでくる。


「違うんですイズミちゃん……わ、私が勝手に泣いているだけで……シューチさんはなにも悪くないです……」


 その言葉に何を想ったのか、ふと冷静になるイズミ。


「わかった、キミを傷付けたこの豚を殺せばいいんだね……」

「俺の家が屠殺場にする気か」


 紺が同情を買う仕草をしてしまうので、余計にイズミが逆上してしまう。


「いや、そもそもお前が原因だよな? フォローの一つくらいあってもいいだろ」

「え、アタシのせいなの? なんで?」

「自覚がないだと……!?」


 呆れてため息が出てしまう。

 仕方ないのでもう一度言った。


「見ろ、俺のクソ狭い部屋に大量の段ボールがあるの分かるよな?」

「えぇ分かるわよ」

「邪魔になると思わなかったのか?」

「え、なんで?」


 俺は頭を抱えてしまった。

 どこから理解できていないのかが分からない。


「普通に嬉しいでしょ、見てなさい」


 そう言いイズミは段ボールを開封する。

 すると、中からメイド服が出てきた。


「これ、アタシが一度来た衣装なんだけど」

「もしかして俺に着ろっていうのか?」

「は、キモ……これでアタシの匂い嗅ぐのかと思ったんだけど……」

「どっちも気持ち悪い発想なの気付いてるか?」


 他にも色々ある。

 たとえば『お風呂上がりのアイスは美味しいなぁ~♡』というセリフを言わせたマイク。

『ふかふかであったかーい』と言わせたひざ掛け。

 そして『お腹いっぱいになっちゃったぁ~……』と言わせた謎のお菓子。


 と、イズミは商品紹介をしてくる。案件かな?

 明らかに配信で不要になったモノばかりである。


「だけど、何の連絡もなしにこんなもの送られたら怒るだろ普通」


 もう部屋の半分が段ボールで埋め尽くされている。

 生活スペースが削られてしまい、文句の一つを言いたいのだが


「ちょっとしたお茶目じゃない」

「ははは可愛いな、バカ野郎。んなワケあるか」


 こいつの神経どうなってんだと言わんばかりに開き直るので、怒っても無駄かもしれない。


「まぁアンタへのプレゼントよ、感謝しなさいよね」

「絶対使わないだろこんなもん」

「要らなかったら捨てればいいじゃない」


 つまり、全部ゴミになるんだよなぁ……と思っていると、紺は言った。


「そりゃあ怒りますよ!!」


 何故か俺よりも怒った顔をしていた。

 紺はイズミに詰め寄る。


「要らないモノがあるならどうして私に何も言ってくれなかったんですか!」

「え、コンちゃん……!?」

「友達じゃないですか、私だってイズミちゃんのモノ欲しかったですっ……!」


 思いがけず、とても切実な想いをぶつけられている。

 その様子にイズミは、少しだけ感動を覚えていた。


「そっか……コンちゃんも私の私物が欲しかったんだね……」


 ふるふると震え、感情を隠し切れないでいる。

 コイツは紺のことが大好きだからそう言われたら嬉しいに決まってるもんな。


「うん……だってお金になるじゃないですか……」

「そうだよね、お金に……えっ?」


 だが、イズミの純情はあっさりと裏切られた。


「メ〇カリに出せばいくらで売れると思ってるんですか、勿体ないですよ!」

「えっ、使ってくれるんじゃないの……?」

「いやいや、使いませんよ? 売れればそれでいいんですよ」


 それを聞いた瞬間、イズミの表情筋が引きつった。

 なんだこの茶番劇は……。


「じゃ、じゃあ……このマイクは使わない……?」

「最近予備を買ったので、別に要りませんよ」

「えぇ……じゃあこのひざ掛けは?」

「少し使用感がありますが、写真次第で高く売れそうですね!」

「こ、これは……?」

「良い趣味してますねっ♪ 欲しい人はたくさんいると思います!」


 ガサガサと段ボールを漁る紺の瞳はとても輝いていた。


「紺ちゃん」


 俺は思わず口を挟んでしまった。


「どうしたんですかシューチさん」

「……なんだか楽しそうだなと思って」

「はっ……! わ、私はただシューチさんの生活を応援しようと思いまして!」


 嘘つけ。

 絶対販売目的で持っていこうとしてるだろ。

 そして、俺はショックを受けているイズミに声を掛けた。


「紺の貧乏性は昔からのことだ、気にするな」

「あぁ……ウン……ソウダネ……」


 イズミは、紺が自分のモノを大事に使ってくれるという期待を裏切られ、がっかりしていた。


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