第25話 不法投棄

「……は?」


 目の前の段ボールの山に驚愕する。

 何かの間違いではないのかと、固まるしかなかった。


「菊川周知さんですよね、ハンコお願いします!」


 配達員は善人そうな、気の良い男だった。

 だけど、この荷物の量に俺は思ってしまう。

 コイツは悪意を持って俺に近付いてきた“敵”ではないかと……。


「……イヤなんだが」

「えぇっ!?」


 つい本音で配達員を困らせてしまったが、すぐに「間違えた」と訂正し、ハンコを押して荷物を受け取った。

 拒否したら困るのはあっちだからな、俺も常識はわきまえているつもりだ。


「し、失礼しましたー」


 そそくさと帰っていく配達員を見送った後、俺は呟いた。


「それよりも……」


 宛先が書いていない辺り悪意を感じた。

 配達ラベルを見てみると、お裾分けと書いてあるがよく分からない。


 とりあえず、アパートの住民に不審感を与えるわけにもいかないので家に荷物を運び、中身を確認した。


「これは……」


 段ボールの中身を見て、思わず息を呑む。

 その段ボールの中には大量の小道具が入っていた。

 まるで配信者が使いそうな……


「……」


 すぐさま俺は電話を掛けた。

 すると三コール以内に出てくれる。


『シューチさんっ、どうかしたんですか??』


 紺ちゃんの声は今日も可愛い。

 だけど、可愛いでは許されないことはこの世に山ほどあるのだ。


「お前に話しておきたい事がある」

『どうしたんですか急に改まって?』


 とぼけているのか。

 いいだろう、こちらにも考えがある。


「……お前には失望した」

『どういうことですか……?』


 自覚がないのか、それともまだしらを切るつもりなのか。


「本当に呆れたやつだ……俺はお前のこと少しは良い奴だと思っていたんだがな」

『え、えぇっ!?』


 素っ頓狂な声を上げる彼女だが、そんな反応でも騙されることはない。

 これまでの関係値を考えると、心が痛くなる。

 だけど……今言わないともっとツラくなるだけだ。

 今回ばかりは、きっぱりと言ってやることにした。


「言っただろ、こういうことはもうやめようって」

『配信者と視聴者が会うことがですか……?』


 少しズレているが、まぁそれも原因の一つかもしれないな。


「確かに俺たちは会っちゃいけない関係だな、だからこんな事が起きたんだろう」

『ご、ごめんなさい、私……な、何にも自覚がなくてっ、その……っ』


 困って取り乱し始めている。

 今更取り繕った所でもう遅い。

 追放されたパーティに見返す主人公のような気持ちで言ってやった。


「言い訳はもういい、俺が言いたいのはただ一つ。少し頭を冷やせ」

『そ、そんな……』


 まぁ二度と会うとは言ってない。


『ごめんなさいシューチさん、ごめんなさい、ごめんなさい……』


 何度も謝る声が聞こえてきて胸が苦しくなった。

 謝ってももう遅いのだが、彼女の性格上こうなる事は予想済みだ。

 だからこそ、俺は最後の言葉を告げることにした。


「もう終わりだよ、今までありがとう」

『ちょっと待ってください……シューチさんっ、シューチさぁん——っ!!』


 そう言い残し、俺は通話終了ボタンを押した。

 ……これで良かったはずだ。

 これ以上関わっていてもお互いに不幸になるだけなのだから……。


「……」


 なのにどうして、こんなに胸が締め付けられるのだろうか。

 きっとそれは、彼女が嫌いになったとかそういう訳ではないのだと思う。

 ただ、このままじゃダメだと本能的に感じ取ったのだ。

 俺は彼女と関わるべきではなかったのだから——


 ——ピロピロピロリン♪


 と、ナイーブな気持ちを抱えている最中、着信が鳴った。

 紺だろうなと思って画面を覗くと『イズミ』の名前がある。


「あいつが連絡なんて珍しいな」


 こういう場合は出てやった方がいいだろう、そう思って電話に出た。


『ヤッホー?? シューチ元気―??』


 妙なハイテンションで俺の鼓膜を震わせる。

 相変わらず騒々しい奴だなと思った。


「インフルにかかったけどもう治ったよ」

『えーマジー?w なんか疲れてそうな声してると思ってたんだよね大丈夫~??』


 心配してくれているのか、ふざけているのか分からないが、きっと後者なんだろうなと思う。


「あぁ、もう平気だ」

『よかったー。ところで話は変わるんだけどさー、アレ受け取ってくれた?』

「なんだよアレって」

『いや分かるでしょ~昨日配信見てくれたんだからさ』


 嫌な予感しかなかった。

 確かに覚えている、イズミが配信中に言ったことを。


『ほら、配信で要らなくなったモノを贈るって言ったじゃん』


 ……俺に?

 え、あれイズミが送り付けてきたやつだったの?

 てっきりまた紺が法に触れるようなことをやってきたのだと思っていた。


「なぁ」

『なによーあっ、もしかしてお礼だとか?w』


 コイツの方がタチ悪そうだ。

 紺には悪い事をしてしまったとは思うが、まず先にコイツへ言わなくちゃいけないことが出来た。

 類は友を呼ぶ。

 それが頭に浮かんだと同時に、イズミに言ってやった。


「——不法投棄って知ってるか?」

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